第10話 温泉回って大事ですよね。おっぱいって水に浮くんですか?

 全員の準備が整って、後はみんなで遊ぶだけだった。

 砂浜でボール遊びをしたり、海に入って水をかけあったり、また砂浜で城を築いたり、磯で水棲動物を採取したりと、あっと言う間に陽が傾いていった。


 大輝は遊び疲れた体に鞭を入れて様々な荷物を担いで旅館まで戻り、汗と塩をシャワーで洗い流した。

 少し休憩を入れてから、定番のお風呂の時間に移った。


 今日という日ばかりは男に生まれて後悔したと大輝は思った。

 風呂といっても当然だが混浴なわけがない。一緒に浴場のある場所まで行った所で更衣室の前で和気藹々と楽しそうな女性陣と別れ、一人ぼっちで男湯の暖簾のれんを潜る。


 広々とした更衣室で貸し切り状態を満喫できるとはいえ、寂しいことに違いはない。ばっさりと服を脱ぎ捨てて浴場に飛び込んでいく。

 隠す必要も何もなく、解放感だけはあるといっても、そこはかとなく悲しい。空元気で温泉に飛び込んだとしても、すぐに意気消沈せざるをえない。

 壁一枚挟んだ向こうにある女湯から聞こえてくる楽しそうな声にため息をついて、せめて妄想だけでも混浴気分に浸るため、大輝は静かに目を閉じた。




 さて、更衣室前で大輝と分かれた女性陣であるが、高校生三人と教師が一人とはいえ、美穂の精神年齢が幼いためか、ほとんど同年代四人組と変わらない感じだった。

 合宿とはいえ名ばかりなだけあって無礼講でもあり、そもそも美穂に教師としての威厳もない。


 美穂は気兼ねなく服と下着を脱ぎ捨て、大人らしい肉体をタオルで隠すことすらせず、衆目に晒していた。

 胸は小振りとはいえ形が良く、引き締まったお腹と熟れた桃のようなお尻が高校生と大人の差を明白に主張している。


「じゃ、お先に失礼させてもらうわよ。うふふふ、温泉一番乗りぃ」

 美穂は一番子供っぽく浴場に突撃し、マナー悪くもそのまま温泉の中に飛び込んで行った。


「他のお客さんまだ誰もいないですよね……?」

 ようやく下着姿になった明日香が左右を見回して言った。

 籠に他の客の服はなく、美穂が一番乗りであることは間違いない。

 乃木坂学園の恥を世間に晒すことがなかったと安心して、躊躇いながらもブラのホックを外した。


 二番目に全裸になったのは葵で、彼女もタオルで裸を隠すような真似はしなかった。彼女なりのプライドなのだろう、胸が微かに膨らんでいるだけとはいえ気にする素振りすらなく、やや薄い下の毛も堂々と衆目に晒していた。

 傷一つ、汚れ一つない少女のような裸体は明日香の目から見ても美しく、張る胸がないとはいえ、堂々と浴場に行進していった。

(会長ってお尻が形が良くって可愛い……)


 三番目は未来が続き、いつもの三つ編みを解き、メガネも外している。

 そのおかげか年齢よりもずっと大人びて見え、前の二人よりも肉付きがいい裸体を惜しげもなく披露していった。

(篠原先輩くらいだったらよかったのに……)


 転じて明日香は自分の体を見下ろし、ため息をつく。

 ブラのホックを外すと拘束から解放された乳房がぷるんと揺れた。胸が大きすぎてお腹の方が見づらいものの、むっちりとしたラインが覗いている。


 このゆさゆさと揺れる胸は明日香にとってコンプレックスでしかなかった。

 男女問わず好奇の目で見られるし、特に裸になると女子から触られたり注目を浴びたり、嫉妬されたりもした。

 乳輪がやや大きく感じるのも不満の一つでもある。

 だからできれば同性相手でも晒したくないし、もっと小さければよかったのにと思わざるをえない。


 パンツも脱いで籠の中に入れると、次はバスタオルを手にとって体に巻き付けた。胸もさることながら、スレンダーな葵や美穂と比べると自分が太って見える気がするのも恥ずかしいところだった。


(ダイエットしておけばよかった……。大輝にデブってるって思われたかなぁ……。会長や先生と比べられるとつらいなぁ……)


 憂鬱な気分で浴場に赴くと、先に入っていた葵から朗らかな声が飛んできた。

「明日香ァ、バスタオルはマナー違反だぞ」


 バスタオルを巻いたまま明日香は掛け湯をして、躊躇いつつも全裸になり、そっと温泉に浸かった。できるだけ隅の方に位置取るつもりだったものの、そんな気持ちをつゆとも知らない葵がさっと明日香の横に近寄ってきた。


「温泉は気持ちいいな」

 そう言って葵は頭の上で組んだ手をぐっと伸ばした。お湯は無色透明なため肌は丸見えだった。

 可愛らしいささやかな膨らみも、それを飾るピンク色のさくらんぼも、はたまた大事な所を申し訳程度に隠す毛もすべて明日香の視界に入ってくる。

 それはつまり葵にも明日香の全部が見えているというわけで。


「おおっ、すごいな。話には聞いていたが、おっぱいって本当に水に浮くんだな」

 明日香にとっては当たり前なことも、葵にとっては新鮮なことのようだった。

「葵ちゃんのおっぱいは浮きようがないいものね」

 いつの間にか葵の側に迫り寄っていた未来ががばっと抱きついて後ろから葵の胸を鷲掴みにした。


「くっ、未来っ、悪ふざけはやめないか」

「こんなのただのスキンシップじゃない。水に浮かなくても葵ちゃんのは可愛いわよ」

「そういう未来だってよくわからないだろ。んっ、あっ……」

「ふふっ、小さくても敏感なのね。ねぇ、もっと気持ちよくなりたい?」

「いい加減に……しないかっ!」


 葵はお湯をバシャバシャと撒き散らしながら未来を振り解き、さらに頬を膨らませながら彼女にお湯を投げつけた。

「もう。葵ちゃんは相変わらずおこりんぼなんだから」

 悪びれもせず未来は笑う。


 ぬかに釘でしかないことに諦観ていかんしつつ、葵は自分の胸をさすって勃ってしまった突起を落ち着かせた。


「未来、悪ふざけが過ぎるにもほどがあるぞ」

「あらあら、ちょっと揉んで大きくしてあげようと思っただけじゃない」

「揉んだくらいで大きくなるなら苦労はいらない」

「うふふ、まるで実践済みみたいに言うのね。でも、自分で揉んでも効果はないって言うわよね。男の子にやってもらうのが一番らしいけど、女の子同士でもきっと効果はあるんじゃないかしら」


「他人でもそうそう効果があってたまるか。それに、百歩譲って大きくなるとしても、未来にだけは頼まないぞ」

「もう、つれないんだから。減るもんじゃないんだし、ちょっとくらいスキンシップしたっていいじゃない」


「いや、お前に揉まれると本当に減りそうなんだが」

「それひどい。去年の合宿の時にも散々揉んであげたのに、減ったりはしなかったでしょ?」


「へぇ、二階堂ちゃんあれから一年経つのに大きくもなってないの?」

 にこにこ笑顔で美穂が会話に割って入ってきた。

 葵は美穂にも睨みつけて全力で否定した。


「ちゃんと三ミリくらい大きくなってますから!」

「ぜんぜん変わり映えしないけどね」

「未来だってそんなに変わってないじゃないか」

「あらあら。あたしは一センチほど大きくなってるわよ」

「先生もそれくらいおっきくなったー」

 味方だと信じていた美穂にも裏切られ、葵はぐぬぬとへこみながらきつく唇を噛んだ。


「葵ちゃんは大きくならない方が可愛いわよ。

 小学生みたいなおっぱい可愛いっ」

「そうそう、二階堂さんの健気なしょっぱいは魅力的よ」

 さらに追い打ちをかけられ、葵はいっそのことこのまま湯船に沈み込みたい気分にさせられた。


「明日香、他人の振りみたいにしてないでちょっとは助けてくれ」

 葵ら三人が盛り上がっている中で、明日香は戦火から遠ざかるように隅の方へこっそり逃げていた。

 いきなり指名されて驚きつつ、困惑したように微笑んで葵と未来、美穂の顔を見る。

「えっと……」


「明日香ちゃんに話を振るなんて、葵ちゃんも無謀なことをするのねぇ。

 明日香ちゃんと比べたら葵ちゃんの胸なんて真っ平らと同じじゃない。

 さぁ、明日香ちゃん、葵ちゃんにとどめを刺してあげて」


「その……、大きくてもいいことなんてないですよ。

 男の人からはジロジロ見られるし、女友達にはよく揉まれるし。

 やっかまれたり、嫌味を言われたり。

 それに、谷間とか胸の下に汗をかいちゃうし……」


「一度でいいからそんなとこに汗をかいてみたいわ。

 ってか、未来よ、お前だって汗かけないだろ。

 ハハハ、明日香から見れば私もお前も五十歩百歩ということだな」

 もうやけくそで開き直るしかなかった。

 とどめを刺されるどころか清々しく負けた気分で、葵はむしろ胸を張ってからっと笑う。

 当然、張る胸がないのだが。


「そんな、会長の胸も形が良くて綺麗じゃないですか。

 わたしのは年取ったら垂れそうだし、それでなくても乳輪が大きい気がして嫌なんですから」

「そうかそうか。世辞でも嬉しくはあるな。

 それと、そんなに大きくはないだろ。その胸とのバランスを考えればむしろ小さい方だろう」


 二人が変なフォローをしあっているうちに、未来が悪魔のような笑みを浮かべてお湯の中に潜った。

 どうするのかといえば、そのまま潜水して明日香の背後に回り込み、息が続かなくなって水面から飛び出したと同時に隙ありと言わんばかりに明日香の胸を鷲掴みにした。


「ひゃっ?」

「へぇ、見た目でも柔らかそうだったけど、これはとろけるような揉み心地ね。

 まったく羨ましいわー」

「あっ、ちょっ、篠原先輩っ!

 やだっ、あんまり揉まないでくださいよっ。

 んっ、変な声が出ちゃうっ……」


 未来は自分の手ではとても隠せない大きさの丸みを左右リズムよく揉みしだいていく。

 手の中でそれはマシュマロのようにとろけながら形を変えて行き、さらに手のひらからこぼれた柔肉がぽよぽよと踊る。

 女の子同士でも絶句するような光景に葵と美穂は息をのみ、明日香は恥ずかしそうに頬を赤らめながら悶えていた。


「よいではないか、よいではないかー。

 ふふふ、でもこれは本当にデカくて柔らかくて素敵ね。

 ずっと揉んでいたくなっちゃうし、男なら挟んでもらいたいとか言いだしちゃうわね」


「あっ、んっ、もうっ、篠原先輩いい加減にしてくださいっ!」

 さすがにギリギリのところで明日香は強引に暴れて未来を振り解き、浴槽の隅の方へ逃げていった。

 明日香は耳まで真っ赤にしながら、うずくまるように両腕で胸を隠して俯いた。


「明日香ちゃんったらけっこうイケズなのね。女の子同士なんだからちょっとくらいのスキンシップは大目に見てよ」

「いや、未来はさすがにやりすぎだろう。明日香が可愛いからってやりすぎだ」

 すかさず葵が冷静に未来を窘め、彼女は珍しくしゅんとした。


「明日香、大丈夫だったか?

 すまないな、こいつは合宿とか旅行とかの時はいつもこんな感じでな。

 男も女もイケる口だから、被害が後を絶たないんだ。

 せめて合宿前に一言釘を刺しておくべきだった。すまない」

 葵が神妙に頭を下げると、明日香はかえって申し訳なさそうに手を振って大丈夫と笑った。


「そのっ、別に篠原先輩が嫌ってわけではないです。

 ただちょっと……、その……気持ちよくなって変な感じに……」

 途中で自爆してしまったと気づき、今度は明日香がお湯の中に潜ってしまいたい気分になった。


「ほら、葵ちゃん、明日香ちゃんもヨカったって言ってるじゃない。うふふ、今夜はもっといっぱいキモチよくしてあげるからね」

「調子に乗るな!」


 と、こんな感じに女湯から賑やかな声が聞こえてきて、大輝は逆上のぼせそうになっていた。

 さすがにこのままお湯に浸かっていると鼻血が出るか気を失いそうだったので、やや惜しいながらも早々に風呂から上がることを決めた。

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