第6話 体育祭はえっちなイベント多いですよね(中編)
再び大輝がテントに戻ってきた時には既にいつもの葵に戻っていた。
他のスタッフもほとんどが葵の息がかかっているいわば身内のため、先ほどの変事はなかったことのようになっていた。
明日香も競技を終えてとっくに戻ってきていたが、公開羞恥プレイのダメージは大きく、隅のイスに座って落ち込んでいた。
競技の方はというと、高得点競技の一つであるクラス選抜騎馬戦が行われていた。
その騎馬戦では明日香が注目を浴びたのとはまったく逆の方向で一人の女生徒が注目を集めていた。
ショートヘアでスタイルも良く、明るく健康的な雰囲気の少女であり、容姿もなかなかのものを持っていた。
それだけではなく、一騎当千と言わんばかりの強さを発揮し、獅子奮迅の如く相手から次々と鉢巻を奪ってポイントを積み重ねていた。
また歓声が沸き上がり、彼女は素早く相手の頭から鉢巻を奪うと、これまで獲得した鉢巻の数々を風にたなびかせながら天高く掲げた。
「相変わらず容赦のない奴だな。高得点を取ったところで部費の上積みは望めないといいうのに、よくやるものだ」
葵が自慢気に評するのを見て、大輝は不思議そうに尋ねた。
「あの人、有名なんですか?」
「なんだ、知らないのか。
あいつは水泳部の部長にしてエースなんだぞ。今年もしっかり全国まで進んで表彰台まであと一歩の成績を残した。
年々、タイムを大きく縮めている上に、大舞台ほど好成績を残しているものだから、次の五輪では日本代表になるのではないかと期待されている我が校の正真正銘の有名人だ。
次の五輪は卒業後なのが残念だが、それだけ成長する時間があるということでもある。それに、水泳の成績だけでなく、人望も厚く、面倒見も良いから女子生徒にもやたらと人気がある。
もし、あいつが会長に立候補していれば私ではとても勝ち目がないだろう」
葵が掛け値なく褒めちぎっているところを聞いて大輝は驚くとともに感心した。
そう言われて見れば朝礼で彼女が表彰されたところを見たような気もするのだが、水泳部は彼女以外にも優秀選手が揃っていたため記憶に残っていなかったのだろう。
そうこう話している間にも彼女はさらに二つの鉢巻を奪い取り観衆の声援に応えて拳を振り回していた。
既に十本もの鉢巻を握りしめている中でついに彼女の一人勝ちを許せなくなったのだろう。
残存する他の全ての騎馬が互いに目配せすると、彼女めがけて一斉に攻撃を開始した。
わずか一騎に十騎もの組が殺到する絶体絶命の状況でも、彼女とそれを支える騎馬武者たちは怯むどころか歓喜の雄叫びをあげて迎え討ち、素早く力強い機動でさらに二つの組から鉢巻を奪った。
しかしこれは残りの騎馬組にさらなる敵意を向けさせるだけに過ぎなかった。
一対多数でも正攻法では勝てないと気づいた一組みの騎馬が反則ながらも彼女に体当たりをかけ、さらに他の組もそれに続いて突撃をかけた。
結局、彼女が鉢巻を奪われることはなかったものの、数組を巻き込む形で騎馬が崩れ、彼女ももみ合うようにして落馬した。
騒然とする現場の中で審判が笛を吹きながら駆け寄り一時中断を宣告した。
幸い、大怪我をしたものはなく、彼女も軽く足を痛めた程度だったが、水泳部のエースの負傷ともあり、血相を変えて集まってきた水泳部員たちによって背負われて保健室の方へ運ばれていった。
「まったく、勝ちすぎるからこういうことになるんだ。勝負事となるとムキになる悪癖が裏目に出たな」
笑う葵に大輝はさすがに心配そうに呟いた。
「水泳部のエースなんですよね。怪我とか大丈夫なんですかね」
「心配いらないだろ。どうせ明後日くらいには何食わぬ顔で泳ぎ回っているはずだ。あれくらいでどうこうなるようなタマじゃない」
妙に親しげな口調に違和感を覚えながらも大輝はそれ以上考えることをやめた。
最強の水泳部部長組がリタイアするという波乱はあったものの、騎馬戦は何事もなかったかのように再開された。
後に残った者たちはせいぜいドングリの背比べであり特別目を見張るようなことはなかったが、葵は面白そうに余談を述べた。
「あの騎馬戦だがな。本当は鉢巻なんかを奪い合うのではなく、ブラジャーを奪い合う企画を立てたのだ。当然、反対が多くて実現することはなかったがな」
爆弾発言に大輝は絶句し、もみ合いながら鉢巻を奪い合う女子がブラジャーを奪い合う姿を想像して赤くなった。
「おい、また何か変なことを考えていないか。
ブラといっても体操服の上に付けたものだぞ。
それを奪って奴みたいに戦利品を天に掲げればなかなか絵面が良いものだろう。
私は面白いと思ったのだが、見ての通り何の変哲もない騎馬戦で落ち着いてしまった。
奴がいなければ観戦する興味も激減してしまう」
仮に服の上から付けたものとて、うら若き女子高生の下着であることに違いはない。男子にとっては刺激が強すぎたし、明日香の乳揺れに匹敵するサービスタイムだっただろうが、廃案になったのはよかったのだろう。
また痛くもない腹を探られるのは大輝も不本意だった。
「本当は騎馬戦にも出て奴と対戦したかったのだが、クラスの連中に止められて出馬を断念したのだ。今更ながら残念だった」
「いやまぁ、クラスの人の気持ちもすごくよくわかりますよ」
水泳部部長と真っ向から戦う葵を想像すれば、これは一大決戦になったことだろう。二人が戦えばタダで済むはずもなく、葵が負ければ彼女の
大惨事にならずに済んで大輝は葵のクラスメイトに感謝をした。
それぞれのドラマを繰り広げながらもプログラムは粛々と進んでいった。
大輝が本気で走った持久走は残念なことに八位という平凡な成績で終わった。
テントに戻って悔しい気持ちを葵の述べると、彼女は「そんなものだと予想したからキスなんて餌をぶら下げたのだ」と笑いながら言った。
昼休みになっても、通常はどうこうなるということもない。
生徒会役員はテントで食事をとらなければならない程度で、小学校時のように親と一緒に弁当を食べるなんてことはない。
それでも弁当を持ってくる生徒はいつものようにいるわけであるし、学校の購買も平常営業しいているからパンを買う生徒も多い。
大輝も葵も、また未来さえも購買のパンを買ってくるつもりだったものの、明日香は三人を呼び止めて用意していた大きなバスケットをテーブルの上に置いた。
「あの、みんなの分も作ってきたのでよければ召し上がってください」
もじもじと恥ずかしそうに言う明日香に大輝だけは平然と謝意を述べてお言葉に甘えることにした。
未来はいつも通り「あらあら」と明日香の表情を見つめてから快諾し、葵は「そんなズルい手があったか」と言わんばかりに悔しそうな表情を見せて渋々、席に着いた。
バスケットの中身は運動会に定番のおにぎりや唐揚げということもなく、大量のサンドイッチによってぎっしりと埋められていた。
「すごい、これ全部明日香が作ったの?」
「そんなたいしたものじゃないけれど」
明日香は謙遜しながら小さく頷くと、期待の眼差しで大輝を見つめた。
「いただきます」
大輝はハムがこれでもかと重ねられたサンドイッチを掴むと一気にかぶりついた。笑顔でもしゃもしゃと咀嚼し、あっと言う間に胃袋の中に送り込むと人心地をつけた。
「どう……かな? 口に合わなかったのなら遠慮なく言ってほしいんだけれど」
「そんなことないよ。すごく美味しかった。明日香って料理も得意なんだね」
大輝が無邪気に言うと明日香も嬉しそうに破顔した。
「ふん、こんなの挟むだけではないか」
そんな二人を面白くなさそうに見ながら葵は遠慮せずにツナサンドを摘んだ。
「あらあら、挟むだけでも具を準備したりするのは結構な手間なのよ。
葵ちゃんは自分で作ったことないからわからないでしょうけれど」
未来が言うまでもなく、タマゴサンドに野菜サンド、ポテトサラダサンドにベーコンサンド、照り焼きチキンサンドなどなど、様々な種類のサンドイッチを用意するのはかなりの手間がかかったに違いない。
だからこそ葵はさらに不機嫌になり、大輝の食べる分が減るように次々とサンドイッチを頬張っていった。
「挟んだだけとか言っててもすごいお気に入りじゃないですか。
素直に明日香のサンドイッチが美味しいって褒めてあげたらどうですか」
無意識に言う大輝に葵はギロッと一睨みしてさらにサンドイッチを摘んだ。
「やたらと腹が減ってるだけだ。別にそこまで美味いわけじゃない」
「もう、素直じゃないんですから。
さすがの明日香だってそんな態度をされたら気を悪くしますよ。ねぇ」
「そ、そんなことないですよ。でも、たくさん作ってきてよかったです。
たくさん作ってきたから余らないかちょっと心配だったんですけど、
明日香がほっと胸をなで下ろしている間にもサンドイッチは次々となくなり、主に葵が食べたものだが、大輝や未来も後に続いた。
ほとんど明日香が食べる間もなくあっと言う間にバスケットは空になり、後にはにこにこ顔の大輝と明日香、そして対照的に不機嫌な葵、そして両者の顔を見てにやにや微笑む未来が残った。
腹ごしらえが済むとちょうど辺りがざわちていることに大輝は気づいた。
プログラムではチアガールの応援といいうことになっていたが、どういうわけか男子よりも女子たちの方が注目しているようで、何やら好奇の視線でパフォーマンスが始まるのを大勢の女子生徒が校庭の中央に目線を注ぎながら待っているようだった。
「いったい何が始まるんですか」
不可思議な空気に疑問を浮かべながら大輝は葵に視線をやった。
当然のようにこの体育祭の総責任者である葵は愉悦そうに微笑むと、人の悪い表情を浮かべて大輝に説明を始めた。
「我が校の新体操部によるチアダンスだよ。
華やかな応援があった方が盛り上がるだろう?
男子生徒の目も楽しませてやらないとな」
「それ、絶対に何か裏がありますよね。
注目しているのも男子よりもむしろ女子ですし。どんなあくどいことを仕込んでるんですか会長は」
「あくどいとは人聞きが悪い。やるのは普通のチアダンスだ。ほれ、始まるぞ」
葵の言葉を合図にするように音楽が流れはじめ、校舎の陰からその新体操部員たちがチアガールの衣装に身を包んで駆けだしてきた。
「先頭にいるのが部長だ。部員にも人望が厚く、責任感も強い。見目もなかなかだろう?」
新体操部だけあって、全員がスレンダーでスタイルも良好だった。
顔も美人の部類に入る子が多いだろう。
特に部長はやや堅い印象を受けるものの、清楚という文字がぴったりと合う文句なしの美少女だった。
チアガールに合った笑顔というよりはなぜか厳しい表情をしていて、こちらの方を睨んでいるようにも見えたが、むしろそれがかえって凜々しく見え、彼女の魅力をさらに引き立てていた。
体が柔らかい集団が即席ながらチアダンスを披露し、踊る度に短いスカートがひらひらと舞って純白のパンツを惜しげもなく衆目に晒している。
その様に男子たちもすぐに食いつき、興奮しながら彼女たちのダンスを脳裏に焼き付けていた。
「なんだか妙に色っぽいですね」
さすがの大輝も彼女たちの色香に酔いそうになり、慌てて葵の顔を見た。
それでも葵は不機嫌そうでもなく、むしろ新体操部の演技を楽しそうに見つめていた。
「そうだな。チアは素人同然とはいえ、運動の素養は十二分にあるからな。
体のラインの美しさを魅せることにかけては彼女たちの方が慣れている。足も綺麗に真っ直ぐあがっているだろう」
舞うだけではなく、足を頭につくほど上げると綺麗にパンツが露見する。その度に男子から歓声が上がり、女子たちは嘲笑を含んだような笑いが巻き起こる。
最初のうちは堂々と踊っていた彼女たちも次第に恥ずかしくなってきたのか、全員の顔が耳まで赤くなっていた。
いつ泣いて演技をやめてしまってもおかしくない状態だったが、部長は顔を赤くし、屈辱を堪えているような表情をしながらも部員たちに目で合図を送って励ましていた。
新体操部魂なのか、普段はレオタード姿で開脚しているからか、羞恥で体が縮こまるということはなかったが、むしろ部長が衆目を集めるために派手にパンチラが起きるように踊りに若干のアレンジを加えていた。
「そろそろネタばらしをしておくか。あれはアンスコでも見せパンでもないぞ。正真正銘の、普段使っている生のパンツだ」
「えっ?」
まさかと想像していた事態が現実であると予想外に暴露され、大輝は目を見開くとともに驚愕した。
それとともに女子たちのリアクションの不思議さにも合点がいった。
「我が校の新体操部は強豪でな。全国大会の常連なのだが、あの部長が痛恨のミスをして今年は全国を逃したのだ。
それ自体は残念なことだが、先に説明した通り、新体操部の来年度予算は激減の危機だ。
全国に行くには毎年、巨額の強化費を捻出せねばならない。
予算の減少分は父兄からの寄付金で賄うか、それともこの体育祭で挽回するというとことだが……」
もったいぶるように一度区切り、葵は大輝を見て続けた。
「新体操部は運動系とはいえ体育祭の種目で好成績を残せるほど身体能力に優れた部員を抱えてはいないからな。
さすがにこのまま伝統のある新体操部の予算を削って長期低迷させるようなことになれば生徒会長である私の汚点になってしまう。
部長からもどうにかならないかと頼まれたのだ。
他に顧問や学校側からの要望という名の圧力も来たのだが、他の部との関係もあって新体操部だけに特例を認めるわけにはいかない。
生徒会としても学校側の圧力に屈するのも不本意なのでな。
協議の結果、間を取って体育祭でチアガールとしてパフォーマンスを披露することで予算は前年並みから彼女らで埋め合わせられる程度の減額で手を打つことになったのだ」
「あの、それなら別に生パンでチアしなければならない理由がないじゃないですか」
「当たり前だ。だが、やはり屈辱的な条件を加えねば溜飲が下がらないではないか。他の部への示しというのもあるからな。
アンスコや見せパンはもちろん、新品のパンツも不可ということにしてやった。あとで未来がチェックすると釘をさしておいたら、奴らは本気で普段使っているパンツで演舞しているようだな」
言われて凝視して見れば彼女らが穿いている白いパンツのデザインが個人個人で微妙に異なっているのがわかった。
言われなければ気づかなかっただろう。これらは間違いなく衣装ではない。
葵の不敵に笑う横顔を見て大輝はそこに悪魔を見たと思った。
しかも非道具合はこれだけに済まないのだった。さらに葵が続けた。
「当然、情報は全校の女子たちにそれとなく流しておいた。
見るからに、しっかりとほぼ全ての女子に伝わっているようだな。
みんなにはなかなか楽しんでもらえているようで私としても何よりだ」
謎は全て解けたとともに、女子たちの性格の悪さも露骨に見えてきた。
クスクスとあざ笑いながらスマホで写真を撮っている。
その異常さに男子たちも気づいておかしくはなかったが、目の前のチアダンスに興奮していて見落としているのだろう。
男子のほとんどがカメラになるものを手に持っていないのと比べれば、どれだけ用意周到であったのかも判明する。
「当たり前だが男子には秘密事項だ。
女同士なら秘密は守れるが、男共には不可能だろうからな。
大騒ぎになればさすがの私でも責任問題に発展しかねない。
もし他の男子に情報が漏れた場合は大輝が漏らしたと判断されるから気をつけるように」
「ちょっ、僕は誰にもバラしませんけど、他の誰かがうっかり漏らしてしまっても僕の責任になるじゃないですか」
全部教えてもらったところで最後にとんでもない地雷を仕込まれ、大輝は唖然として抗議した。
それに葵は笑いながら応える。
「鼻の下を伸ばしてチアを見てるからだ。
女子からうっかり者が出ないように祈ってるんだな」
そこまで鼻の下を伸ばしている自覚はなかったが、大輝はそっと鼻の下を手で隠す。
葵に言われるまでもなく、パンツを見せながら笑顔で踊っている新体操部の面々を
これ以上見とれていたらさらにとどめを刺してくるのではないかと気が気でない。
「記念写真くらいあとで回してやろう。
硬派な写研部はボイコットしているみたいだが、新聞部がしっかりと記録を残しているからな」
大砲のような白いレンズをつけて撮影していた女子しかいない写研部の面々はチアダンスが始まっても休憩を続けていた。
対照的に新聞部が目立ちにくい黒い大砲レンズを構えて新体操部のパンチラ写真を激写しているようだった。
「後が怖いからいりませんよ」
「無理しいなくてもいいんだぞ。その程度で怒ったりはしない」
それがまるっきりの嘘であると大輝は一秒で悟り、首を振って拒絶した。
「はっはっはっ。まぁいい。
しかし、こうやってチアダンスを見物するのもなかなか悪くないものだな。
いっそのこと、甲子園のアルプススタンドで披露させてやりたいくらいだ」
公共放送で全国に新体操部の痴態をテレビに配信される事態を想像して、大輝は本校に野球部がないことを心から安堵した。
「これから金にものを言わせて有望選手をかき集めても、さすがに来夏の甲子園には間に合いそうもないな」
「当たり前ですよ。余所の強豪校も同じように人を集めているんですし、ほとんど一年生だけのチームで都大会を勝ち抜けるわけないでしょ」
「元プロとか中南米からの留学生を揃えるとかできればいいのだが」
「いやそれ無理でしょ」
「そうでもないわよ。元プロは無理だけれど、本物の留学生なら何人でも問題ないみたいよ」
大輝が即答した瞬間に未来が口を挟んできた。
「えっ、大丈夫なんですか? って、よく知ってますね。驚きましたよ」
「うふふ。これでも高校野球は結構好きなのよ。
以前、ちょっとそういう可能性について考えたことがあって調べてみたのね。
ほら、バスケあたりは留学生が無双していたり、箱根とかでもすごいでしょ。
甲子園でもキューバとかドミニカからの留学生が出てくれば大旋風を巻き起こせるんじゃないかって」
「さすがに私も未来が野球ファンだとは知らなかったな。
しかし、何人でもいいのか。ずらりと揃えた留学生で名門校をなぎ倒していくのは愉快であるな」
「そんなことになれば卑怯だのズルだの罵声がすごいでしょうね」
「うむ、負け犬の遠吠えは極上の甘露であろう」
その手の体面を気にしない葵であったと大輝は改めて認識する。
新体操部のチアを全国放送させるためだけにたった一度のチャンスを棒に振らされる強豪校の野球部員に同情し、ため息をつく。
「でもそんな事態になったらすぐに高野連が規制に動くでしょうね。
実際にルール上問題なくても、全員留学生なんて認められるかどうかの問題もあるわよ。
規則では個別に判断するってことになっているから」
「奴らめ、ずるい逃げ道を用意しているということか。
どちらにせよ、中南米にツテがないから留学生部隊は無理だがな」
「いや、本当に良かったですよ」
「留学生は難しそうだが、いっそのこと強豪校を学校ごと買収して吸収合併してしまう方が手っとり早いな。
美味く条件に合う学校があればいいのだが」
「いやいやいやいや、ちょっと待ってくださいよ。
さすがに学校ごと吸収してしまうのはひどいんじゃ」
「金はなんとかなるかもしれん。あちこちに父のコネを使って働きかければ頷かせることも不可能ではあるまい。
本校は元々、生徒不足に苦しむ女子校みたいなものだからな。相手のメンツも傷つきにくかろう。相手校の名前だけ残してやれば文句もあるまい」
むしろ名前がなくなってしまう乃木坂学園卒業生に顔が立たないのであるが、そんなこと葵はお構いなしで、上機嫌のままあれこれと夢想し始めてた。
甲子園の常連校を吸収合併させてしまう。
まず常識的に考えてそんなことできるわけもないのだが、葵が葵だけになんとかしてしまうのではないかという恐怖もある。
それでも大輝は彼女を
ただ質の悪いジョークと思いこむ他なかった。
実際にこのことは体育祭が終わればすぐに忘れてしまったのであるが、もちろん後日談は存在する。
さすがの葵でも強豪校の買収はもちろん、吸収合併も断念に追い込まれた。
とはいえ、それは工作に失敗したからというよりも、もっと楽な方法を見つけたからだ。
結論から先に書けば、都下の甲子園出場有力校と姉妹提携を結ぶことで新体操部のチアガールを都大会に送り込むことには成功した。
相手が男子校だったこともあり、この話は先方からは野球部員はもちろん学校側からも感謝された。
しかし喜ぶべきか残念なことか、美人揃いのチアガールたちの応援をもってしても相手校野球部は奇跡的な逆転負けを喫し、甲子園への出場は逃すことになった。
優勝したのは夏の甲子園出場校でもあったから結果は妥当なものだったかもしれない。
かくして公共放送で新体操部員たちのチアガール姿を披露するという葵の野望は打ち砕かれてしまった。
新体操部部員たちのためにも喜ぶべきことだったかもしれないが、この徒労のような出来事も一つだけ吉報をもたらした。
応援の甲斐があったのか、敗退したことで野球部と新体操部の親密度が上がったのか、新体操部部長と野球部部長は恋人の仲になったようである。
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