(2)科学準備室~放送室
この学校はわりと古いから、こんな風に年季の入った標本が揃ってるのよね。
これ、フナでしょ。こっちはカエル。これはなんかの内臓ね。
この瓶だけラベルも何も貼ってないでしょ。なんの内臓だと思う?
人の内臓。
あはは。人体実験したなんて事はないわよ。この内臓はね、科学の先生の内臓。昔、とっても教育熱心で、とっても学校が好きだった先生がいたらしいんだけど、交通事故で死んじゃったのね。
でも、私が死んだ後はここに内臓を置いてって前もって約束してたらしいの。そうは言っても学校は人の内臓を置いてるなんて言えないから、こうやってラベルも貼らずに奧まった場所に置いてあるの。
でもねえ。その先生の名前、誰も知らないのよ。いつの頃の先生なのか、それも分からないの。
もしこれの主がその先生じゃなかったら、じゃあこの内臓の持ち主は、一体どこの誰でしょう。
そして、これはどういう経緯でここに置かれてるんでしょう。何の情報も与えられないで、人目をはばかるように置かれて。
これは一体、なんの内臓なんでしょう。
七不思議のひとつめ。科学準備室の名無しの内臓。
――んふ。
あんた怖がらないのね。男の子ってそんなものなの? ちょっとつまんないなあ。
別にいいけどね。ちゃんと話を聞いてくれるんならそれでも。
真剣に聞いてもらえるの、小学生以来よ。どいつもこいつも怖い話が好きなくせに、本気で話すと嘘扱いするんだから馬鹿みたいよね。
あんたは何考えてるか分かんないけど、あたしの話を遮らない。だから馬鹿扱いはしないでおくわね。
じゃ、次の場所行きましょうか。
ああ――忘れてた、あんたの名前、
あたし
花は科学実験室を出て、次なる場所へ向かった。
ちなみに花というのは名字だ。
***
はい、次はここ。放送室。
ここはねえ、今も昔も放送部の部室。知ってるでしょ?
毎日、昼休みになると、それぞれの好みの音楽をかけてる。DJタイプの部員がいる時期は、ちょっとしたトークラジオをしてたこともあったそうよ。
そんな放送部の活動時間は昼休み。それ以外の時間帯は、ここは施錠されてるの。
唯一マイクの電源が入るのは、部員がいる時――昼休みの時だけ。
そんな昼休みの時よ。別段変わったことのない、いつもの昼休み。
チャイムが鳴って間もなく、本当に間もなく、学校中のスピーカーから音が流れ出したの。
でも聞こえてきたのはいつもの放送じゃなかったわ。部員の挨拶でもない。名前の分からないバンドの演奏でもない。今まで聞いたどの放送にもあてはまらない音。
まず聞こえたのは、何かひっかくようなバリバリいう音。
この時はまだ、周りの雑音のせいで気づかない人もいたの。
ひっかく音が少し続いた後に、ハアハアって息を吐く音が聞こえ出した。
事態の異常さに気づき始めた人達は、スピーカーからの音に釘付けになったわ。
今度は歌が流れだした。泣き声交じりのか細い女の声でね。
でも、歌詞の内容は聞き取れなかったの。しいて言うなら、童謡とか民謡とかの、古い歌みたいな歌詞ね。
もの悲しいメロディーに乗せて流れる歌は、聞いてる人の誰もに気味悪さを感じさせたの。
そんな中でも、一人の気丈な先生が放送室のドアガラスから中を覗いたの。そしたらね。
もぬけのからよ。電気さえも点いてない。ただ放送機材の電源だけが入っている状態だったのよ。
その日の担当だった部員は授業が長引いたせいで遅刻。誰も放送室には入っていなかったし、鍵すら開いてなかった。
その後も、ちょくちょく謎の歌が流れるようになったの。それも決まって、部員が遅刻する時にね。
放送部にはそれ以来、遅刻厳禁っていう掟が生まれたらしいわよ。
原因も何もかも不明な不気味な歌が流れるっていうんだから、まあしょうがないわよね。
それで、誰が歌ってるのかというとね――おばけ。
なんやかんやあって赤ちゃんを身ごもってしまった放送部員の女生徒が、悔しいやら悲しいやらで、自分の髪とか体を引っかいたり、苦しげに呼吸したり、赤ちゃんのために子守歌を歌ったりしたっていう、後付けっぽい話があるのよね。
その子が放送室で自殺したのが、謎の歌の元凶だっていうの。
ツッコミ所の多い話だけど、あたしは否定しないわ。七不思議はあるべき姿のままでいいからね。
ふたつめ、放送部員の子守歌。
放送室は静かだ。今日は昼休みもないので、放送部員も来ていない。
ここで自殺した放送部員の霊とやらがいるなら、今ここで子守歌を歌ってみせてほしかったけど、そういう事を言うのはさすがに無粋かなと思ったのでやめておいた。
そういえば、さっきの科学実験室もここも施錠されていたはずなのに、簡単に開けられていた。
これも後で聞いたのだが、どうやら花は入学早々全ての部屋の合鍵を勝手に作っていたらしい。
そんな犯罪めいた真似をするとは、やっぱりこいつは心底哀れむべき変人なのだと実感させられた。
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