第3話召喚せし洋館
「かしお、今日も突っ伏してんな…」
「ひゃっ!なんだ…キリタニか…」
「なんだ?カシオらしくない、そんなビクビクしてどうした?」
いや、別にと首を振る。それにしても変な声を上げてしまった。見られてもいないのに、周りから白い目をされているようで、恥ずかしい。見られる筈がないのに。
「樫男、貴様今物凄く変な声を出していたぞ。ククク…女のようだったぞ…ククク」
机にひっかけたスクールバックの中から嗤笑を買う。なんと無礼な悪魔なことか。そんな|無知蒙昧な悪魔に真実を知れ、とバックごしにグリグリ拳を押し付ける。喋るな黙れ、そんな意味も隠し味として加えた。
「なんか、変だないつにも増して?まあ、いいや。今日も遊びいくぞ」
キリタニが神経質でなく助かった。それにしても、どいつもこいつも要らん言葉を一言、二言付け足しやがって。
「俺は変じゃない。後、遊ばない。」
「いや、変だろ…特に」キーンコーンカーンコーン、遮るようにチャイムが響く。根は真面目なキリタニはそれを聞くと、後でな、と言い残し去っていた。いや、言わなくてよろしい。
今日の授業は一段と長く感じられた。主に鞄の中身にいる二人目の阿呆のせいだ。ちなみに分かっていると思うが一人目はキリタニだ。
授業中気がかりで仕方がなく、集中ができるわけもなかった。更に時々、口を出すのだから手に負えない。正義のグリグリは幾度も執行された。そしてその結果、俺には授業中の態度から「放課後残るように」の刑罰が執行された。
昨日ケサランパサランがついてきた後の話だ。
黒ケサランパサランは図々しく家まで付いてきた。人目に触れてもまずいので、隠すように家々の壁と挟んで歩いた。苦労しながら自室に戻り、俺はベッドに座り、部屋の中央で浮遊する黒ケサランパサランと対峙した。
『で、お前はなんなんだ?』
『我か…?我は悪魔だ。それも高位のな。最高峰といっても過言ではない。』
ここにきて、たちまち威厳を取り戻したかのような態度をとる。
『ハイハイ。で、そんなお偉い悪魔がなんでまた、そんなショボいお姿で?』
『それはお主の召喚が悪かったのだ。屍を利用しただろう?死霊の召喚でもないのに。まあ、我の素養が良かったのだろう。良くて消滅だったところをこうやって存在を成している。それにしては驚く位、実体があるがな。』
『召喚してやったんだから感謝しろよ。ていうか名前は?』
『悪魔にとって名は弱点に成りうる本名は明かせぬな。』
『っていっても、なんて呼べば良いんだよ』
『…ん、そうだな…では………シルルと呼ぶがよい。』
『意外と可愛い名前にするんだな。』
『宣うな!我が器を取り戻したあかつきにはその口を縫い合わせてやる!覚えておけ!』
その後は普段通り日常をこなした。シルルは部屋に置いて、だ。不安だったが、彼?には、なにもできないと察しがついていたので放っておいた。家族も滅多に俺の部屋に訪れない。しかし、家の中で厄介を起こされても困ったので、昨日は寝ずに見張っていた。
そして、今へ至る。その他の情報はあまり得られなかった。核心に迫られるとはぐらかされたり、シカトをされたり、強い意志が感じられた。おおよそ弱小悪魔だと悟られたくない自尊心がそうしているのだろう。
彼と接する内に、自尊心が高いケサランパサラン、という見解が脳内会議で発表され、その見解は正鵠を射ているとは思ったが最悪の場合を常に想像し油断は絶対にしない。
シルルを学校へ連れてきたのは、人間の世界を見たいから、と駄々をこねられて面倒だったし、家に置いて行方をくらまされても面倒。故に連れてきたが、しかし邪魔ばかりだ。予想は出来ていたが。リードでも付けて放置するのが正解だったか。
担任にキリタニと関わって変わったなどと、こっぴどく絞られたが正直バックの中身が気になりそれどころではない。無心で受け流し相手の聞きたい言葉吐き出していると、小一時間の攻防の末、自由を得た。
外に出ると予想以上に日が傾いており大きなため息が出る。この頃、日の長さは短くなっている。夜とも昼ともにつかない夕方は好きではない。周囲は部活に励む生徒が汗を流していた。自分が孤独だと、思い知らされる。
憂鬱な気分で校門を抜けると前方に制服を着崩した金髪の生徒が腰を下ろしているのが見えた。
「お前も馬鹿で暇なんだな」
「うるせ、待ってやってたんだから、ありがとうぐらい言え」
「あざーす」
今日は即帰宅したかったが、まあ、これも施しだ。付き合ってやることにした、といっても、もう遅いので帰宅をともにするだけだ。そして今回事が起きるまで、断腸の思いで割愛させてもらう。
キリタニと俺は電車通学もといモノレール通学で降りる駅が一緒だから、施しは帰宅ギリギリまで与えてやらなければならない。
駅を出ると斜陽で紫と赤のマーブル色にべったり染められた空が我々を出迎えた。夕方は人をなんとも晴れない気持ちにさせる。昔の人が逢魔ヶ刻おうまがどきと名付けるのも頷ける。
キリタニとは会話をせず路地裏をスルスルと抜けていくショートカットを使う。キリタニはこの街へやって来て、1ヶ月位だが、ここのショートカットはマスターしている。
会話も枝分かれを見せず、黙々と歩いていると瞬間、現実と非現実の間を引き裂くような耳に良く響く甲高い雑音がどこかから発せられる。金属がキーンと共鳴する音にも似たがこの音はおそらく人の悲鳴だ。それも複数。厄介事の気配を悟った。
キリタニも同じであるらしく発生源の方角をちょんちょんと指差す。いくぞ、ということだろうか。人命に関わることかも知れないので頷き返す。俺の同意を得るとキリタニは発生源へ走っていく。
「ちょっと待てって!」
わりとキリタニは足が早くついていくのがやっとだった。向かう最中悲鳴は断続的に聞こえ、我々の足をより早めた。早めたかったが俺は限界を超えていたので不可能だったのは今、必要な情報でない。そしてスクールバック内のシルルも何やら忙しく、カシオ、カシオと頻りに呼び掛けてくる。あまりにもしつこかったので走りながら話を聞いてやることにする。
「何やら匂うぞ。」
「なにがだよ、腹でも減ってんの?」
「つまらん冗談はよせ、我は真面目に忠告してやっているのだ。」
「じゃあ、何が匂う?」
「お主が行く先に我のようなモノがいるやも知れんのだ。といっても下の下の下の下だがな。瘴気が段々と濃くなってきておる。たまにいるものだがな、そういう輩は。それでも侮るな人間なぞ最下等も同然だからな。引き裂かれるぞ。」
「忠告ありがとう。」
強引に毛玉を奥へ押し込める。それから程なくして悲鳴が未だに生産され続ける問題の場所へ着いた。
そこは街でも有名な不良と呼ばれる若者がたむろする廃墟だった。常に薄暗く、入り組んだ路地を進まない辿りつけず、周りも人が住んでいるのか分からない位、廃れたボロ屋敷が並び、雰囲気も怪しさを内包していて、とても人が寄り付くような所では無い。だが、不良やそういった分類にされる社会のはじき者には格好の処ところであった。この廃墟自体、外観こそthe廃墟だが、手放すにはもったいない位の立派な洋館であり、確か内装もキレイに残っていたはずだ。そんな高級感がニーズに当てはまったのか、出入りするものは存在した。
だが、前述した通り、一般人にはただの廃墟であり、近づくことも入ることも憚られた。悲鳴が聞こえるとはいえ、そういった悲鳴が発せられる事件があり得なくはない場所なので、出来るならば立ち入りたくは無かった。近隣の住民も同じような心持ちだと思う。
しかし、そんなことなどここにきて日が浅いキリタニが知る由もなく、ズカズカと入り込んでいく。
しかし、キリタニを一人で逝かせる、では無かった、行かせる訳にもいかないので結局立ち入るはめになる。
ギィッと門を開け雑草が猛威を振るう庭を横断。そして木製の分厚く重い扉を開けようとするが立て付けが悪いのかビクともしない。二人がかりで押し、汗をかき、やっとの思いで中に入る。
空気が変わった。一般人と等式が成り立つ俺にでもわかるような見えざる性根の悪い気が洋館内に漂っている。窓も閉め切り風通しが悪く更にそれを淀ませている。溜まりに溜まった負の空気が密かに濃度をここで上げているかのようで居心地は最悪だ。
土足で上がり、洋館内を見渡す。前方には二階への階段があり、全体はU字型の間取りになっている。
悲鳴は二階から発せられていた。最初より随分と生々しく聞こえ気分が悪くなる。ドタドタと走り回る音が上から響く。思えば鉄の臭いが空気に混じっている。
そんな中、躊躇せず階段を上がるキリタニは頼もしく見えた。
しかし、キリタニは「うお!」と途中で情けない大声を上げて転げ落ちてきた。なんだなんだと駆け寄るがキリタニは階段を正しくは階段の奥を見たままで神妙な面持ちで何も言わない。もしかして、と見ると赤い液体が流れていた。血液だ。そしてその先には恐怖か痛みかで歪みに歪められた顔の若い男が白目をむいていた。認めたくないが切れていた。
いつの間にか悲鳴も足音も聞こえなくなっていた。
徐々に冷静さが追い付き警察に通報しようとバックをまさぐっていると、階段から何か丸いモノが転がり落ちてくる。それはキリタニの靴に当たると動きを止めた。
声すらでない。
見間違いはない。
生首だった。
シルルは密かに告げた。
「来るぞ」
マニマニサマナー @yosea
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。マニマニサマナーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます