第4話 小説の国へ
昔々、あるところに人魚姫がいました。
人魚姫は地上の王子様に恋をしていましたが足がないので会いに行くことが出来ません。
どうしても王子様に会いたかった人魚姫は悪い魔女バレンシナにお願いして歌声と引き換えに足をもらいました。愚かな人魚姫はこれで結ばれると信じて疑いませんでした、けれど人間と人魚ではどうなることも出来ないのです。恋人どころか友達にも家族にもなれません。自分の誇りと引き換えに得たものは孤独でした。
頭の中に物語が流れてくる。真子の言う合図はきっとこれだろう。蘭はゆっくりと目を開けた。あたりを見回すと今まで見たことがないくらい綺麗な空と海が広がっていた。
「本当に小説の国に来たんだ」
居たくない現実から離れることが出来て、しかもこんなに綺麗な場所に来れて嬉しかった。ずっとここで景色を眺めていたい気持ちもあるけれど、せっかく来たのだから少し探検しようと足を進めた。
「そういえば、人魚がどうとか聞こえたけどいるのかな?」
人魚なんて現実では絶対に見れない。せっかくだから探してみようと海岸へ向かう。
ふと、足元を見ると上履きのままだった、服装も学校の制服で少し気が沈んだ。ここに来ても自分はまだ学校という現実に縛られたままなのだと思うと悲しくなる。
「逃げ出しても無駄ってことか」
だいぶ進むと海の中で何かが泳いでいるのが見えた。もしかしたら人魚かもしれない、もしそうじゃなくても誰かに会えるのは嬉しい。普段は一人でいるのが当たり前の蘭でも流石に知らない世界で独りぼっちは辛いものがある。とりあえず近くまで行ってみようと足を速める。
近くまで来てみるとそれが何なのか分かった。上半身は人間の身体だけど下半身は魚の尾ひれがついている、そう人魚だ。今まで本の中でしか見たことがない存在が目の前にいるなんて、流石小説の国だなと思わず感心してしまう。
ウェーブのかかった水色の髪、切れ長の目に薄い唇、透けてしまいそうなほど白い肌、女性らしさを感じる体つき、あまりの美しさに緊張してしまう。
「あのっすみません」
よっぽどの事がない限り自分から声をかけたりしないから思わず声が裏返ってしまった。
「おお、人間なんぞ久しぶりに見たぞ。少年よ、少し話し相手になってくれぬか?」
人は見かけによらないと言うけれど、人魚にも同じ事が言えるようだ。けれどその口調のおかげで緊張は少し解れた。
「えっあっはい。僕で良ければ、喜んで」
誰かから話し相手に選ばれるなんて久しぶりだ、自分以外に選択肢がないのは分かっているがそれでも嬉しく思えてしまう。
「じゃ、面白い話を聞かせてやろう。この国のお話だ」
この国のお話――それは真子の書いた小説の続きだろうか? 見てきて欲しいとはこの事だろうか?
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