第3話 図書室のお化け
気が付くと窓の外は真っ暗だった。あのまま本当に寝るなんてやってしまった。
下校時刻は過ぎていないか、先生に見つかったらどうしようと焦ってしまう。
「そっそうだ、とにかく片付けないと」
散らばったままの本達を慌ただしく片付けるが真っ暗な空間ではどこに何をしまうべきなのか分からなくなってしまう。
「大変そうね、手伝ってあげる。この本は左の棚でいい?」
「どうもありがとう」
いやまて、君は誰だ。さっきまで誰も居なかったはずなのによく目を凝らすと蘭と同じ年くらいの女の子がいた。猫のような可愛らしい顔立ちをにこにことさせ、黒髪をなびかせながら、楽しそうに本を片付けている。一瞬、不審者かと思ったが、この学校の制服を着ているのでその線は薄そうだ。
なら、もしかしたら……淡い期待と若干の怖さを抱いてしまう。
「君は誰? 図書室のお化け?」
「初めまして、私は真子。お化けじゃないよ、人間でもないけど」
意味が分からないが不思議と怖さは無くなった。真子と名乗る少女の笑顔のせいだろう。
「じゃあ君は何なの?」
「私は私、真子は真子。昔は何かだったけど今は何者でもないの。私からも質問させて、君は何者? 君こそお化けだったりして」
クスクスと笑いながら真子は喋るけれど、言っている事は相変わらず意味が分からない。
「僕は蘭、小野寺蘭。この学校に通っている人間だよ」
「綺麗な名前ね、よろしくね」
「ああ、うん。よろしく」
久しぶりに同世代の、しかも女の子と話したせいか緊張してしまう。しかもその相手が正体不明ならなおさらだ。
もしかしたら、本当にお化けなのかもしれない。わずかな期待を胸に蘭は質問を続けた。
「真子はここで何をしていたの?」
「私はね、いつもここで本を読むのが好きなの。昔は書いてたんだけど失敗しちゃった」
「それってこのノートの事?」
「あっ懐かしい。もしかして蘭が見つけてくれたの? ありがとう」
真子の屈託のない笑みを向けられると罪悪感で胸が痛む。見つけたのは事実だけど興味本位で読もうとしていたのも事実。自分が真子の立場だったら恥ずかしくて泣いてしまう。
「まだ、冒頭の部分しか読んでいないけど面白かったよ」
「嬉しい、人に読んでもらう前にやめちゃったからずっと不安だったの」
「タイトルはなんていうの?」
「小説の国だよ」
小説の国――さっき吉野先生も言っていた、先生も真子の事を知っているのだろうか。
図書室のお化けは気に入った人間を小説の国に閉じ込めると言っていた、今ここに小説の国を書いている子がいる、これは偶然だろうか?
「真子……小説の続きを見せて欲しい」
恐る恐る頼んでみた。冒頭を読んだだけで、あんなに喜んでいた様子を思い出すと、断られる事はないだろう。それでも不安になってしまうのは、何故だろう。
「いいよ、でも読ませる事は出来ないの。だから見てきて私が書いた小説の国を」
真子の笑顔が消えて急に真剣な顔になる。笑顔しか見ていないせいか、その変化に戸惑ってしまう。けれど蘭の心に迷いはなかった。
「うん、見てくる」
「ありがとう。ノートを開いて目を閉じて……合図が聞こえるまで目を開けちゃダメだからね」
言われた通りにノートを開いて目を閉じる。鼓動が激しくなる、楽しみなのに不安だ。
冒険の始まりってこんな感じなのだろうか。
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