第23話

 観覧車がゆっくり回り始めると、景色は段々高く、広くなっていき、

近隣の木々や建物は、夕焼けに照らされながら、光と影のコントラストを強めていく――。


 ふと見ると、桐野も同じように、夕焼けのオレンジ色の光に照らされていて、

そのせいか、なんだか昼間よりも、少しだけ大人っぽく見えた。


「ん? どうかした?」


 一瞬、時が止まったような錯覚を覚えて、桐野の顔をじっと見つめてしまっていた俺は、少し焦りながら、

「ああ――いや。なんか、綺麗だよな――その……景色が」と、言った。


「うん。観覧車って、小さい頃に乗ったことがあった気はするけど、でも、あんまり覚えてないの。だから、ちょっと新鮮」


 そう言って、小さく微笑んだ桐野を見て、俺はやっぱり、言いたいことは言おうと思った。



「ええとさ……」

「あの……」


 だが、二人同時に話し始めてしまって、俺は焦った。

「あ、済まない。な、なんだ、桐野?」


「あの――ありがとね、秋本。今日一日付き合ってくれて……私、楽しかった」


「いや。いいよ、全然。どっちかと言えば、強引に付き合わせたのは、俺だから」


「ううん。私、秋本の言うように、ちょっと頑張りすぎてたっていうか、最近、余裕が無くなってた気がする。

だから今は――ちょっと落ち着いたっていうか、冷静になれた」


「そうか……じゃあ、色々大変なこともあったけど、今日は連れてきた甲斐があったな」


「うん――それでさ、秋本……」


「ん? な、なんだ、桐野?」

 桐野が一呼吸置いて、少し躊躇うような仕草をしながら言ったので、俺も少し緊張した。


「カフェで、秋本に……お前、助けを呼んでいただろ? って聞かれて、

その時私、何を言ったのか覚えてないって言ったけど……あれ、嘘なの。

本当は覚えてたんだ。――だけど、あの時、目の前に秋本がいたのに、

私思わず、さとくんのこと呼んじゃって……だから――その……」


「ああ。いいって、そんなこと。全然気にしてねーよ――あはは」

俺は食い気味に、桐野のセリフを遮るようにして答えた。


「秋本……」


「なあ、桐野。俺はさ……前にも言ったけど、お前のことが好きだよ。

だけど、お前が悟のことを好きだってことは、今日一日で、嫌という程良く分かった」


「ご、ごめん……」


「謝るなって。別にそれは構わねえんだよ。俺にとっても悟は大切な友達だし、

その悟を好きな、桐野も……俺には大切な友達なんだからな。

だからお前は、悟を好きなお前のままでいいんだ。俺に気を使う必要はねえし、

俺に告白されたからって、重たく考えなくていい。ただ、一つだけ――許してもらいたいことがあるだけだ」


「え? な、何?」


「これからは、なんでも一人で抱え込まないで、困ったことがあったら、いつでも俺に相談しろ。

どうしようもなくなったら、その悩みを俺に少し分けてくれ。友達として」


「あ、秋本……」


「そんな顔するな。心配するなよ。もし、どうしても悟と上手く行かなかった時は、

俺がお前の面倒を見てやる。だから安心しとけ」


「もう、何それ。私、別にあんたに養ってもらいたいとか思ってないからっ」


「あはは。そう言われりゃそうか」


「本当にバカなんだから――でも、ありがとう……秋本――」


 夕日の光でいっぱいに満たされた観覧車のゴンドラの中で、俺達は向い合って笑った。

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