第22話
お化け屋敷を出た俺と桐野は、園内のカフェで休憩をすることにした。
店員にアイスコーヒーを2つ注文した後、
「大丈夫か?」と、俺は改めて桐野の顔を見ながら聞いた。
「うん……ごめんね。秋本……」
桐野は申し訳なさそうに、上目遣いで俺を見ながら謝った。
「いや、それを言うなら、俺の方こそ悪かったよ。まさか桐野が、ここまでお化け嫌いだとは思わなかった」
「なんか、恥ずかしい……私、取り乱しすぎだよね」
「――気分転換のはずが、怖がらせて、結局、思い出させちまったな……」
俺は、お化け屋敷で桐野が生首に驚いて、うずくまりながら呟いた言葉を思い浮かべながら言った。
「ん? 何のこと……?」
「いや、ほら。さっきお化け屋敷で、お前、助けを呼んでいただろ? 何度も……」
「ええっと、ごめん。私、あの時、怖すぎて自分が何を言ってたかとか全然覚えてなくって。
……も、もしかして、何か恥ずかしいこととか言っちゃってた?」
「い、いや――だったらいいんだ。大したことじゃない」
本当に覚えていないのか……それとも、ただとぼけているだけなのか。
――いずれにしても、追い詰められた状況で、桐野の心の中の正直な気持ちが、口をついて出てしまったことに変わりはなかった。
「気分転換……か……」
桐野の為の気分転換のつもりだったが、どうやらそれは、俺自身の為でもあったようだ。
部活に打ち込んで、割りきっていたつもりが……心のどこかで期待していたのだ。
悟に彼女が出来たことで、もしかすると桐野はこちらを向いてくれるかもしれない。
ほんの少しでも、悟のことを忘れて――俺の方へ、と……。
だけど――そんなはずはなかった。これまで、二人の関係を見てきた俺には分かっていたはずだ。
桐野と悟の関係は、そんな簡単に忘れたりするような、安っぽい物じゃないってことくらいは――。
「秋本? どうしたの?」
急に黙り込んでしまった俺を見て、桐野が心配そうに聞いてきた。
「いや、なんでもない。それより、まだ時間もあるし、なんか乗るか?」
そうだ。でも、それは構わないはずだ。桐野の心の中に悟がいる。――だとしても、
桐野が少しでも元気でいてくれれば、俺はそれでいいはずなのだ。
「うん! 乗り物は好き! じゃあ、乗っちゃおうか?」
「おう! まだここの絶叫系を、完全に制覇してないからな!」
俺たちは、残りの絶叫マシンをコンプするべく、店員が運んで来たアイスコーヒーを一気飲みすると、勢い良く店を出た。
そして、ほぼ全ての乗り物で遊び終わった頃には、日はすっかり落ちて、空には夕焼けが見え始めていた。
「あー楽しかったー」
桐野が満足そうに、大きく伸びをしながら言うと、
「お前、絶叫系本当に好きなのな……」
と、俺は本気でフラフラになりながら、疲労の色が全く見えない桐野を、半ば呆れながら見た。
「あと、まだ乗ってないとしたら、何かなー」
「おいおい、まだ乗る気か……」
と、言いかけて、俺の目に、ある乗り物が映った。そこで、
「――なあ、桐野。絶叫系ではないけど、最後にあれでも乗るか?」
と、俺はその乗り物を指さしながら言った。
そこには、大きな円を描いてゆっくりと回る、巨大な乗り物があった。
「あ、観覧車――」
観覧車は、この遊園地の一番目立つ乗り物だが、桐野が絶叫系しか眼中になかった為に、すっかり忘れていたのだった。
「いいかもー。夕日が綺麗だし、私乗りたい」
「よし、決まりな。じゃあ行こう」
俺たちは、受付で手続きを済ませると、スタッフに招かれるまま、観覧車のゴンドラに乗り込んだ。
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