第20話
「何だか――こういう場所って久しぶり」
「そうか? いつぶりくらいだ?」
俺は、遊園地の敷地を見回しながら呟く桐野を見て、尋ねた。
「小学校六年生の時に、友達と行った時以来かな……」
「五年ぶりか。結構前だなあ」
「うん。中学から家の事とかで、少し忙しくなったのもあったし」
「そう言えば、その頃から、家事とかは殆ど桐野がやってるって言ってたもんな」
「うん」
「ここんところのお前は、気持ちに全然余裕が無さそうで、ちょっと様子が変だとは思っていたけど、
お前くらいの年齢なら、もっと友達と遊んだり、色々やりたいこともあるだろうからな。
そんだけ長い間我慢してたら、そりゃ反動も来るよな」
「ちょっと、何その、爺むさい言い方。秋本だって、私と同い年じゃない」
桐野はクスクス肩を揺らしながら言った。
「まぁな。じゃあ、桐野よ。今日はその五年分を一片に遊んじまおうぜ!」
「うん! あんたに貰ったパスポート使い倒すわよっ」
「ははは! そう来ないとな!」
――そう言って桐野が選んだ乗り物は、絶叫系が主だった。
バイキングやジェットコースター、それ系の乗り物のハシゴをしまくった。
俺もその手の乗り物は嫌いではなかったのだが、
これだけ連続で乗ると、さすがに三半規管がクラクラしてきた。
そこで、
「桐野よ。少し疲れたよな? ちょっと休まないか?」
と言うと――
「え? そう? 私全然平気だけど」
と、桐野はケロッとした表情のまま、しれっと言い放った。
お前じゃなく、俺がしんどいのだが……。
しかし、そんな情けないことを言葉には出来ず、俺は辺りを見渡すと、
「あ――でも、どうだ。ちょっと気分を変えて”あれ”にでも入らないか?」
と、一つの建物を指さして言った。すると、
「えっ?! えっと、あれは、ちょっと……」
それを見た桐野が、口ごもった。
「ん? どうした、桐野?」
「え、ええと、私……あれは……」
「――あ……もしかして――お前……苦手なのか……?」
「そ、そうよ? だ、ダメ?」
「ふははは、あれだけ絶叫マシンに乗っても平気な顔してるのに、あれが苦手って、嘘だろ?」
「う、うっさい! それとこれは別なのっ! 正体が何だか分からない物って、私苦手なのよっ」
「正体って、何だよ――」
俺が指さしたのは、入り口におどろおどろしいペイントやイラストが施された小屋。
遊園地では、お馴染みのアトラクション”お化け屋敷”なのだった。
「まぁ、何事も経験だぜ、桐野。俺も一緒に入るから平気だろ」
「ち、ちょっと、私無理だから~、って聞いてないし!」
俺は、アタフタする桐野を置いてさっさと手続きを済ませると、
「ほら、入ろうぜ桐野」
と言いながら、とっとと、お化け屋敷へ入っていった。すると、
「も、もう! ちょっと待ってよ、秋本!」
それを見た桐野も慌てて手続きを済ませ、俺の後を追うようにして、渋々お化け屋敷の中へと入っていった。
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