第19話

 戸惑う桐野を他所に、俺は彼女の腕を、若干強引に掴みながら歩いている。

 優等生の桐野を、無断欠席させてしまったことには負い目を感じたが、

それでも、このまま俺と桐野と悟、三人一緒の教室へ戻ることは、桐野の気持ちを考えると躊躇われた。


 しかし――だからと言って、それ以上の深い考えがある訳でもなかった俺は、その行先については、

 気分転換と言えば、ある意味”お約束”かも知れない場所しか思いつかなかった。


 最寄りの駅に着くと、俺は二人分の切符を買って、その内の一枚を桐野に渡す。


「電車……乗るの……?」


 桐野は俺を見ながら、なんとも言えない微妙な表情で、切符を受け取った。


「まあな。そんなに遠くはねぇから」


 そして、そこから電車で三駅程進んで降りた先で、


「……なんとなくそうだとは思ったけど、ここってアレだよね……?」


「ああ。気分転換なら、ここだろ」


と言葉を交わしながら、俺達は前方を見た。


 最初に目に付くのは、大きな観覧車。

そして、その敷地に造られた人工の山と、茂みの間に敷かれたレールの上を、

 円を描くようにしながら、小さな列車がゆったりとした速度で進んでいる。


 ――それは、紛れも無い、普通の遊園地だった。


「なんだか……あんたらしいわね。秋本」

 桐野はクスクス笑いながら、俺に言った。


「悪かったな。こんな所しか思いつかなくて。ま、とにかく入ろうぜ」


「ま、待って秋本、でも私、余りお金持ってきてない……」


 それを聞いた俺は、ポケットから一枚の紙切れを出すと、桐野の手を取り、それを渡した。


「――あ……これって」


「うむ。年間フリーパスポートだ。大会が終わった後の気晴らしで、

部活の連中とは、一年を通じて結構頻繁に遊びに来るからな。予め買っておいた」


「――ありがとう。……あっ、でも――秋本、あんたの分は?」


「俺は実家の手伝いでやってる、酒屋のバイトの給料が入ったばかりだから、懐が温かいんだ。問題ない」


「そんな……なんか悪い……」


「気にすんな。勝手に連れてきたのは俺だからな。それに、ここでお前に拒否られたら、俺の顔が立たんぞ。

いいから、入ろうぜ。」


「もう。強引だね、秋本は」

桐野が嘆息しながら言うと、


「今更気づいたのか? 桐野はそんなこと、とっくの昔に知ってたと思ってたんだがな」


「――まぁ、それはそうだけど。……あんたのそういうとこ、今に始まった訳じゃないもんね」


「そゆこと」


 俺らは、どちらともなく笑い始めると、そのまま遊園地へと向かった。

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