第17話
ここまで来てしまうと、周りはもう同じ学校の生徒ばかりだ。
案の定、あっという間に僕達は注目の的になってしまった。
駅から学校までの通学路。僕らを見る生徒達のヒソヒソ話と、好機の視線に晒されながら、
でも、それらを全く気にもせず、ベッタリとくっつきながら歩く遥さんと一緒に、
僕はいつもより何倍も長く感じる道のりを、ひたすらに耐えながら歩いた。
そして僕達が、そのまま学校の校門の前まで差し掛かった時に、それは起こった。
「ね、宮間クン。こっち向いてっ」
僕が声に反応するよりも早く、遥さんの顔が目の前に迫ってきて、その唇が僕の口元にサッと触れたのだ。
「――っ?!」
「うふふーっ、しちゃった!」
そして、彼女がそう言った次の瞬間、周り中で歓声が沸き起こった。
「キャー! 今の見た??」
「うお、朝からやってくれるね!」
「あれって、ニ年の宮間くんでしょ?? 凄くない??」
「私狙ってたのに、いつの間に彼女が出来ちゃったの?! そ、それも朝からキス?!」
ザワザワと周囲が騒がしくなっていき、僕は慌てふためいた。
「ち、ちょっと、遥さん……! な、なんで、こんな……」
「言ったじゃないですかぁ、治療ですよぉ~。ち・りょ・う!」
「ち、治療って……で、でも、だからって、こんな所で……こ、こんなこと……」
と、言いかけて、しかし次の瞬間、僕の言葉が止まった。
「――さ、さとくん……? な、何……して……るの……?」
気がつくとめーちゃんが、驚きとも悲しみとも取れないような、複雑な表情で僕達を見ていた。
「め、めーちゃ……」
「あっ! 桐野サンじゃないですかぁ~! おはようございますぅ!」
僕の声を遮るようにして、遥さんがめーちゃんに向かって挨拶をした。
「あ、あなた……一体……?」
「私ですかぁ? 私は宮間クンの彼女ですぅ!」
「彼女って、な、何言ってるのよ……そ、そんな訳ないじゃない!」
「どうしてですかぁ~? 宮間クンって、超カッコイイしぃ、彼女がいたって全然不思議じゃないですよぉ~?」
「そ、そういうことじゃなくて……! さとくんは……」
めーちゃんは困惑しつつ、僕を上目遣いで見ながら言った。
しかし、僕は何を言って良いのか分からず、思わず目を逸らしてしまう。
「あれぇ? もしかして桐野サンはぁ、宮間クンに彼女がいたらいけない理由とか、知ってたりするんですかぁ?」
「そ、それは――さ、さとくん……ど、どうして何も言わないの?! ほ、本当に、この娘と付き合ってるの??」
「宮間ク~ン、私達本当に付き合ってますよねぇ? どうして桐野さんがこんなにびっくりしてるのかぁ、
私全然分からないんですけどぉ~~」
「め、めーちゃん……そ、その、僕は……」
「宮間クン、もう正直に言っちゃって下さいよぉ。桐野サンは”タダ”の幼馴染なんですしぃ、遠慮なんていらないじゃないですかぁ。
はっきり言っちゃって下さい~。――むしろ言わないとぉ……大変ですよぉ?」
遥さんはおどけたように明るい声で、しかし目だけは全く笑わずに、そう僕に促した。
「あ、あの……つ、付き合ってるんだ……ぼ、僕は、遥さんと……」
「え?――さ、さとくん?!」
「ほーら、言ったじゃないですかぁ。宮間クンと私は超ラブラブな仲なんですからねっ!
一緒に登校出来なくて寂しいのは分かりますけどぉ、これからは私が毎日一緒に、宮間クンと登校するんですぅ!
桐野サンも、宮間クンの幼馴染ならぁ、私達の幸せの邪魔はしないでくれますよねぇ?」
「さ、さとくん……嘘でしょ……?? さとくんは、ほ、本当に……本当に、この娘と付き合ってるの……??」
めーちゃんは、まるで懇願するような目で僕を見て言った。
しかし、僕はその目を直視することが出来ずに、再び目線を逸らせてしまった。それを見ためーちゃんは、
「分かった……」
それだけ言うと、素早く身をひるがえして、校舎の方へ駈け出していった。
「あっ……め、めーちゃん……」
それを見て、僕が思わず追いかけようとすると、
「宮間クン、どこへ行くんですかぁ? ダメですよ?」
と、遥さんが僕の腕をキツく掴んで、身動きを取れないようにしてしまった。でも……
仮に追いかけたとして、そこで僕は、めーちゃんに一体何て声をかけたら良いのか……
そう考えたら、抵抗することが出来なかった――。
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