第16話

 次の日から、僕は遥さんと一緒に登校することになった。

 合流するのは、てっきり”学校”の最寄り駅かと思っていたら、

 彼女はどうやって調べたのか、僕の”家”の最寄り駅で待ちぶせをしていた。

 そして、昨日屋上で会った時と同じように、いきなり僕の手を握ると、

そのままひきずるようにして、強引に電車に乗せた。


「宮間クンと一緒に通学なんて、夢みたーい!!」

遥さんは悪びれること無く、腕を絡めながら、キャッキャっとはしゃいでいる。

そんな僕達を、迷惑そうに見ている乗客の視線が、とても痛い……。


「あ、あの――もう少し、離れたほうが……」

 状況に耐えられず、腕をほどきながら僕が言うと、遥さんは、

「ダァーメッ!! 宮間クンとは、これからこうやって毎日ラブラブに登校するんだからねっ!」

と言って、猫のように増々激しく絡み付いてきた。


 電車が一駅進む度、次第に同乗する学生も増えてきて、

居心地の悪さはどんどん膨れ上がっていく。


 もし、こんなところを、同じ学校の誰かに見られたら……

そう思った時、停車駅でドアが開いて、複数の女生徒が乗り込んできた。そして、


「――あ、あれ? ねえねえ……あれって宮間くんじゃない?」

「あーホントだ……でも、横にいる子は何? も、もしかして、彼女??」


 僕達の姿を見つけると、ヒソヒソと話し始めた。


「私知ってる。あれって、写真部の娘だよ……。可愛いけど、でもちょっと変わっていて、なんだか絡みづらいのよ。いつも一人で行動してるし、友達もいないみたいで……」


「ふーん……でも、どうしてそんな娘が、宮間くんとあんなにベッタリくっついてるの??」


「それは、分かんないけど――でも宮間くんって、

意外とああいう娘がタイプだったりするんじゃないかな?」


「ええーやだー! どうして、私じゃないの??」


「まぁ……それは、顔とか?」


「ちょっ、ヒドイ! なにそれー!」


「あはは! ごめん、ごめん。そういう意味じゃなくってさ。性格は別にして、

あの娘ってやっぱり、凄く可愛いじゃない? 幼馴染の桐野さんも美人だし、

宮間くんって実は結構、面食いなのかもって思ったから」


「え……っていうか、それって――やっぱり、同じ意味じゃん!!」


「ばれた?」


「もー! むかつく!!」


「あはは! ウソウソ、冗談よ!!」


 最初は小さな声で話していたのが、

最終的に、彼女達の話し声は遠慮のない大声になってしまっていた。


 だけど、そんな彼女たちの会話から一つ分かったことがある。

 それは、この遥さんが、写真部に所属しているということ。

 どうりで見せられた写真は、凄く良く撮れていた。

 変な条件さえ出されなければ、綺麗に写っている隆の写真を貰いたいくらいに……。


「ねぇねぇ、宮間クン! 今日のお昼ご飯、何食べるぅ? やっぱり一緒に、思い出の焼きそばパンにしますぅ??」


「お、思い出……」


 当の遥さんは、さっきの女子達の会話が、聞こえていたのかいないのか、

そんなことは全く気にならない素振りで、楽しそうに話しかけてくる……。


 けど、僕は写真のこととは別に、もう一つ気になることがあった。

それは、彼女達の会話からして、遥さんは、いつも一人で行動していて、友達がいないらしいということだ。


 まぁ、こんな状況で、同情も何もないのかもしれないけれど……。


 僕がそんなことを考えている内に、いつの間にか電車は、学校の最寄り駅に到着していた。

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