第14話

 授業を終えると、僕は、めーちゃんや隆に気付かれないように、真っ先に教室を出て、そのまま屋上へと向かった。


 屋上には何人かの生徒がいたが、遥という子が誰なのかは全く分からない。


「緊張する……」

 唯でさえ、人付き合いが苦手なのに、この状況は、僕の気持ちを増々硬くさせてしまう。


「それしても……あの写真はどうやって撮ったんだろう。

授業中だったから、カメラなんて持ち歩いていたら、目立ってしようがないはずだし……」

と、その緊張を誤魔化すようにして、独り呟いたその時、


「――っ?!」


 突然、横から誰かが僕の手を握った。


 そして、手を引きつつ、そのまま屋上建屋の裏側へ向かって歩き始めた。

 後ろ姿を見ると、それはどうやら女の子のようだ。


「――あ、あの……」

 僕は引っ張られながら、恐る恐る声を掛けた。

 すると突然、彼女は掴んでいた僕の手をパっと離して、そして、


「宮間クン! お久しぶりですぅ!」

と言いながら、クルッと回転するような仕草でこちらへと振り向いた。


 見ると、それは色白でクリクリとした大きな目に、赤い縁の眼鏡を掛けた、

ポニーテールの女の子だった。

 ――でも、


「あ、あの……ど、どちらさまですか?」


 ――僕はその子に、全く見覚えがなかった……。


「えっ?! ええーー?! ひどいっ! 忘れちゃったんですかぁ??」


「わ、忘れたというか……」


「もうっ! 仕方ないなぁ! 入学式の時に会ったじゃないですかぁ!」


「に、入学式……」


「そうですよぉ! 体育館でお互いの席へ向かう途中に、私とぶつかったんですぅ!

そしたら、宮間クン、尻もちをついた私に向かって、心配そうな顔でごめんなさいって言ってからぁ、

私の手を握って、超優しく、大丈夫? って起こしてくれたんですよぉ??」


 そ、そう言われれば……そんなことがあったような気も……。

 だ、だけど、それで久しぶりと言われても……。


「あとあと、文化祭の時だって、私、美術部の展示を見に行ってたんですぅ!

その時、名簿に名前を書こうとしたらぁ、受付にいた宮間くんが、

超優しく、どうぞって、ボールペンを渡してくれたんですよぉ??」


「え……」


「それからぁ! 売店で私が焼きそばパンを買おうとした時に、私の前に宮間くんがいたんですぅ!

でもぉ、焼きそばパンって超人気だからぁ、宮間くんが買ったら、売り切れちゃってぇ!

それを見て私が、えぇ?! 売り切れですかぁ? って泣きそうになったらぁ、

宮間くんが、超優しく、どうぞって、私にパンを譲ってくれたんですよぉ??」


「あ、あの……」


「それから、私がぁー……」


「あのっ! ち、ちょっと、待って!!」


「は?? もーっ!! なんなんですかぁ?? せっかくいいところだったのに、止めないでくださいよぉ!!

……って、あっ!! も、もしかして!! やっと、思い出してくれたんですかぁ?! キャーキャー!!」


「い、いや……その……も、申し訳ないけど、僕はそのこと……お、覚えていないっていうか……」


「えっ?! ええっ?! そ、それって……全部ですかぁ??」


「う、うん……」


「そ、そんなっ、ひどいっ!! ひどすぎますぅ!! 私をこんなキモチにさせたくせに、全部覚えてないなんてっ!! 許せないですぅ!!」


「そ、そんなこと言われても……」


「もうっ! じゃあ、仕方ないですねっ! 覚えていてくれてたら、許そうと思ってたんですけど、

そういうことなら、本題に入っちゃいますからねっ……」


 彼女はそう言うと、スカートのポケットから何かを素早く取り出して、それをピッと僕の目の前へかざした。

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