第13話
遥なんて名前の子、クラスにいたかな……。
苗字なら分かるかも知れなかったけれど、クラスの女子全員のフルネームまでは覚えていない。
「そもそも、同じクラスだとは限らないし……それよりも……」
席に着くと、僕は教室を見回した。
見ると、めーちゃんはすでに自分の席に着いていて、
隆も学校へは来ているようで、机の横に鞄が掛かっている。
「隆は、朝練中かな……」
昨日、今日と、慌ただしく色々な出来事が起き過ぎて、僕はなんだか頭がクラクラしてきた。
隆はめーちゃんのことが好き。めーちゃんは……僕のことを……でも、僕は隆が……。
考えてみれば、結局お互いの気持ちを分かっているのは、隆とめーちゃんだけなんだね。
僕の気持ちは、隆にはまだ伝わっていないんだ……。
もし、あの遥という女の子が撮った写真を、隆が見たらどう思うんだろう。
きっと隆には、凄い迷惑を掛けてしまうけど……でも、写真が公になったら、
そのほうが僕は、もしかすると隆に自分の気持ちを、素直に伝えやすくなるんじゃないかな……。
「――って、違う! だ、だめだ、そんなこと! 僕は何を考えてるんだ!
そんなことになったら、大騒ぎになって、それこそ告白どころじゃなくなってしまう……」
「へえ。誰に告白するんだ?」
「う、うわわ?!」
突然、背後から声を掛けられて、僕はイスから転げ落ちそうになった。
「お、おいおい、悟。大丈夫か?? そんなに驚かなくってもいいだろう」
いつの間にか、隆が朝練から帰って来ていて、苦笑いしながら言った。
「だ、だって、急に声を掛けるから……」
心臓が喉から出てくるんじゃないかと思う程に、激しく動悸を繰り返している。
その音が隆にまで聞こえてしまいそうな気がして、僕は焦りながら、なんとか平静を装うようにして答えた。
「それで結局、誰なんだ? 悟が告白したい相手っていうのは」
「い、いや、それは……まだ……」
「早く言っちまった方がいいぜ、俺みたいにさ。……まぁ、フラレはしたけどな。
でも、言う前よりも、気持ちは楽になってるんだ」
「た、隆……」
「それに……悟が桐野のことを好きじゃないと分かって、ホッとしたよ。
もし、お前も桐野のことを好きだったら、裏切ってるみたいで、やっぱり顔を合わせづらかったからな……。
まぁ、桐野はお前のことが好きなんだろうけど、それはそれ、これはこれだ。
別に俺には、変に気を遣ったりしなくていいからさ! な?」
「う、うん……」
やっぱり……隆は、無理をしている。
なのに僕よりも、隆のほうが気を遣ってくれている。
めーちゃんだってそうだ。今、隆とこうやって普通に話が出来るのも、
あの時めーちゃんが、僕の背中を押してくれたからなんだ……。
ま、まずい……やっぱり、あの写真は、ばら撒かれるなんてことになっちゃいけない。
もしそうなったら、隆も、そしてめーちゃんも傷つけてしまうかもしれないんだから。
遥という子の意図が何なのか、全く分からないけれど、とにかく僕は、彼女ときちんと話をしなければならない。
逃げる訳にはいかない……。
僕は、覚悟を決めることにした――。
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