第11話
近づくに連れて、やがてベンチに座っている人影も、こちらに気づき始める。
「あ――お前、ど、どうして……」
「やっぱりここだったね、隆。横……座ってもいい?」
ベンチの前まで来ると、僕は、空いているスペースに腰を下ろした。
「さっきは、驚いたよ。急にあんなこと言うんだもん……」
「す、すまなかった。本当は言うつもりはなかったんだが……我慢出来なくなっちまって……
って――そ、それより! お前、桐野はどうしたんだよ! ちゃんと話したのか??」
「話したよ……ちゃんと。怒られちゃったけどね。はっきりしろって」
と、隆の問いに、僕は苦笑いしながら答えた。
「じ、じゃあ、悟。お前、桐野に……こ、告白……出来たんだな?」
「いや、告白なんてしてないよ」
「ち、ちょっと待て! 何言ってるんだ?? じゃあ、お前、何を話したってんだよ!!」
「お、落ち着いてよ、隆。そうじゃないんだ、勘違いなんだよ……隆の」
「勘違い……?」
「そりゃ、めーちゃんとは、小さい時からずっと一緒だったし、今も昔も、めーちゃんのことは好きだよ。
だけど……それは、恋愛の対象としてとか、そういうことじゃないんだ……」
「じ、じゃあ、悟。お前、桐野のこと……」
「うん、友達だよ。幼馴染として大事な友達。だから、それ以外の特別な感情はないよ」
「……そ、それを、桐野にも……言ったのか?」
「ううん。でも、めーちゃん自身が、そのことを、隆にはっきり伝えろって言ったから……
だから、めーちゃんは、もう分かってる」
「そ、そうか……結局、俺が変な勘違いをしたせいで、色々引っ掻き回しちまったんだな」
「そうなのかな……でも、遅かれ早かれ、分かることだったんだと……思う」
そういって僕は、ベンチから桜の樹を見上げた。
「ねえ、隆。覚えてる? 入学した日の帰りに、三人でこの桜の樹を見た時のこと」
「あ、ああ。良く覚えているよ。なつかしいな。あの時は、俺達入学したてで、
これからの高校生活がどうなるのか、不安と期待が入り混じってて。
でも、あの桜の花びらが舞うのを見たら、なんかすげー楽になったっていうか、前向きになれたんだよな」
「うん。でも、隆は、全然不安そうには見えなかったけどね」
「そうだっけか? まあ、そう言われりゃそうだ」
「隆、そのセリフ、あの時と一緒だよ?」
「そう言われりゃそうだ」
「ぷっ、もう、隆ったら、仕方ないな~」
僕達は、向い合って笑った。だけど――
「でも……あの時は、ここに、めーちゃんもいたんだよね……」
「そうだな……」
笑ったのもつかの間に、僕達は沈黙した。
「原因になっちまった、俺が言えることじゃねえけど、俺ら、また元通りになれるかな……」
「どうかな……」
「もう、そういう時期じゃねえのかな、俺ら。……俺はやっぱり、この気持ちをすぐに消すことは出来ねえみたいだ。
自分が、こんなに情けねえヤツだとは、思わなかったわ……」
「隆……」
「けど、悟。お前も、好きなヤツいるだろ?」
「え?! な、なんで急に、そんなこと」
「あはは、すまねえ……けど、その反応は黒みたいだよな」
「う、うん……一応、いるよ……」
”目の前に”という言葉を飲み込みつつ、僕は答えた。
「そうか。でも、その様子じゃ、お前も片思いみたいだな……俺らって、なんだか一方通行だよな。ホントに」
「そ、そうだね」
その時、僕の心臓は、破裂しそうなくらいドキドキしていたのだが、
それを表に出さないようにすることが精一杯なままに、短い返事をした。
「よし、とりあえず帰るか。すまなかったな、悟。散々、気を遣わせちまって」
「ううん。全然」
明日になれば、今日のことは皆無かったことになる訳じゃないけれど、
とりあえず、隆と僕は、めーちゃんのお陰で元の関係に戻れた気がする。
そして、めーちゃんも、時間が経てば、きっと――――。
僕はその時、そんな風に考えていた。
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