第10話

 隆の行きそうな所。それには思い当たる場所があった。

 それは、入学初日の帰り道、僕と隆、そしてめーちゃんの三人で行った小さな公園――。


 同じ中学出身で、初日ということもあり、まだ特定の友人もいなかった僕らは、自然と三人で一緒に帰ることになった。


「悟、もう、入る部活決めてるのか?」


「うん……僕は、美術部に」


「さとくん、絵を描くの好きだもんね」


「俺はまた、陸上部にするよ。今度こそ、100メートル全国1位になってやる」


「というか、まずは全国大会へ出場できるかどうかじゃないの?」


「まあ、焦るな、桐野よ。俺はスロースターターなんだよ。高校からが俺の時代だ」


「ハイハイ」


「めーちゃんは、何部に入るの?」


「んー……私は、帰宅部――かな?」


「え? どうし……あっ……そ、そうだね……ご、ごめん」


「もう、さとくんったら。別に謝らなくっていいよ~」


「桐野も大変だなあ。お袋さん、仕事で帰りが遅いから、妹さんの分も、晩飯は桐野が作ってるんだろ?」


「まぁね。でも、別に嫌じゃないし。私、料理するの好きだから」


 僕達は、そんな取り留めのない会話をしながら、学校の最寄り駅までの道のりを歩いていた。その時――


「あ、さとくん、見て! 綺麗だよ」

と、めーちゃんに言われて、彼女が指さす方へ僕は目を向けた。すると、


「お、これは」

と、隆の感心するような声と同時に、僕はその光景に見入ってしまった。


 それは、一見ただの小さな公園だが、そこに一本の桜の樹が生えていて、

その花びらが風に吹かれる度に桜吹雪となり、僕達とその周辺一帯を埋め尽くしていたからだった。


 そして、僕達がその中へ進んでいくと、

視界の全てが花びらの風に包まれて、その一片一片が、サラサラと肌に触り始めた。


「わぁ、気持ちいい」

 めーちゃんが、その感覚に身を任せるようにして、目を瞑る。


 僕ら三人は、そのまましばらく、花びらのシャワーの感触を楽しんだ。


 そして風が止むと、今度はハラハラと花びらが地面に落ち始める――。


「……なんだか……すごかったね」

と、僕が呟くように言うと、


「学校にも、桜の樹は沢山あったけど、こんなに綺麗に花びらが舞うような光景はなかったもんね」

と、めーちゃんが目を輝かせながら答えた。


「多分、俺らを祝福してくれたんだよ。俺が全国で1位になるのを、きっともう、この桜は知っているんだろう」


「ちょっと、なにそれ? それじゃ、私とさとくんは、全然関係ないじゃないの」


「あーそう言われりゃそうだ。ふはは」


「もう。何言ってるの、秋本」


「隆……可笑しい……」


 僕らは、お互いに目を見合わせて笑った――――。



 ――――あれから、一年。


 僕は再び、あの桜の樹の前へ立っている。

 今は風も吹いていなくて、あの時のような桜吹雪も舞ってはいなかったけど、

公園の奥を覗くと、ベンチに座る一つの人影が見える。


 僕はゆっくりと、その影に近づいていった。

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