第8話

 言っちまった……。

 俺から去っていこうとする、桐野の姿と、その泣きそうな顔を見た瞬間、

これまで悟の気持ちを考えて、押し殺していた気持ちのタガが、完全に外れた――。


「た、隆……めーちゃんに……今、な、なんて……?」


 悟が呆然とした表情で、こっちを見ている。


「悟……すまない。お前達が、両想いだってことは分かっているよ。

だから俺は、ずっと黙っていようと思っていた。でも――

桐野のこんな表情を見て、俺だけじゃなく、お前まで誤解されちまってることを、

そのままにはできないと……いや――言い訳か。これは、言い訳だな。

本当は、俺は自分の気持ちを、桐野に伝えたかっただけなんだ……」


 すると、足を止めた桐野が、こちらへ振り向いた。


「秋本……本気なの? 本気でそんなこと言ってるの? もし、ふざけてるんなら、私、許さな……」


「ふざけてなんかいねえ!! 俺だってこんなこと、冗談なんかじゃ言えねえよ!!」


 桐野の言葉を遮るように、俺は衝動的に怒鳴ってしまった。


「分かってるって……お前が――桐野が、悟のことを好きなんだってことくらいはさ。

桐野と悟は両想い。でも、それをお互いにはっきりとは言えねえ。俺は、お前らを応援してるつもりだったけど――

でも、その内に、もどかしくなった……俺も、桐野が好きだったから」


「た、隆……」


「こんな裏切るような真似しちまった後で……虫がいいかも知れねえけど、それでも、俺にとって悟は、大事な友達なんだ。

だから、桐野。お前、変な誤解はするなよな。後はちゃんと二人で話し合え。そろそろ、お互いの気持ちに正直になってさ」


「秋本……」


「さっきの桐野のセリフじゃねえけど、悪かったな、おじゃま虫で! それじゃあ、頑張れよ、お前ら!! わっはっはっは!!」


 そう言って笑いながら、俺はその場から一見、陽気に走りはじめた。

 情けないことに、これは俺にとって、人生で初めての失恋というやつらしかった――。

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