第4話

 僕の左斜め前の席には、隆が座っている。彼は陸上部に所属していて、

体育会系な性格な為、少し強引な所があるけれど、根はとても優しい良い人だ。


 中学の時から、僕があまりクラスの人達と馴染めなくても、

 いつも声を掛けてくれて、仲良くしてくれた親友。


 ――親友なんだ……。


 4時限目が終わって昼休みに入ると、いつものように隆が声を掛けてきた。


「悟ー! 飯行こうぜ」


 うちの高校では、基本的に学食か売店で、各々が自分の食べたい物を選んで食べる。

 学食は、学費の中にすでに含まれているので無料。売店で売られている物も、コンビニ等と比べれば格安だ。

 今日は天気が良いので、売店で惣菜パンと飲み物を買い、学校の屋上で昼食を摂ることにした。


「ここら辺にするか」


 屋上出入り口建屋の裏側、太陽を背にして、少し影が掛かっている場所へ寄りかかりながら、

僕らは買ってきたパンの包装を開いて、モソモソと昼食を摂り始めた。


「なあ、悟。今朝は悪かったな。ちとふざけ過ぎた」


「い、いや、いいよ。いつものことだし」


「ははっ、そう言われりゃそうか」

隆が白い歯を見せながら、人懐っこい笑顔で笑った。


「でもよ。実際の所どうなんだ? お前って桐野のことどう思ってる?」


 それまでと違い、若干真剣味を帯びた口調で隆が聞いてきたので、僕は少し動揺した。


「どうって言われても……めーちゃんは、幼馴染で大切な友達だと思ってるけど……」


「それだけか? 本当にそれだけなのか?」


 少し前から隆は、僕がめーちゃんに恋愛感情を持っていると勘違いしているらしく、

色々と気に仕掛けてくれているみたいだけど、実は僕の好きな人は、今、目の前にいるなんてこと、

本人は夢にも思わないのだろうなと考えたら、凄く哀しい気持ちになった。


「そ、それだけだよ……」


「じゃあ、もし……もしも桐野に誰かが告白したり、付き合ったりしても、悟は全然平気なのか?」


「それは、めーちゃんがいいなら僕は別に……。でも……どうしてそんなことを聞くの?」


「え? い、いや、別にそういう奴がいるとか、そういうことじゃねーんだ。

そうだよな、そんなこと考えたくもねーよな。ワリぃ、今の忘れてくれ。それ、ちょっともらってもいいか??」


 隆はそう言うと、僕の飲みかけの牛乳パックをサッと奪ってストローに口を付けて飲んだ。


「あ……」


「サンキュ! 俺この後ちょっと部活の奴らに用があるから、先行くぜ」


 僕に牛乳を返すと、隆は急いで屋上の出入り口から階段を駆け下りていった。


 残された僕が呆然としながら、手に持った牛乳に目をやると、

目の前には、隆が飲んだばかりの微かに濡れたストローが、口を開けている。


 た、隆――

 僕はゆっくりと、ストローに自分の唇を近づけた。

 そして今まさに、ストローの先が口に付くか付かないかという瞬間、


「あ! 見つけた! さとくん、ここにいたんだ!」


「うわぁ?!」

 突然横から声を掛けられて、僕は手に持っていた牛乳を強く握りつぶしてしまった。

 その勢いで、噴水のように溢れ出た牛乳が、声を掛けた主に向かって降り掛かった。


「き、きゃああああ!! ちょっと、さとくん! 何するのよー!!」


「え、あ……?! め、めーちゃん?!」


「もうー!! ビショビショじゃない……どうするのよ、これ……」


 目の前には、頭から牛乳を被って、額に髪の毛が貼り付いてしまっている”めーちゃん”が、

地べたにぺったりと座り込んでいた。

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