第3話 今後の方針と自宅会議


ゴブリン数匹に馬車を襲われたが、戦闘に圧倒的な才を持つクロトの活躍により数分でゴブリン達を駆逐することに成功した。そのお蔭か、何の問題もなくボロ屋敷―――自宅に帰ることができた。



現在はクロトの情報を聞き出し、メモに纏めている最中だ。

これから冒険者ギルドを経営していくとなると、沢山の準備が必要となる。まずは人材だ。クロトは一生ヤマトに忠誠を誓うと言ってくれてはいるが、それが本心かどうかは分からない。元々地球に住んでいた日本人とは思えないセリフだが正直この世界に来て誰を信用して誰を信用してはいけないのかの判断が付かなくなってきている。



と、話を戻そう。

クロトの資料を纏めるとこうだ。


・数年前に起こった王国と公国との戦争の孤児。後に傭兵として雇われる。

・家族は戦争時に死亡。妹だけは生きているかもしれないらしいが行方不明。

・戦争後は生きていく為に暗殺者アサシンとして活躍していたらしい。

・暗殺した人物たちの中に貴族もいたようでその仕打ちを受け、逃亡するも右腕左腕が使えなくなり、生きる価値さえもなくなったと錯覚し奴隷堕ちした。



簡単に要約するとこうだ。

戦闘系スキル持ち、詳しく言うと暗殺にとても向いているもので、時に山賊にやとわれたり、時に貴族のお坊ちゃまに雇われたりなどあったそうだ。



「彼奴も苦労してるんだな……金があるだけで俺はマシだったな」



ヤマトの呟きは青白く光る月をバックに光る夜空の中に消えていく。

クロトはボロ屋敷の清掃に入っており、明日からはヤマトが冒険者組合に行き、正式にうちを冒険者ギルドとして稼働させるため申請をしなければならない。


冒険者組合とはレーマ王国の中に全てに位置する冒険者ギルドを仕切る総本山のようなものだ。冒険者ギルドを経営するためにはまず冒険者組合に申請をし、ギルド名を決める。やっとそこで一つの冒険者ギルドとして立ち上がることができるのだ。



申請をしなければゴブリン退治やその他諸々の依頼を解決しても賞金も出なければ知名度も上がらない。冒険者組合に登録し終えたら冒険者ギルド経営責任者がサインをして、雇う冒険者の名前を書くことで雇われた冒険者は賞金の一部を手に入れられるのだ。



ざっと冒険者の組合の説明を終えたとして、クロトの問題は一応解決した。

次の問題はもう一人の奴隷―――兎族のミアだ。

自宅に帰ってからクロトとは話をしたがミアとは未だ一切話はしていない。汚くボロボロな我が自宅だが無駄に広いので一人一人個別の部屋を与えることにした。

正直汚くて掃除するのが嫌だっただけなのだが。

クロトは他ヤマトの隣の部屋を希望。理由は護衛だとか。当面必要はない気がするが用心することに越したことはないのだ。

ミクロトはヤマトの右隣を希望したため、ミアは左隣の部屋を希望した。



ヤマトは現在、ミアの部屋の前に来ている。

今に消えそうな照明が薄暗く輝いている。

ヤマトは少し強く力を入れたら折れてしまいそうなドアノブに手を掛ける。


「ミア、話があるんだが少しいいか……?」

「…は、はい」



ヤマトがドアをノックしてから少し間が開いたが、直ぐにドアが開く。

どうやら着替え中だったようで、服が少し乱れている。

ミアやクロトが着ている服は物置部屋から見つけた真面な服を見積もったものだ。

埃は被っていたが着れない訳ではない。奴隷商人に買われていたときの服では寒すぎるのではないかと思ったからだ。



「す、すまない。着替え中だったのか」

「い、いえ!だ、大丈夫です!着替え終わってましたから……」

「……そ、そうか。ならいいんだが」



ヤマトはこの世界では二十歳前後だが地球では立派な思春期の真っ最中の高校生だ。いくら相手は十二歳程度だとしても地球ではアニメや漫画以外見たこともない美少女だ。多少動揺しても可笑しくはない。


少し思考がフリーズしてしまったのを知らないミアは今泣きそうな顔でヤマトを見ていた。



「ご、ご主人様……?」

「あ、ああ。すまない。というよりご主人様はやめてくれないか?なんか来るものがあるんだ。できればヤマト様とかヤマトでもいいんだけど」

「わ、わかりましたっ!や、ヤマト様!」

「あ、ああ。それでだな、部屋の中に入れて貰っていいか……?」

「……ふぇ?ぁ、あ、すいませんでしたっ!」


この後すぐに部屋に入れて貰った。

冬?の廊下は中々寒かった、と改めて実感したヤマトだった。







■ ■ ■



ヤマトとミアは薄暗い部屋で何時間喋っていたかは分からないが、それも終わろうとしていた。ヤマトがミアの部屋を訪れた理由はミアの事情を知る事、そして今後の行動を決めること。



「……それでいいんだな?俺の命令は残酷で冷酷かもしれないんだぞ?」

「……はい、それでもいいです。や、ヤマト様は話しててとても優しい方だと思いましたからっ!」

「そ、そうか。しかしだな、俺は魔物だけではなく時に人を殺せ、というかもしれないんだぞ?それはもしかしたらお前の同族かも知れない。それでも俺に忠誠を誓うのか?」

「……はい。何があっても私はヤマト様を裏切りません。例え家族を敵に回してもこうして温かい食事と暖かい布団、そしてヤマト様と一緒に居れることが私にとって……」



ミアが最後まで言い切る前にヤマトは手でミアの口を塞いでいた。

ミアが言っているのは理想論だ。ヤマトにこうなってほしいと願望を込めているのだ。現に温かい食事と言っても平民階級者達が食べるものばかりだ。ヤマトが勇者試験を受ける前の好待遇を受ける前と比べると月とすっぽん位の差があるのだ。



「いいか、ミア。俺はそんないい奴じゃない。俺はお前達――クロトやミアを利用するためにお前達を奴隷として買ったんだ。それに、だ。数日だけ食事や寝床を提供して後はお前を外に捨て去るかもしれないんだぞ?それでも……」


今度はヤマトが最後まで言い切る前にミアがヤマトの口を塞いでいた。

その顔は数時間前の喰らい落ちぶれた泣き顔とは違って、綺麗で優しい泣き顔だ。


「それでもです。私は貴方に今日拾われ、そして救われた。それでいいじゃないですか……少しですけど話してわかりました。ヤマト様はとても優しい方なんだ、って」

「だから、それは……!」

「ヤマト様が私を信用しなくても、私はヤマト様を信用します。どんなひどい目例が来ても従います。こ、これでも駄目ですか……?」



ヤマトを大きく息を吸ってはく。

こんな小さい女の子が自分より立派に喋っているのだ。頭を抱えてたくなる。

日本であれば義務教育を受けている立場で沢山親に愛情を注がれるべき存在なのに、数年前には奴隷に陥って大変な思いをしてきたのだ。


ミアも大きな覚悟をしたのだ。

ヤマトも覚悟を決めなければならない。



「分かった、お前の忠誠――信用を受け取る。さっき言ったように俺はお前に最低な命令を下すかもしれない、それでも俺に着いて来てくれるというのなら明日からお前の人生は変わる。いや変えてやる」

「……」


ミアは只々黙々とヤマトの話を聞いている。



「お前――ミアとクロトの人生を変えてやる。だから……」

「……はい、着いていきますよ。ヤマト様」



落ち着いた笑みを浮かべるミアに対し、ヤマトは顔を赤くしている。

自分の言ったセリフを思い出しているのだ、あんなくさいセリフなかなか言えたものではない。


ミアとクロトの了承を得たヤマトはミアの部屋を出て自分の部屋に戻っていた。

汚くとも、ミアやクロトの部屋よりははるかに大きい部屋。

ここがヤマトの部屋なのだ。



ミアに大きくああ言ってしまったからには責任を取らなければならない。

ミアとクロトには部屋の掃除をしてからすぐに寝ろと伝えた。

クロトには部屋の掃除が終わってから部屋に寄れ、と伝えたが。



考え事に没頭していると、ヤマトの部屋のドアがノックされる。



「クロトか?なら入っていいぞ」

「…失礼する」



表情が硬いが、それはいつものことなのだろうか。

ゴブリン達と戦っている最中は今の顔とはくらべものにはならない程の笑顔を浮かべていたというのに。



「お前を呼びだしたのは明日の事だ。お前にはミアより先に今後の事情を話したが、正直不安が残る。ミアの足は今ポーション出直している最中だ。三日もあれば治る、と奴隷商人は言っていたが逆に考えれば三日は身動きが取れなくなる。そこで、だ。俺の当面の護衛はいらない」

「……?」



頭上に?のマークを浮かべるクロト。

それもそうだ、つい昨日まで王国のお払い箱だった奴が何を言っているのだろうか。



「勿論、お前がいなくなれば俺の護衛は誰もいなくなるし、危険だが、明日は冒険者組合に行くし、お前は明日からうちの冒険者として働くことになる。冒険者ギルドを経営するにあたってその行為を妨害することは王国の法に駄目だ、ときちんと書かれているからな。宮廷の連中の奴らはちょっかいを出せない筈だ」



特に腹黒王女の部下達。

直接手を下せなくても、間接的に手を回してここを襲撃させることは簡単だ。

まぁ、明日と明後日は冒険者組合にいるつもりだから早々手出しはできないはずだが。



「…分かった。全てお前に任せる」



クロトは不愛想に言って部屋を出る。

捻くれてはいても、戦闘能力は驚くほどに高い。それに彼奴も戦いを望んでいる。ならミアの足が完治するまでにクロトに冒険者としての活動をさせとけば、ミアの時にはいろいろと有利になるものだ。



しかし問題は別にあると言ってもいい。

正直護衛がいないのは心細いと言ってもいい。ヤマトの直接的な戦闘能力は勇者試験を受け見事勇者になったほか三人と比べると断然低い。そこらの山賊に負ける気はしないが、クロトのような暗殺や戦闘に長けた人物が来たとしたら……?

正直負ける未来しか見えない。



冒険者組合に行くと言っても朝と昼のみだ。夜は自宅だ。夜にはクロトも帰ってきてくれているはずだが、それは仕事の内容にもよる。



「まぁ……考えても無駄か……今日は早く寝るとしよう」



明日の朝は早い。

ヤマトは体を布団に預け、意識を暗闇に預けた。

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神話伝説のギルマス~異世界召喚されたけど才能がないからギルド経営始めました。 黄金の歯車 @yukke1128

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