第2話 奴隷購入とゴブリン襲撃
レーマ王国奴隷繁華街――王都シャワールで一番大きな奴隷が売買されている繁華街だ。各国から承認が大勢訪れ、奴隷を取引する。
ここはレーマ王国でも随一の金が落ちる所だ。その為かここは黄金の都とも呼ばれている。
ヤマトが訪れた理由は言わなくても分かるであろう、奴隷を購入するためだ。
自分の手足となってくれる労働力が必要だ。ギルド経営を始めると誓ったからには労働力が必要となる。魔物と戦うのだから戦闘力の高い犯罪奴隷がおすすめなどと商人は言うが、実はそうでもない。
確かに犯罪奴隷は戦闘力が高く、スキル持ちも多い。しかしそれ故に危険で多額な費用が掛かる。
実は掘り出し物と言って一般奴隷にも超越した才能を持った奴隷がいるらしい。それこそ運だが、良い買い物ができた時の快感は溜まらないとまだ知り合って僅かだが、知り合い奴隷商人は言っていた。
ここ、奴隷繁華街には身分は通用しない。貴族だろうが農民だろうが、王族だろうが。ここは全て平等に自由に取引される。
奴隷繁華街を見渡しながら歩いていく。薄暗い光と商人の掛け声が耳に伝わる。
港に位置しているため、船の来航も多い。
暫く歩いていると、一際目立つ店があった。しかし客はいない。
店の周りには奴隷情報が書かれたポスターがズラリと並び、照明もほかの店と違って明るい。
そこの店に惹かれたヤマトは足を見せに踏み入れる。
それにすぐさま反応した薄汚い服を着た髭を生やした男性が奥から出てきた。
「おや、旦那。奴隷のご購入ですかい?」
「あ、ああ。しかし外見は惹かれる者はあったが中は殺風景だな」
「へへ、よく言われるんですわ。旦那も分かっているとは思いやすが、外見は大事だと言いますからね。さてどんな奴隷を購入したいんですかい?」
すぐさま、話を奴隷購入に持っていくあたり手馴れている商人なのだろうか。
外見はひときわ目立っていたが中はやはり殺風景だ。檻が隙間なく詰められていて、中には獣人族や人間など多種多様だった。
「できれば戦闘能力が高い奴隷が欲しいんだが……犯罪奴隷はなしで頼む」
「犯罪奴隷なしの戦闘力が高い一般奴隷ですかい?性奴隷はうちは扱っていませんし……となると少し値はなりますよ?」
「金貨一枚が目安だと思ってほしい。選別はお前に任せるが適当なのを選ばないでくれよ?」
「へへ、わかりやした。それじゃあ奥で探してきますんで少々お時間頂きますわ」
奴隷商人の男は颯爽と奥に入っていく。
十分ほど待つと、男が檻を持って帰ってくる。
「旦那、こんなのはどうですかい?兎族のメスで年は12歳。戦闘能力は獣人なだけあって高いですぜ、特に速度なんかは誇れますよ。問題は自慢の足が使えないことですかね……それなりに可愛いですし性奴隷なんかにしようかなと思ったんですが惜しいと思いましてね…」
「なるほど、ちなみにその足は治せるのか?」
「へい、医者に相談したところポーションさえ使えば三日程度出直るそうですわ。まぁそれなりに値が張るんでそこは購入した奴の問題なんですがね」
「ふむ、なるほど。戦闘能力は高いんだな……?」
「へい、そりゃあもちろん。深淵の森で試しましたがゴブリン10匹に囲まれても余裕でしたよ」
そうか、とヤマトは頷く。ゴブリン10匹で3銀貨程度だろうか。
3銀貨あれば1日低級宿屋で泊まれる。
もし、金が底を尽きたとしても貯金をしておけば少しは生き残れるのでは、と考える。ポーションは10本で3金貨程度だ。この男の話が本当ならいいお釣りではないだろうか。
「わかった、値段はどのくらいだ?」
「そこで、旦那に少しご相談があるんですわ。奥にもう一人犯罪奴隷の奴がいるんですがね、とんでもない戦闘能力を持ってましてね……スキル持ちでもあるんですわ」
「……なに?」
スキル持ちは希少だ。国の騎士団でも戦闘系のスキルを持っている者は多くはないという。
「勿論戦闘系スキルですわ。まぁ問題がありありなんですがね。両腕がやられてしまってですね、戦意喪失というか……なんといいますかね」
「自分の腕に自信があったが、戦う技術を失しないおまけに奴隷堕ちして喪失していると……?」
「へい、旦那の言う通りですわ。それとですね、奴の犯罪履歴は人狩りなんですわ。血に飢えてたらしくてですね、いろいろ問題抱えてやすが、もし旦那がいいというならばこの小娘と奥にいる奴合わせて2金貨でどうです?目安とはオーバーですがね」
「分かった、買おう。その代わりそこら辺に転がっている武器をくれ。さすがにそれくらいおまけしてくれるよな?」
「旦那も欲張りなこって……了解ですわ。といっても期待はしないで下さいよ、盗賊が付けているようなもんばかりですから」
「ああ、分かった。それじゃあ奴隷認証を始めよう」
奴隷認証とは奴隷が主人に絶対的な服従を誓う為に必要な儀式のようなものだ。
これを飛ばすと奴隷が暴走して主人を殺すなんてこともありえるのだ。
数分程度で奴隷認証を済ませ、馬車に戻る。
後はあの男が奴隷をこちらに運んでくるのを待つだけだ。
行きに食料は揃えた。残りはポーションだが、国王からの賠償金のおまけでポーションやら武器やらが入っているはずだ。ちなみにボロ屋には置いてはいない。
『魔法袋』というものがあるのだが、所謂何でもは言っちゃう四次元ポケットだ。
今現在持ち歩いてはいるが、ここでポーションを見せるの少し危険なのだ。
黄金の都と呼ばれながら犯罪の町とも言われる、誰が何を狙っているか分からない状態で少し高価なポーションを見せるわけにはいかないのだ。
ボロ屋に帰ってから奴隷たちを治療するのがいいだろう。
「旦那、準備ができましたぜ。代金に合ったものをちゃんと選びましたよ」
「ああ、ありがとう」
ヤマトは礼を言ったのを確認すると、男は颯爽と店に帰っていく。
目の前にいるのは奴隷という身分に堕ちながらも美しい黄金の髪を持っている少女、よく見ると非常に顔立ちが整っている。特徴的なのは頭からは得ている長いウサギの耳だ。
隣にはヤマトと同じ色の髪をした黒髪、瞳の色は赤色。男の言う通り顔が沈んでいるのが目に見て分かる。
「お前達の名前は何て言うんだ?」
「「……」」
「…だんまりか」
ヤマトは大きく溜息をつくと、王後飲んの髪を持った少女がビクついた。
「…ひっ……すみませんすみません…殴らないでください…」
頭を抱えしゃがみこむ少女。
声は消え入りそうなほど小さい。
これは重傷だ、と頭を毟る。
「安心して、俺は君を殴ったりしない。俺は唯名前が聞きたかっただけなんだ、お互い名前がないと呼びにくいだろ?あ、俺の名前はヤマトだ」
「……はい」
「君の名前は?」
「…私の名前はミア…宜しくお願いします」
「ああ、よろしく。それで君の方は?」
ヤマトは黒髪の男の方に意識を向ける。歳は15、16歳ぐらいだろうか。
「…クロト…」
少女――ミアより小さな声で呟いたが大和にはしっかり聞こえた。
「クロトか、カッコイイな。よろしく頼むよ」
しかし返事は帰ってこない。当然と言えば当然だが。
立ち話でするのも疲れるので馬車に二人とも乗せる。装備一式は袋にまとめて馬車に乗せてある。
馬車に乗りながら揺れること、数十分。
何の話題もなく、ただただ沈黙だ。細かい内容はボロ屋で聞こうと思ってるので今は話す話題がない。
ヤマトは耐えきれなくなったのか、重たい口を開こうとした瞬間だった……刹那ゴブリン特徴の汚い声が馬車の周りに響く。
「「「「グギャグギャグギャグギャ!」」」」
急いで馬車を見渡すと、十匹以上のゴブリンが馬車を囲んでいた。
手には棍棒やタガーナイフを持つ者もいる。
鍛錬を受けてきたヤマトでも3匹程度のゴブリンなら余裕だっただろうが10匹以上は分が悪い。
ヤマトは奴隷二人を見渡す。
ミアは唯冷静に沈黙を保っているだけだ。逆にクロトは今まで沈んでいた顔がおもちゃを買ってもらった時の子供の顔のような輝いた顔をしていた。しかし自分の腕を見渡すとすぐさま沈む。
ヤマトは見兼ねたのか、クロトの肩に手を置く。
「戦いたいのか?」
「……」
無言だが少し顔が縦に動いた気がした。
「その壊れた腕を治したいか?その腕を治して俺に尽くす気はあるか?」
ヤマトはポケットから一本のポーションを取り出す。
それを見たクロト――ミアさえも目が輝いた。
「これを使えばお前――お前達の傷は全て治る。時間がないから単刀直入に言う。お前達は俺に尽くすか?住まいも食料も奴隷とは思えない暮らしをさせてやる。貴族様ほどじゃないけどな……でどうだ?」
クロトは今まで固く縛っていた口をゆっくりと動かす。
「……尽くす」
「そうか、なら契約成立だな。俺はお前の腕を直し、住まいも食事も与える。その代わりお前は俺の命令を聞きそれを尽くす、それでいいな?」
クロトは力強く頷いた。
ポーションをクロトの腕に掛ける。
すると、青紫色になっていた腕はみるみると人間の白い肌に戻って行く。
数秒経つとクロトの腕は動くようになっていた。
ミアとは違い、骨の骨折だけだったようだ。
「クロト、これを受け取れ」
ヤマトが取り出したのは二本のタガーナイフ。
それをしっかりと受け取ったクロトはすぐさま理解し、馬車を飛び下りる。
もう既にゴブリン達は攻撃を開始しており、馬車の布が切れ始めていた。
それをクロトは鮮やかな剣筋でゴブリンの首を刎ねる。一匹跳ねたらもう一匹。
囲まれたら飛んで脳天に突き刺す。時には二匹まとめて突き刺すこともあった。
約三十秒程度だろうか、辺りには血の水たまりができクロトの腕は血まみれだ。
逆にそれを喜んでいるようにさえ見える。
「ご苦労だった。確かゴブリンの耳は売れるんだったな…クロト剥げるか?」
「…了解」
個袋にゴブリンの耳をはぎ取って歯入れの作業を繰り返していくクロト。
全部回収し終えたクロトは馬車に乗りこむ。
「良しじゃあ出発だな。ミア、お前の足もボロ――自宅に着いたら直す。それでいいな?」
「……はい」
それを聞いたヤマトは満足そうに馬車を走りださせた。
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