第12話 玉の輿は夢じゃない
「私とタクトはそれほど仲がよくないので、いってはみますけど効果は期待できませんよ」
「そんなの、どうってこと、ないですよ!」
急に敬語を使い、勢いがではじめた私にサヤは分かりやすいくらいに引いている。
「……わかりました。ではお詫びにタクトに結婚するよういってみればいいんですね」
そんな言葉に、首がもげとれるんじゃないかってくらいに上下に振る。
「なれば、わしもいこうかのう?ルマナーちゃんともう少し一緒にいたいし」
ピトッとくっついてきて、離そうとしても離れないおじいちゃん。
ほんと、なんなの、このおじいちゃん。
「ルマナールマナーって、なんなんですか、一体」
「わし、幼いタクトとたーんと遊んだってのう。タクトはわしのことが大好きなんじゃよ」
そんな言葉にバッとサヤの方を見やる。
「今の言葉、本当?!」
サヤは冷めた表情で、髪の毛をくるくると指に巻きつけてるのをやめて、
「本当ですよ」
という。
母さんに叱咤激励された時のその声みたいで、なんだか少し安心する。
そっか。
この少女、お母さん属性なのか。
地味な美女だと思ってたけど存外属性持ちなのか、と思いかけるけどそれも違う気がするな。
そういう属性とかない感じがしてきた。
やはり、地味な美女は地味な美女というわけか……。
「今何かとても失礼なこと考えてません?」
「いえ!とんでもない」
「……そうですか。では、早速タクトの元に行きましょうか」
私は舞い上がる気持ちをできるだけ抑え込み「いえす!」
そう返事をした。
でも、無理に気持ちを抑え込むまでもなく隣にいるルマナールマナーいうおじいちゃんの存在を思い出すと自然と心も静まった。
「こんにちは。お久しぶりです」
「これはサヤ様。お久しぶりです。どうぞ中の方へ」
なんということだろう。
この館に、こんなにもすんなりと入場できる日が来るなんて……。
まるで夢みたいだ。
私とサヤのいうタクトが同一人物であるのともほぼほぼ決定していてそれも夢のようだ。
ここにこうやって正攻法に入ったの初めてだ。
へえー。こうしてみるとやっぱり立派なお屋敷よねえ。
何リッチぐらいの価値があるのかしら。
なんて呑気なこと考えていたら見知った顔が姿をあらわす。
「サヤ……」
引きつった顔でそういう、ニアちゃん。
「あら、ニア。お久しぶり。そんなに嫌そうな顔をしてどうかしたの?」
「どうかしたもなにも」
そういってまず目線をやるのは私の方。次にルマナーのおじいちゃんをジロジロと見やる。
なぜ、ゴミを家の中にわざわざあげるのかといった感じだ。
流石ニアちゃん。あいも変わらず辛辣だ。
けど、今はそんなのどうだっていい。
だってやっと正攻法でここに入れて、やっと、正攻法でタクトとの結婚へと近づけるのだ。
ニアちゃんがどう思おうがどうだっていい。
「タクト、いるかしら」
「お兄様なら自室にいらっしゃると思うけれど……」
訝しげな視線と表情を変えることなくそういう。
「そう。わかったわ。ありがとう」
簡潔にそういうと「タクトの部屋はあっちよ」といって迷いなく歩き出す。
あまり仲良くないという割には部屋も把握してるみたいだし、そこまで仲良くない雰囲気を感じられない。
これは期待できるな。
歩いていくうちにサヤが真っ直ぐに向かっていく、タクトの部屋と思わしき部屋の扉が見えてきた。
あの扉の先にタクトが……。
ゴクリと眉唾を飲む。
「あの……」
急に立ち止まるサヤ。
立ち止まるとは思っていなかった私は思い切りサヤにぶつかる。
が、サヤは動じることも、倒れることもなく(存外力が強いようだ。ついでにいうとハートの方も……)
「1つ聞いてもいいですか」
「どうぞ」
この体重◯◯キロの巨体女がぶつかってきたというのに平然としているサヤに若干引きつつ答える。
「あなた、なんでタクトと結婚したいんですか?」
そういわれて、当たり前のようにすぐ言葉が出てくるもんだと自分では思ってた。
でも、言葉に詰まった。
だって、なんでもなにも、ただ、私は、タクトと結婚したいって、それだけなのだ。
「門の前に溜まっていた女の方々を見て察しはついたかと思いますが、ちょうど結婚できる齢となったタクトには玉の輿目当ての女性が毎日押しかけてきてるんです」
サヤの言い方からは、玉の輿目当てですよ?信じられます?という玉の輿を軽蔑している意思が感じられる。
「タクトと私は別に仲はよくありませんけれど、従兄弟ですし、幸せになってほしいという気持ちが多少はあるのです」
胸に手を当て、切なげにいうその姿はまさに悲劇のヒロイン風。
なぜここで悲劇のヒロイン風の猛威を振るってるのかは謎だが。
「だから私がなにを言いたいかといいますと……」
真剣な瞳に見つめられ、なにを言われるのかと身構えていたら予想外の言葉が耳に飛び込んできた。
「タクトのこと、好きなんですか?」
言い終えたあと、きゃっ言っちゃったなどと一人照れてるのがなんとなく腹立たしい。
なるほど……。
地味な美人であるサヤちゃんは、恋に恋する乙女系らしい。
「タクトは王子ではないですけど、あなたにとっての王子様なんですか?」
聞いといて恥ずかしいらしいサヤは頬を朱に染めまたもきゃっという。
鬱陶しくはあるものの、今はそれどころじゃない。
私、タクトのこと好きなのかな。
またも疑問に思う。
何年もタクトと結婚することだけが私の希望で、執着してるだけで、別にそんな気持ちは……。
「どうなんですか」
サヤが尚もそうたずねたそのとき、サヤの表情が見るみるうちに変わっていく。
どうかしたのだろうか。
サヤの視線の先を追う。
「お前……懲りずにまた……」
私の背後に立ち呆れ切った声でそういうその人。
呆れた嫌そうな声を出すくせにすぐに追い出したりしない。
なんだかんだ優しいのか、甘いのか。
恋愛の好きとかよくわからないけど、そういうところ、割と好きかもしれない。
だから私は、とりあえずサヤの質問に答えることにした。
「うん、そう」
その声は思ったより真っ直ぐなものになって、サヤは頬を尚も朱に染めた。
「それに、じいちゃんとサヤまで……。一体なんなんだあ?」
心底疲れた様子のタクトくん。
ここで結婚話をもちかけるのはまずい……よなあ。
「お久しぶりね、タクト。今日はあなたに話があって来たのよ」
「なんだよ。おれはもうお前に世話されないといけないガキンチョでもねえんだから変な世話焼きだけはやめてくれよ」
「なっ!ほんっと、あなたって失礼ね」
そんなサヤのプンスカした声は総スカンで、ルマナーのおじいちゃんの方を向くタクト。
「じいちゃん、久しぶり。元気だったか?」
「おお、当たり前じゃろ」
……タクト、嬉しそう。
純粋に笑ってるとこ初めて見た。
かっこいいというより可愛い笑顔だ。
「おい、なにこっち見てんだよ」
「べっつに〜」
急に視線があったので慌てて逸らす。
「どうせ、また、結婚してくれだのなんだないいに来たんだろ」
「……」
なんでわかるんだろ。
いや、わかるか。
「だから、俺は」
「待って、タクト。彼女、真剣なのよ」
口喧嘩になりそうになった私とタクトの間にすっと割って入ってくれるサヤ。
助かった。
「彼女は本気であなたのことが好きなのよ」
おいおいおい
なにをいい出すかと思えば……
「だから、お願い、結婚してあげて」
タクトは深くため息をつく。
ルマナーのおじいちゃんが追い打ちをかけるように口を開く。
「わしからもお願いじゃよ。可愛い娘さんじゃあないか」
「……自分の力で……ならともかく、人の力借りるって……」
ボソボソとそんなことを言うタクトにハッとさせられる。
そうだ。
私は最初の最初以外全部、タクトとの結婚のために、誰かを頼りながらここまできた。
ラン、サヤ、ルマナーのおじいちゃん……。
途端、自分のことが恥ずかしくなって来た。
「私、自分の力でタクトの心を手に入れる」
結婚するってこと、それは好き合うってこと。
今までは漠然と結婚しかなかった頭の中に一筋の道が見えてきた。
結婚したいのならば、まずは
「私のこと好きにさせてみせる!」
そう宣言してみせる。
するとタクトは、予想外の反応を示した。
嫌そうに大きなため息をついて「勝手にしたろ」そう言うと思っていたのに
彼はにいっと笑って、そうこなくちゃな、
そういうように
「勝手にしてろよ」
そういった……。
超絶美人な姉にかわりイケメン貴族に嫁ぎたいのですが 爽月メル @meruru13g
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