第11話 目立つ不美人と地味な美人

「こっち。来て」


……なんだろう、この珍妙な状況は……



ポツリとそんなことを思う私は今、ルマナーなる部族の方々と共になんとかルーザスの屋敷をでて、町の裏通りをテクテクと歩いているところ。


つい先刻まではルーザスの皮肉を一生聞かされるという最悪の未来に絶望し、これなら極貧生活の方がマシだと思っていた。


けど……

正直今はこの謎の部族人といるよりあの勘違い不美人女といる方が百倍マシだと思える。


そうだよ…今更だけど怖くなってきたんだよ!

ふくよか不美人が怖がってたってなんの需要もないだろうがな!


心の中で誰に向けてでもなく叫ぶ。


これはもう昔からの癖のようにも思える。


……これが癖って……改めて終わってるわね

私。


「もうそろそろ。」

「もうついた」

もうそろそろと、ついたの間が近すぎないか


「ついたって……誰もいないけど……」

私が見やる先にはいかにも裏道にありそうなゴミ溜めがある。


え?なに

このゴミ溜めがこの人らの合わせたい人?

人じゃなくね?



「奥に、扉ある。そこ、とおる。そしたら、いる。われらは、帰る。」

「え?帰んの?」

さっきまであんな、ルマナーだかなんだかいって崇め奉ってたくせにあっさり離れてくのね。


「帰る」

彼らはただそれだけいって、元来た道を引き返していく。


ついて行こうかとも思ったが、あの巨漢二人に挟まれるのはもうごめんだし、とりあえず意味わからんけどこのゴミ溜めの奥の扉とやらを見つけてみることにする。



扉なんてとりあえずどこにも見当たらないから、きっとこのゴミ全てをどかしたらでてくる……とか、そんなんなんだろうな……


うわあ、ダル……



別に汚いものにそこまで抵抗はないけど、目線より遥か上にまでつまれたゴミをただただ避けるとかありえないくらいの苦行。


しかもその先に利益があるとは思えない……


もしあったとしたら痴漢の加害者を見つけられるかもってことだけ……



考えただけでうんざりするがここはもう覚悟を決めてやるしかない。



妙に気合いがはいってきて、ゴミ溜めをよけ、奥への道を探す。



「あった……」

ゴミを避け続けてどれくらい経ったろうか。


謎の扉が出てきた。


「で、ここの中に入れと……」

大きな独り言を呟くとドアノブに手をかける。


「あら、お客さん?」

そんなとき、背後から声がする。


先程まで部族に追われていたこともあり、背後からの声に肩をビクッと震わせオーバーに驚く私。


「ふふふ、そんなに驚かなくてもいいのに」

クスクスと笑うその人に唖然とする。

まず、ふふふって笑う人現実に存在するんだ……。

そして、

「美人……」

思わず呟く。

それくらい、整った顔立ちをした優しそうな雰囲気の美女がそこにはいた。


ただ、まじまじと彼女のことを見つめていてあることに気づく。


美人だ。

たしかに美人。

だけれどそれだけ。

私やルーザスのような強烈なオーラのようなものはない。

この場合姉様のようなゴージャスなオーラというべきかもだけど。


なんにしてもなんか、美人だけど、足りない感じなのだ。


そこに思わず小首を傾げていたら

「どうしたんです?中に入らないんですか?」

なんて聞かれる。


「いや……。そもそもデューンとフォオリルとかいう部族民がこの先に痴漢したやつがいるとかいうんでゴミをどかしてて……」

で、そこに、敵なのか味方なのかよくわからない部類である地味な美人が現れたと……。


流石にそこまでは口に出さないでおく。


ルーザスのような腹の立つ相手には初めから全力で飛ばしていくが、この人みたいな全く敵意のない人にわざわざ突っかかるような真似はしない。


「この先には私のおじいちゃんがいるんです。おじいちゃんは痴漢なんてしてませんよ」

プンプンという効果音がつきそうなその言葉と声音。

これ、ルーザスや私がやったら人から躊躇なく殴り飛ばされるくらいにはいらっとさせられるだろう所業なのに、彼女だと全くそうならないから不思議。

ほんと美人って得よね。


ただやっぱり……


「なんなんです?さっきから私の顔をまじまじと……」

段々と不審そうな顔をする地味な美人に口を開きかけたそのとき、


「なんじゃね、先程からやかましい」


後ろの扉が急に開き、近くに立っていた私は当たり前のように背中を扉に強打される。


「いっ」


とはいっても肉のクッションがあるので本来襲ってくるはずの痛みよりは幾分かマシなのだが……


「おお、サヤじゃないか」

「おじいちゃん!」

痛みに悶える私などお構いなしの二人。


若干イライラするが、こういう場合気にしていても仕方がない。


このおじいちゃんが痴漢してきた犯人なのか?


「おじいちゃん、実はこの人がね、痴漢されたとかなんとかでおじいちゃんのとこに行こうとしてたの」

「なんじゃと?」

ゆっくりとこちらを見やるおじいちゃん。

まだ犯人かも確定してないので敵意はむき出しにせず

「どうも」

と一言いう。


「なっ……!」

私の顔を……いや、お腹を……見た途端に見る見る顔色が変わっていくおじいちゃん。


「お主はあのルマナーの……!」

そういやデューンとフォオリルも、私のこと、部族で飼ってるルマナーとかいう動物に似てるとかなんとかって……

「いや、誰がルマナーよ!」

私的にはかなり的確に突っ込みができたと思ったが、二人の反応は薄い。というか、ない。


お笑いがわからない人たちなんて、やあねえ。


「おお……このお腹……」

そういって地面に膝をつき私のお腹に顔をくっつけてくるおじいちゃん。


流石に恐怖を感じて一歩下がる。


「あの、あなた誰なんですか。あなたが私に痴漢した人なんですか」

聞かれたからには答えるしかない……とでもいうようにおじいちゃんは一つ息を吸い込むと

「わしはルッキャーニなる部族の長じゃ」

「長……」

その言葉を聞いた途端心の中に灯火がともる。

長ってことは権威があるってこと、そしてお金があるってこと!


これは媚び売ったもんがちね。


「しかしながら今は部族のもの皆に見捨てられて一人この地に隠れておるのじゃ」


簡単に消え去る灯火。


そんなこったろうとは薄々思ってたよ……

だってこんなゴミダメの奥の隠し扉の中に住んでるおじいちゃんだもん

でもさあ……でもさあ……!


若干涙ぐみながらも

「そうですか。痴漢の犯人がわかって、色々とどうでもよくなりました。それでは私は失礼いたしますね」

そういって珍しく意気消沈して歩き出す。


今日は朝から動き回って相当疲れたからメンタルにきてるんだろう。


うん、早く帰ろう。


そう思うのに


「待ってください!」

凛とした響く声でそういうと私の手首を掴んでくるサヤなる地味な美人。


「おじいちゃんがご無礼をはたらいてしまったこと、謝らせてください。そして償いをさせてはくれませんか!」

必死な形相のその言葉に、ああこの子ただの地味な美人ではないかもしれんなあ、なんてぼんやりと思う。

「ははは。じゃあ、タクトと結婚させてほしいな」

無理難題を押し付けてチャチャッとこの場を去ろう。


ルッキャーニだかルマナーだか知らんけどこれ以上関わりたくはない。


「タクト……って、誰ですか?」


「妹にニアって女の子がいて、プロテーマ家のルーザスってやつに追いかけ回されてる貴族のタクト」

こんなこといったって部族の娘さんにはわかりゃしないのだろうけど。


「それって……私のいとこのタクトですかね?……。ニアという妹はいますし、貴族です」


「……え」


「私のいとこのタクトは、ニアという妹がいる、スカした俺様系の男です」


スカした俺様系の男でピンとくる。それってきっと……!

「そのタクトだよ!確証ないけど」

直感が告げている。2人が話しているタクトは同一人物である、と……。


「私、タクトのいとこです。名前はサヤ・ティアンズ・モーメル。」

モーメル……!

それってば、十本の指に入るという有力貴族の一つ。

「じゃあ、タクトもモーメル家の人ってこと?」

そういえば私はタクトが何家の人かを知らない。

「いえ。タクトはディラーズの家のものです」

ディスラーズってそれまた、五本の指にははいる名門貴族……!



つまりあれか。

私が今までのところ知り合った貴族様方の地位は順番でいうと、ルーザス、タクト、サヤになるわけか。そして3人とも相当な有力貴族。


「それで、私のいとこのタクトと結婚したいんですよね?」

「はいはいはいはい!!!!」

心の底から私はそう叫んだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

超絶美人な姉にかわりイケメン貴族に嫁ぎたいのですが 爽月メル @meruru13g

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ