第7話 人型兵器と自国の利益

 母艦の報告で、私に砲弾を発射したのが未来社の潜水艦であることがわかった。そして、反乱の首謀者、遠隔操作式人型兵器の元テストパイロットの前原ジュンジがその潜水艦に乗っている可能性も指摘された。

 潜水艦に侵入して白兵戦をするのが次の命令だった。前原などの意識を取り込んだ遠隔操作式人型兵器を殲滅する。

 白兵戦では三人一組で行動する。真理と私は当然組む。残りの一人には私の部下である水谷軍曹を選んだ。真理と私、水谷の三人は司令室と思われる敵潜水艦の最深部まで到達し、そこに前原がいる可能性が高いと考えた。万が一前原がまだ意識を保っていて攻撃してきた場合のことを考えて、電磁波手榴弾と通常の手榴弾を同時に一発ずつ使う。人間の悲鳴が聞こえ、爆発が起こり、静かになってから部屋に入る。煙が濛々と立ち込める室内には自分達の足音以外聞こえない。

 ふわっと煙の風向きが変わるとその中心から突如として人型兵器の姿が現れ真理を押し倒した。

「馬鹿が! 俺だってこの体が電磁波に弱いことくらいわかってるんだよ!」

 前原と思われる人型兵器が真理に殴りかかる。爆発の直前に再起動でもして電磁波による被害を免れたのだろう。私は殴るのに夢中になっている前原を蹴飛ばし真理を救出する。水谷がスタンガンを構えて前原に突っ込む。だが、何者かが現れて水谷を跳ね飛ばした。

「そこまでです!」

 サクとロンの姿があった。

「あなた達は憎しみ合って殺し合ってはいけない」

 サクとロンが動けなくなった前原を担いで部屋を出ていった。真理はそれを追いかける。私は水谷の無事を確認すると先に出た四人の行った方向へ走る。

 無力化された前原は艦上に座らされていた。サクはずっとカメラを回したままでいる。騒ぎに気付いて広報課や他の面々も艦上に集まってきていた。

「もうこの潜水艦に未来社の社員は生き残っていない」

 サクが話し始める。

「これはアリトシの内部の問題ですから、前原とあなた達はこの人に然るべき処罰を与えなければいけないはずです。問答無用で殺してはいけない」

 アリトシ社員の誰かが動くと、ロンがそれに反応して構えの姿勢に移る。

「私達は上からの命令でこいつを殺すことを許されている。それ以上に何を求める?」

 真理が答える。

「平和的解決です」

 サクの答えに、また始まった、と言いたげに真理が嘆息する。三度目の妨害にとうとう耐え忍ぶ根性も尽きたようだ。

「平和を訴えた結果、何が起こった? 南日本はアリトシがいなければ商売もできない脆弱な国になったじゃないか。大北京も未来社も、奪い取らなければ生きていけないことを理解して、企業戦国時代に便乗している。今は分け合っている時ではないんだ。自分達の取り分を確保するために戦って勝つしかないんだよ」

 大佐になる人間とはこういうものなのか、と周囲の部下達は真理の発言に感心しいている。戦闘を楽しむことしか考えてこなかった彼らにとっては寝耳に水だろう。

「その考えが事態を悪化させているとは思わないのですか? アリトシが武力行使をしなければ大北京も未来社も武器を使うことをやめるはずです。彼らはアリトシが自分達のものを奪うから武器を携行するのです。アリトシが平和に生きていこうと考えを改めれば大北京も未来社も企業戦国時代を終わらせようと思います」

「アリトシが武器を捨てたらその二国は攻めてくる」

「ですから武器を使われる前に物資を分け与えてしまえばいい」

「それではこちらが生きていけない」

「平等に分配すれば、十分でなくても多くの人間が死ぬことはありません」

 武器を放棄すれば必ず平和になるわけではない。誰もが自分が生きていくために自分の取り分を確保しなければならないのだ。足りないなら他人の取り分から分けてもらうしかない。今はその手段が武力だ。他に方法はない。

「あ、ちょっとすいません!」

 広報課のリポーターが突然声を張り上げた。真理とサクは口論をやめ、私も考えるのをやめた。報道が状況に干渉してくることは珍しいことだった。

「今、別の班から連絡があって……。アリトシの人型兵器が朝鮮半島に向かっているそうです!」

 その場にいた全員が声を出して驚いた。

「兵器の名前は?」

 誰彼ともなく訊く。

「ジュピター……? あの、私知らないんですけど、そんな名前の人型兵器ありましたっけ?」

明王ジュピターか!」

「武蔵さん!」

リポーターが不安げに答える中、真理と私は同時に叫んだ。明王ジュピターといえば、アリトシ本社がある移動する海底要塞乙姫アトランティスの護衛をしている水陸空用人型兵器の名前だ。極秘任務であるため一般のアリトシ社員はその存在さえ知らないが、持田の友人がパイロットをやっていることから、真理と私は知っていた。

「何で本社の護衛やってるやつが朝鮮半島に行くんだよ!」

 真理のその一言で、広報課の面々もこれがどれだけ理解不能な事態なのか気付いた。

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