第5話 電磁波ミサイル攻撃のあとで

 遠隔操作式人型兵器との交戦で一体の人型兵器を損失したことが、思いの外本部に衝撃をもたらし、次の作戦にはミサイル攻撃が採用された。電磁波ミサイルという新型のミサイルは、爆発は起こさず電磁波だけを全方位に撒き散らす。その効果は一瞬だが、電子機器が機能を失うには充分すぎる。遠隔操作式人型兵器が電源の入った状態で電磁波を浴びれば、取り込まれた人間の意識も永遠に吹っ飛ぶということだ。電磁波ミサイルが反乱軍のいる船舶都市に落ちて、電磁波の影響がなくなったら、私達は動かなくなった遠隔操作式人型兵器を回収する。

 電磁波の影響を受けないよう、私達人型兵器のパイロットはなるべく目標から距離を取り、電源を落として待っていた。作戦では電源を落としてすぐ電磁波ミサイルが発射され、一〇分後に着弾、さらに三分経ったら私達が動き出すことになっている。

 タイマーが鳴る。私は足元の電源スイッチを押す。仰向けに寝かされた私は舞姫ブラックスワンが水平を保ったまま浮かび上がるのを感じた。


  *


「伊豆大佐、山本曹長、聞こえるか。迷惑な映像を流している人間がいる。空からそっちの状況を撮影しているんだ」

 伊藤が無線で指示を飛ばす。

「こちら伊豆、確認しました。昨日見かけた南日本の民間の飛行艇です。対処します」

 回収作業が進んでいく中、それは突然の来訪だった。

「よろしく頼む」

 サクとロンの飛行艇が再び作戦領域に入ってきた。今回は自前のカメラでアリトシの作戦を無断で撮影して全世界に訴えかけるつもりらしい。

「すぐさま撮影を止めなさい。さもないと狙撃します」

 二体の鳥形の人型兵器は鷹が狩りをする時のように飛行艇を取り囲んで旋回する。真理が懸命に撤退を迫るが、サクは一歩も退かない。

「私達は南日本の一般市民です。危害を加えたら国際問題に発展しますよ」

「私達は南日本の防衛隊とは違う。戦争をするつもりならいつでも相手になります」

「それは南も北も望んでいないはずです」

「アリトシは利益になるならどんな戦いでもする」

 昨日と全く同じで、真理もサクも自分の考えをぶつけるだけで話が前に進まない。

「自分達の利益だけを考えていることが愚かなことだと、この配信を見た人達はきっと思います」

「何もせず手をこまねていたら誰のことも救えない」

「伊豆大佐、命令を変える。その女に僕と直接話すように言ってくれ」

 真理とサクの口論に割って入って、伊藤が真理に命令する。ロンの件といい、サクは何かしらの形で遠隔操作式人型兵器に関わっていた可能性がある。伊藤はそのことに気付いたのだろう。

 無線から伊藤が話す声だけが聞こえてきた。途切れ途切れに聞こえてくる内容から、サクが遠隔操作式人型兵器のテストパイロットだったことがわかった。大北京の占領地での開発初期段階から関わっており、大北京の国民だったロンも同じ時期から開発に携わっていたらしい。

 しばらくして、伊藤がもう飛行艇には構うなと伝えてきた。

 アリトシの広報課が現地に派遣されると伊藤は言った。サクのネット配信に全世界が気付くより先に公式発表を知らしめるだろう。

 私は命令に従い残骸の回収に戻った。

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