第2話 反乱軍鎮圧作戦

 真理と私は母艦、水空両用戦艦破壊神バルスへの乗組み準備に入った。真理の部下で破壊神バルス艦長の三澤暁海が真理に手を振る。先の戦争では真理の代わりに艦長職を見事に果たし、少佐に昇進したのだった。まだ二〇代の初々しい少女のようだが、一端の軍人だ。遠くの方で、私の部下の水谷甲斐軍曹も私に気付いて会釈する。彼は舞姫ブラックスワンの前に私の専用機だった特殊戦闘機彦星ミルキーウェイ三八型サンパチを譲り受けた。操縦席パイロットルームの椅子が寝た形になっていて、仰向けかうつ伏せの状態で操縦するサンパチと舞姫ブラックスワンは、私のためだけに作られた特別仕様だ。私の他に操縦できるパイロットはいないと思っていたから水谷が乗れるようになった時は素直にうれしかった。

「真理、お前もう調子は大丈夫なのか」

 私が視線を遠くにいる部下達の方に向けている間に、壮年の軍人が間近まで来ていた。持田だ。真理は伯父の心配そうな眼差しを避けるようにして早口に言う。

「伯父貴が心配することじゃない」

 真理が去っていく。持田は私が急いで真理を追いかけようとするのを引き留めて言った。

「織牙ちゃんにも迷惑かけるな。すまない」

 水陸両用人型兵器荒海ポセイドンのパイロット、持田映太大尉は私に信頼しきった目を向けてくる。そんな顔をしないでほしい。今、私が弱音を吐くわけにはいかないのだ。

「真理のことは私に任せてください」

 私は真理を追いかけて自分の荷物を取りに行く。真理が自分の荷物と私の荷物を両肩にかけて歩いてきた。変に男ぶってそんな気遣いしなくていいのに、とは言えず、私は真理に荷物を持たせたまま破壊神バルスに入った。


  *


 本作戦は日本海沖に停泊中のアリトシの船舶都市に籠城している反乱軍の鎮圧だった。反乱軍は皆、新しく開発された遠隔操作式人型兵器のパイロットだ。私達パイロットが搭乗して操縦するのとは違う。神経を繋いで遠隔操作するのだ。その遠隔操作式人型兵器に不具合が起き、パイロットの意識が兵器に取り込まれ、肉体が死亡する事案が発生した。反乱軍はその被害にあった人達だ。本作戦で私達は人型兵器同士で戦わなければならない。

本作戦の責任者で設計者メカニックデザイナーの伊藤国久は遠隔操作式人型兵器開発の責任者でもあった。本作戦の指揮を執っているのは尻拭いのためだろう。

 真理の乗った荒雲ヘラクレスは海中に身を潜めている。私は舞姫ブラックスワンを水鳥がやるように足を畳んでちょうど荒雲ヘラクレスがいるところの真上の海面に浮かせていた。

他の人型兵器達は反乱軍の遠隔操作式人型兵器と交戦している。私達はその中には入っていかない。真理と私はこの反乱の鎮圧の他にもう一つ任務が与えられていた。

「織牙、三時の方向に見えるか、Unknownだ」

 真理が無線で報告する。レーダーに味方とも敵とも違う色の点が表示されている。遅いが少しずつ戦闘区域に近づいてきている。どうやら私達の任務に関係しているらしい。

「真理さん織牙さん、艦長です。こちらは一旦任せてください。二人はあの得体のしれないのを追ってください」

 三澤艦長は極秘の別任務について聞かされていたようだ。真理と私は人型兵器をレーダーの示す方向へ動かし始めた。私は舞姫ブラックスワンを飛翔させる。

 スピーカーから持田の怒号とも取れる悲鳴が聞こえてくる。私は目視でゴリラのような形の荒海ポセイドンが大きい人型兵器に殴られているのを確認した。

「今海面に荒海ポセイドンが出てきたのが確認できた。かなり大きい人型兵器と戦っている。援護が必要だろう」

 レーダーに映ったUnknownは依然として近づく速度を緩めない。真理は迷わずにUnknownに向かっていく。

「圭一、持田さんはいいのか」

 私は念のため、真理に確認した。

「伯父貴がこんなことくらいで死ぬわけない」

「焦りすぎじゃないか?」

「何をだ? この仕事に行動や決断が早すぎるなんてことはないだろう」

 私はそれ以上言い返しても仕方がないと判断した。私も連戦練磨の持田が負けるとは思っていない。だが、真理が決断を早まることだけは避けなければならない。それは私の義務である気がする。私が真理を好きだからじゃない。真理が今生きている私を頼っているからだ。

 レーダーに映っていただけだったUnknownが肉眼でも確認できる位置にまで近づいた。飛行艇だった。私は操縦席パイロットルームを回転させてうつ伏せになってその飛行艇を目で追う。飛行艇は舞姫ブラックスワンに気付いていない。

「目標を確認。飛行艇だ。こちらには気付かず海面に沿って真っ直ぐ戦場に向かっている」

「了解。敵か味方かわかるか?」

「拡大して見たが、企業のロゴのようなものは確認できない。一般人か?」

「乗組員の特徴は?」

「二人いる」

「戦場から離れるようにアナウンスしてみてくれ」

 返事はなかったが、飛行艇はこちらに気付いたようだ。少し進路を変えようとしている。

「聞こえなかったのか、これ以上近づいたら撃つぞ」

 相手に威圧感を与えるため、わざと羽ばたかせて飛行艇を風で揺らす。それでも飛行艇は離れない。

「圭一、撃っていいか?」

真理から返事がない。何をしているんだ。私は少し声を荒げて真理にもう一度呼びかけた。

 真理は沈黙したままでいる。まさか、似ている人型兵器を操縦して、荒波リトルマーメイドパイロットのことを思い出しているのか。

「圭一、もう限界だ」

「すまない。俺がやる」

 荒雲ヘラクレスが浮上した。飛行艇の前方で軽く波を起こしてやるつもりのようだ。

「金山のことを考えていたのか」

 真理は荒波リトルマーメイドパイロットの名前に反応を示した。慌てたように早口で否定する。

「そうじゃない。どう対処するかを考えていたんだ」

口ではそう言っているが金山蜜のことを考えていたのは図星のようだ。それも無理はない。金山は荒波リトルマーメイドパイロットで真理の部下だったが、真理は彼を殺害したのだった。

 さっと海面に姿を現した荒雲ヘラクレスは尾鰭を操り飛行艇に向けて波を発生させた。飛行艇はぐらぐら揺れながら辛くも荒雲ヘラクレスとの衝突を避け、海面を離れて飛び立った。

 真理は荒雲ヘラクレスを飛行モードに変えた。側面に固定されていた羽が広がり、舞姫ブラックスワンと同じように羽ばたいて浮き上がった。

「持久戦に持ち込んで地上に追い込もう」

 ここで一番近い地上は南日本の新潟県のはずだ。そこに降ろして乗組員を追い込む。真理と私は飛行艇を誘導して陸地に誘い込んだ。真理の牽制弾が飛行艇の左翼を掠め、疲弊した飛行艇は海岸に向けて機体を滑らせていった。

 浅瀬に人型兵器を停泊させ、乗組員達を追った。一人は生身の人間の女性。もう一人は作戦資料で見た大北京のパワードスーツにそっくりの鉄の鎧を被った人間だった。あれは遠隔操作式人型兵器なのだろうか。

 崖に追い込むと鎧を着た方が近接戦闘を仕掛けてきた。私が相手になった。金属の重い拳をまともに食らったら確実に負ける。鎧の接合部分の少し弱くなった部分に膝蹴りを入れると、鎧は後ろに倒れこんだ。真理が銃を突きつける。崖の先端のすぐ近くでその様子を見ていた女性は、明らかに非力で銃で脅すまでもないことがわかった。

「あんた達は何をしていた。このパワードスーツは何だ」

「私達はアリトシの敵じゃない。私はサク。その人型兵器はロン。あなた達が戦っている反乱軍と同じ、遠隔操作式人型兵器の末路よ」

 女の方が答えた。

「遠隔操作式人型兵器だと?」

 私と真理は警戒心を強めた。サクは自分達が反乱軍とは関係ないことを強調し、詳しい事はロンに向けている銃をしまったら話すと言った。

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