エピローグ

 さて、その後の話をしましょう。


 出かけたときの悲愴な気分とは打って変わってふわふわと帰った私ですが、翌日にはミュリーちゃんが、なぜかウォンさんと一緒に駆けつけて、根掘り葉掘り首尾を訊いてきた挙句、二人で勝手に盛り上がって帰っていきました。


 ウォンさんにいたっては、「十八歳まで赤ん坊はキャベツ畑で採れるって本気で信じてたあいつが…」とか色々な意味でラファの沽券に関わる情報を暴露しつつ泣き始めちゃったりして、大変でした。


 まあでも、結構鬱陶しかったので、胡乱な目を向けて「いつの間に随分仲良くなったんですね」と言ってやったら、二人ともあからさまに挙動不振になるという面白い見世物を観賞できたので、良しとしましょう。


 数日休んだ酒場ですが、復帰した途端、店長やリーダーのみならず、お客さん皆がとても心配してくれていて、盛大に復帰を祝ってくれるのを見て、思わず泣きそうになっちゃったのは内緒です。


 ラファは、あの公園の夜の四日後、ウォンさんと一緒に街を出ました。見送りは要らないと言われたので、その日もいつもどおり、食堂で働いていました。何枚かお皿を割っちゃったのは、まあご愛嬌ということで。そういえば、あのミュリーちゃんもいつになくフラフラしてお皿を割っていましたが、その日ばかりは見ない振りをしました。


 そして今も、私は酒場で仲間たちと演奏を続けています。


 あれから随分経ちましたが、しばらく私を女性だと看破する人間が皆無と言うけしからんことこの上ない状況は続いていました。なので、私の楽隊デビュー一周年を記念してカミングアウトしたら、絶叫とか絶句とか色々な反応はありましたが、楽隊のメンバーも酒場のみんなも、改めて私を歓迎してくれたのでした。恥ずかしながらまたしても嬉しくて泣きそうになりました。


 最近は、段々とリクエストもくれるようになり、私も楽しんで演奏できています。


「おういシャル、今日はほら、あれだ、何とか村の踊り…? だか、あれやってくれよ」

「『フミエ村の踊り子』ですよ。仕方ないですね、この超絶演奏家のシャルさんと愉快な仲間たちが、リクエストに答えてしんぜよう」

「お前の楽隊じゃねえだろ。御託はいいからさっさとやってくれ!」

「おうよ、陽気に頼むぜ! 今日は楽しみたいんだ」


 口々に言う客に、私はにっこり笑い、同じく笑顔のメンバーと顔を合わせてフルートを口にあてます。


 軽快なリズムに酒場の面々の笑顔がこぼれ、私も楽しい気分になります。


 その時、酒場のドアが開きました。


 入ってきた人物の顔を見て、私はさらに笑顔を深めてしまいました。


 隅のテーブルにひっそりと座ったその逞しい男性は、静かにジョッキを呷りながら、私たちの演奏を聴いています。目を閉じて、音楽そのものを味わうように。そうしてその男性は、私たちの演奏が終わると同時に、僅かに表情を緩め、控え目な拍手を送ってくれたのでした。


 今日も、酒場の楽隊カンティーナ・バンドの演奏会は大盛況です!


***


 その後しばらくしたころ、皇都の人ごみを楽しげに歩く小柄な音楽家の女性と、それを優しい表情で見つめる傭兵の男が連れ立って歩いているのが時折見かけられたらしい。


 二人の間では、音楽家に良く似た顔立ちで、傭兵と同じ髪の色をした小さな少女が、キャッキャと笑っていたそうな。


***


<あとがき>


 という訳で「カンティーナ・バンド」完結です。とりあえずハッピーエンドっぽくしましたが、この二人のことなので、後書までの間に、長らく“結婚を前提としたお付き合い”が続いたものと思われますw


 もともとは別サイトで公開していたものをせっかくなので(笑)こちらにも転載してみました。


 今回改稿も兼ねて読み返してみると恥ずかしさのあまりにやはり悶え転がりましたが、まあこれも経験ということで…。


 ちなみにタイトルの由来は、最近非常に話題になっている某SF映画シリーズのサウンドトラックから。その時思いついた内容からはまったくかけ離れてしまっているのであしからず。


 とにもかくにも、この変な作品をここまで読んでくださりありがとうございました。一応この後番外編が続きますので、よろしければそちらもお付き合いいただければと思います。

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