第7話

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 マリナに手を借りることになってから数日後の昼下がり。サクヤたちは行きつけとなったレストランに足を運んでいた。既に昼食は済ませ、サクヤの向かいに座るマリナが幸せそうにパフェを頬張っている。

 この数日間、メグを連れ去った犯人は特定できてはいるが、助け出す方法がない。そんなもどかしい日が続いていた。

「このまま考えていても気が持たないし、気分転換しない?」

 そんな状況の中でマリナから提案された。

 確かに何もいい案が出ないまま数日が過ぎてしまったし、今日の残り半日考えていても何も思い浮かばないだろう。なら、それもいいかもしれない。

「分かった。けどどうするんだ?」

「コイン集め。いいでしょ?」

 ――はぁ。

 最近少しずつ分かってきた。マリナはコインのことと、この店のパフェのことになると人がすぐに豹変する。

 それに、こうなればサクヤには彼女を止められないことも分かってきた。

「いいよ」

 サクヤは半ば諦め気味に承諾した。

 レストランを出ると、マリナに先導を任せてはついていった。そして着いた場所は小さな農村のような集落。家は日本の森の中にありそうなコテージで、その横には集落の後ろの森から取ってきた物らしき薪が積み上げられている。他にも小さな畑も各家にあって林業と農業の合わさった集落が俺の視界に広がっていた。

 この季節特有の時折吹く強風が、森の木の葉を揺らし、コテージを軽く軋ませながら土の香りを運んでくる。

「ここも一応平民エリアなんだな」

 畑やコテージなど、この集落には土と木ばかりなのに道だけはコンクリート道という貧民エリアとは逆の意味でアンバランスな外観になっている。

「そうね。平民エリアと言っても広いからね。それにしてもこの道だけはどうにかしてほしいわね」

 サクヤと同じことを思っていたマリナが苦笑混じりにぼやく。

 ここにコインなんてあるのだろうか。正直疑問だった。前回取りに行ったコインは森の中の社みたいな何かが祀られていてもおかしくないシチュエーション――そこにあったのはただのコイン――ではだったが、ここはそんな雰囲気など一切感じない。

 サクヤの様子を察してか、マリナが口を開いた。

「ここにはね……」

 その時、マリナの声をかき消すほどのハイテンションな声が響いた。

「いやっっっっっふほおおぉぉーーーー!!」

 その声を発した人物は大ジャンプで登場し、回転しながら俺たちの前で綺麗に着地。ポーズをする人物にサクヤは反射的に拍手を送る。

「いやー、ありがとうー」

 照れるようにして頭を掻きながら現れたのは、美しい金髪をツーサイドアップにし、蒼眼で勝気そうな印象を与える小柄な少女だ。

 彼女の目からも元気で明るい様子が滲み出ているものの、レイヤの服の袖から出る腕はマリナにも引けを取らないほど白く細い。

 それにしても、この少女はすごい運動神経をしている。奇抜なアクションで登場し、体操選手顔負けの着地を決めてみせた。この少女がスカートでも履いていたらとんでもないことになっていたが、さすがにそのことを見越してか、半袖の薄目のTシャツにジーンズというすごくラフな格好だった。

「マリナー久しぶりー!」

「ええ、そうね」

 二人についていけないサクヤの様子を悟ってマリナは金髪の少女の隣に並び立った。

「紹介するわ。この化け物はレイヤ・ルーミナス。この小さな集落に住んでるわ。それでこっちは……あれ?」

「シロミ・サクヤ!」

「そうだったわね。一度も呼んだことなかったから忘れてたわ」

「忘れるなよ!」

 俺たちのやり取りを聞いていた、レイヤと紹介された少女がふっと笑う。

「よろしく、サクヤ!」

「いきなり呼び捨てかよ」

「ダメ?」

 上目遣いでそう言われれば拒否できない。

「いいじゃないサクヤ」

「って君もか!」

 どさくさに紛れてマリナも便乗する。

「ダメかしら?」

「いや、別にいいけど……」

「じゃあ決定ね」

 完全にマリナのペースになっていた。サクヤはため息をつき観念する。だが何かが彼の中で引っかかっていた。自然だったやり取りだがどこだかに違和感がある。

「あ、レイヤってここの住民だよな?」

「それがどうしたの?」

 首をかしげるってマリナの頭上には無数のクエスチョンマークが浮いている。

「レイヤは俺の言葉が分かってるのか?」

 少しの間マリナは無言だったが、マリナはようやく納得したように頷く。

「そう言えば言葉が通じない、みたいなこと言ってたわね」

「ああ」

「ねぇレイヤ。サクヤの言葉が分かるの?」

 んー、と口のしたに人差し指を当てて可愛らしく考えた後、

「言葉は分かんないけど、何を言ってるかは分かるよ!」

 平然と言い切ったレイヤにサクヤは言葉を失う。彼のその様子を見た金髪の少女は補足する。

「肝心なのは言葉じゃなくて心だからね」

 自分の胸を何度も叩いてさらっとアピールする彼女に衝撃が走った。

 それだけでこの少女は言葉の壁を破ったというのか。そんなことが可能な彼女は特殊すぎる。常人なら有り得ないことだ。……いや、レイヤの登場シーンを思い返せば彼女が常人だとは思えない。

「それでマリナー、どうしてここにー?」

「うん、コインを探してるのよ。なんかこう、不思議な模様の」

「それってこれのことー?」

 レイヤがジーンズのポケットに手を入れて何かを取り出す。

「なっ……!」

 それを見た途端、マリナが固まった。レイヤが取り出した物は、サクヤが昨日取ってきた物と同一のコインだったのだ。

「これどうしたの?」

「畑に落ちてたんだよねー。作業の邪魔だったから取っておいたんだけど、捨てるのにはもったいなかったからさー」

 こうもあっさりと見つかれば集まるのはすぐなんじゃないか。サクヤはついそんなことを思ってしまった。

「やっぱりここにあったのね。レイヤ、それを私に譲ってくれない」

「ん、マリナーこれが欲しいの?」

 レイヤが唸りながら考えた結果、何かに思い至ったらしく、満足げに手を打った。

「いいよー」

「ほんとに!?」

「うん! その代わりあたしと遊んで!」

「分かったわ」

「やった! それじゃいくよー」

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