第2話 『白い部屋』

 白い壁に、つみきをぶつける。がこん、と弾けて、床を転がる。最初の二年間で、もう部屋のおもちゃは全て遊びつくしてしまい、一〇歳になったころからは、少し変わった遊び方をするようになっていた。

 この部屋には娯楽がない。


 ぼくが施設に入ってきたころには、同じ『不適合者』が何人か部屋にいて、遊んだりできたけれど、数年で彼らにマッチするモデルが開発されて、みんな外に出て行った。そして、その新モデルが、度々出てくる他の『不適合者』にも適用されるようになる。それが繰り返されて、近年の『不適合者』は劇的に減少しているらしい。


 ぼくも最初はみんなと同じように、我慢すれば数年で外に出られるんだと信じていたけれど、ぼくにマッチするモデルは一向に完成する気配がなかったので、今はもう、ほぼ諦めている。

 ぼくは一人ぼっちだ。会話の相手も、ご飯を持ってきてくれる、研究所のおじさんくらいしかいない。だけどそのおじさんたちは、ぼくをバカにしている気がするから、あまり話したくない。


 投げつけたつみきが跳ね返ってきて、ぼくの頭に当たる。痛くはなかった。

 嘘だ。

 ほんとは痛かったけれど、必死に我慢した。ぼくがこの施設で得たものといえば、意地くらいのものだ。

 泣いたら、また、大人たちにこう笑われるんだ。

「まったく。これだから『不適合者』は」って。

 起き上がって、壁に再びつみきをぶつける。


 遊びに不自由しない、部屋の無駄な広さにだけは感謝したかった。

 ただ、人がいなくなったから部屋が広く感じるのかも、とも思った。

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