13 決闘と絶望






「……クリスタの力を借りなさい」





「な、何バカな事言ってんだ! 俺らが戦う意味なんてないだろ!」


「意味? 戦いに、意味も理由もないんです。強いものが勝って、弱いものが支配される。それ以外には何もない、それが、この世界なんです!!!!!」


 ルビアの周りには魔術の火の粉が上がり、それはまるでルビア自身が大きな炎となったようにどんどん大きくなっていく。


「落ち着けって!」





「そちらがその気なら、私から行きますよ……《ザザント》」







「……《クーリエト》」



 クリスタによって魔術がかけられ、間一髪でその爆煙をかわす。



「そうです。もうこれしかないんです! 私は…………私はぁ!!!! 殺す事でしか自分でいられない!!!!!」






「……エータ様、ルビアを、どうか止めてください……《バイスシルク》」




 クリスタが俺に魔法をかけながら、そう懇願してくる。




「でも……」




「エータ様なら、できるはずです。それに……ルビアが、すごく、苦しそうで。このままじゃいけないと、思うんです……」





「……おしゃべりしてる暇はありませんよ! 《ザザント》!!!!」



「くっ……」



 とっさに背中にあるチョークベルクを構え、ルビアの銃から放たれた爆煙を打ち落とす。しかしその衝撃を受け止めきれずに俺は数メートル後ろに弾き飛ばされる。




「エータ様!!」




 なんとか受け身を取り、致命傷を免れる。クリスタの魔法によって反応速度もいつもとは段違いになっているからこそできた芸当ではあるが。



「だ、大丈夫だ……」



「クリスタの力を借りて、その剣を携えてもその程度ですか」



 ルビアの攻撃は絶えず続くが、なんとかそれをやり過ごす。しかし、防御ばかりではルビアを止めることはできない。



 旅路の途中で多くの魔物とは戦ってきたが、魔術師と戦うことには慣れてない。



 魔物は本能のまま動くのに対し、人間は確実にこちらの戦闘不能になるように狙ってくる。よって戦いのセオリーはまったく別のものになる。



「逃げる才能だけあっても、私は倒せませんよ」




 ルビアの猛攻は止むことを知らず、確実に俺の体力を削ってくる。













「……《エルオウスル・バースト》」



 クリスタが聞いたこともない魔術を俺にかける。



「え……?」




「……なっ、その魔法」



 ルビアが目を見開く。



「あなた、そんな魔法まで……!」



「……まあ、一回使ったらしばらく使えなくなってしまうんですけどね。エータ様!!! 30秒です!! 突っ込んでください!!」





「くっ!」







 え? 俺だけ取り残されてない? せめてなんの魔法かどうかだけでも……、




「エータ様! ……ので突っ込んでください!!!」




「……ええい、やけくそだ!」






 俺はクリスタに言われるがまま、ルビアに突っ込む、しかしそれに争うようにルビアも攻撃を繰り返し、それはまっすぐ俺に————。






 ————え?








 その爆撃は俺の体に直撃するが、クリスタのいう通り、……痛くなかった。








 何が起きているのか全くわからなかったが、このチャンスを逃すわけには行かず、俺はそのままルビアとの距離を詰め——————、






































「…………なぜ、止めるのですか」


























 それは一瞬だった。



 ルビアの目前にたどり着いた瞬間、


 まるで、剣がひとりでに動くような、


 何年もの前からその剣を扱ってきたような、



 そんな無駄のない動きで、ルビアを仕留めた。










 しかし、その寸前で、俺は剣撃を止める。












「……なあ、もう、いいだろ」



「……よ、よく、ないです……!! 私は……私は! これしか、もう、これしかないのに…………!!」





 俺の剣撃によって体勢を崩したルビアはそのまま地面に倒れ、目に涙を溜め、それでも俺をまっすぐ見据えていた。






 その悲痛な叫びにいつものルビアの面影はなく、まるでなんの力もない1人の少女が、ただ喚いてるようにしかみえない、弱々しいものだった。










「…………その剣を、振り下ろしなさい、それであなたは自由の身です。王国からは追われるでしょうが、これ以上外来者を殺すように命じられることは、ないでしょう……それが、あなたの、望みであるはずです」








「…………」











「負けた方が、悪なのです……。私は、何人もの外来者を殺してきました。それを人間だと思わないように、魔物を殺すように、私は、何人も…………何人も殺してきました。……よくよく考えなくても、これじゃ、私の方が、どう考えても……悪ではないですか…………なぜ……何故今まで、気づかなかったのでしょうか……。いや、本当は気づいていたんだと、思います。でも、…………それすらやめてしまったら、私は、この世界のために、できることは、何もなくなってしまう……。だから…………」












 ルビアだって、ただの人間だ。





 灼落の銃士と呼ばれようが、どれだけ世界から恐れられようが、





 ——どれだけ人を殺そうが。





 彼女が、人間じゃなくなることはなかったのだ。





 悪魔にも、死神にも、ましてや、魔物になることも許されず、





 ただの15年しか生きていない女の子以外の存在になることは、許されなかった。





「…………ぅぃぃ」



「……え?」





「もういい!!! 喋るな!!!!!」








 俺は剣を納めて立ち上がる。










「…………っ!!」







「…………」







「そ、ん、な…………これ以上、私は……」








 そんな、ルビアを、








 涙を流してもなお、決して泣き叫ぶことのないルビアを————















 ————力強く、クリスタが抱きしめる。














「え……?」





「もう……もういいんですよルビア」





「…………」





「あなたのしたことは、間違いだったかもしれない」





「…………じゃあ、な、ぜ……」





「でも、それでも……私は知っている」




「……え」




「————あなたが、こんなにも苦しんだことを…………私は知っている」







「あ、あ…………あぁ…………」






「だから、あなたがあなたの苦しみを、否定しないでください」






「あ、あぁ……」





「……無かったことに、しないでください」














「……うあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」











 俺はその光景を見ながら倒れこむ。


 俺にかかった魔術がいつのまにか解けていたらしく、一気に疲労感に襲われる。



「エータ様!」



 俺のもとにかけてこようとするクリスタを静止させ、俺はチョークベルクを支えにして立ち上がる。





「だ、大丈夫だ。一気に、疲れた、だけで……」





「お、おい! エータ!!」




 それでも倒れそうになった俺をずっと俺たちの戦いを見ていた蔵人が支えてくれた。




 …………せめて、女の子に抱きかかえられたかった。





































「——————はっ!?」



















 それは、一瞬だった。























「が、っ、……あぁ!!!!!」













 ————クリスタの体が、————魔術で作られた氷塊で、————貫かれた。



















「…………ありゃ? 間違えたぁ?」















 もう、聞き間違えることはない声。















 現れたのは、クロサキだった。













「喧嘩してるって聞いたからさぁ? ほら、やっぱり、闇討ちって悪役っぽいじゃん? この前は失敗しちゃったし、……こらぁそこ、芸がないとか、いわないでよぉ?」













「あ……、あ……」














 何が起きたのか、すぐに理解することはできなかった。












「でも、今回もこりゃ失敗かぁ? 赤い方を殺そうとしたのに、青いのに邪魔されちまったぞ。でも、おかしぃなぁ? 気配は完全に消してたのに、なんで気づかれたんだぁ? もしかして、そいつ、魔術回路でも、読み取れるのかぁ?」













クリスタの服が、瞬く間に真っ赤に染まり。ルビアの体にもその血液が降りかかる。












「ル、ビア……」



「クリ、ス……タ……?」



「無事……だった、み、たいで、すね……」



 そのまま、クリスタは倒れこむように、意識を失う。



「あ…………あ…………」





「いやぁ! ごめごめ! でも俺は、悪く、ないよなぁ?!?! そいつが動くから、いけなかったんだぁ? ……ま、気にしてないけどね」





「………………く」



「おうぉ? 赤いの? どうかしたのかぁあ?」






「クロサキいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」








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