8 帝王の邂逅

「すごい……」


 俺たちはルビアにつれられ、アステリア城にたどり着いた。見上げると首が痛くなるほど高い石の城壁はかなりの威圧感だ。これまた馬鹿でかい城門をくぐると城の全貌が明らかになる。


「私、お城なんて初めて入りました!」


 目を輝かせるクリスタを横目に、俺は自分に向けられる敵対心丸出しな視線を感じ取っていた。すれ違うやつがみんながみんなして俺を睨んでる気がする……。


「……なあ、ルビア。俺いきなりここで殺されたりしない……よな?」


「………………さあ、どうでしょう。あなたが元外来者なことは多分この城にいる全員が把握してると思うので、外来者に恨みがある人間はいきなりあなたを襲ったりしてもおかしくないですね。まあ、そうなっても特に困ることはないですが」


「お願いだから困ってね?! せめて片付けが大変とかでもいっそいいからさあ!!」


 もう、この世界でクリスタ以外から優しくされることは期待してはいけないらしい……。


「大丈夫ですよ。エータ様は私が守りますから」


 うん、その若干死亡フラグなセリフ、不安しか感じない。というか戦えないだろお前。いや、その気持ちは嬉しいけどさ。


「まあ、確かに片付けは大変ですかね。まがりなりにも私の家であるわけですからね、愛着はないですが。………………ふむ、やっぱり結構どうでもいいですね」


 お前が守ってくれなきゃ俺は生存率ゼロなんですよ!!!


 城の中を進んでいると1人の兵士が俺たちに近づいてきた。


「ルビアス姫、アレクライト様がお呼びです」


「………………そんな予定はありませんでしたが」


「速やかにそちらのお連れ様と共に来るよう、指示されております。ご同行願います」


「……おいアレクライト様ってだれだ」


「…………」


「……たしか、アステリアの王様……つまり、ルビアの、お父さん」


 俺がルビアに投げかけた疑問に、代わりにクリスタが答えてくれる。


「はあ……仕方がない。行きましょう、全く、これっぽっちも、気が進みませんが」


 それはもしかして口癖なのか?





 謁見の間で俺たちを待ち受けていたのは大男だった。


 白いひげに赤いマントの目算2メートルあまりのその男が、アステリア城の主、そしてルビアの父親のアレクライトであるらしい。その隣には丸メガネをかけた男がいて、おそらく大臣とか、そこらへんだろう。


「……なにか、用ですか」


「父親に向かって出会い頭に何か用はないだろう? まったく帰ってこない娘が帰ってきたと思ったら、外来者と部外者を連れてくるなんて、どういうつもりだと思ってな」


「決めたのはディアルドです。私に文句を言うのは筋違いだと思いますが」


「それはわかっている。だがな、聞くにそいつはろくに魔法も使えないそうじゃないか。この国にとって脅威とならないのはよいが、本当に役に立つのか」


「まあ、役に立たない可能性のが高いですが、魔法が使えても役に立たない兵士だって腐るほどいるじゃないですか」


 すげえ2人がバッチバチで怖いんだけど……。なに? ルビアちゃん反抗期なの? 俺もクリスタも口を挟むこともできない。


「そんなことを言うものではない。まったくお前には姫としてのお淑やかさがないのか」


「…………そんな世間話をするために読んだのですか? 私は私で忙しいので、用がないなら行きますが」


「……まったく、可愛くないやつだ。ちゃんと用事もある。フリムという町にどうやら外来者が潜伏しているらしい。そして、信憑性は低いが、その町の周辺であのクロサキの目撃情報がある。お前の言った通り、この城に腕の立つ兵士は少ないからな、お前が行ってくれると助かるのだが」



「……準備ができたら向かいます」


「ああ、よろしく頼む、活躍を期待しているぞ」


「……では失礼します。行きますよ、二人とも」


「あ、ああ……」


「は、はい……」







 †







「……まったく、あいつは、……滑稽だな、何も知らないで」


 その王の声は3人には届かない。


 王の隣に立つ男が、その言葉に反応する


「役に立たない……ですか、小さい頃はあんな子じゃなかったのですけどね。……それにしてもあの青髪は……」


「放っておけ。……どうせ、何も覚えてなどいないだろう、それに」


「なんでしょう?」


「3人で集めておけば処分する時に、楽だからな」


「なるほど……。まったくでございますね」



「アレクライト王」


 2人の背後から声が響く。


「すまないな、お前を自由にすることができなくて」


「…………」


「お前は気にしなくていい。何も、気にすることはない」


「……はい」


「もう、下がって良いぞ。自室に戻っていなさい」


「はっ」







 †







「お似合いです! エータ様!」


 半焼しているジャージとやっとおさらばした俺は、兵士が来ているものと同じデザインの制服に着替えさせられた。ディアルドが来ていたものとほぼ同じものだが少し装飾が違う。ルビアによれば身分によって変わるらしい。俺はしたっぱのしたっぱだからな。


「こんな生地あたしゃ初めて見たよ」


 俺の脱いだジャージを興味津々に眺めているのは城のメイド(ただしおばさん)であり、かつてルビアの育て係であったらしいアンバーだ。


「なんかペラッペラで安っぽいね。でも不思議と生地が伸びるから動きやすそう。まるで魔法だ」


 ただのユ○クロの1980円の上下セット安物ジャージが魔法とか異世界としてどうなのそれ。


「そういえば、ルビアはどこ行ったんだ?」


「……私がなんですか?」




 ……どこかへ消えていたルビアが部屋に戻ってきたを見て俺は言葉を失った。


「わあ……」


 この感嘆を発したのはクリスタ。現れたルビアはいつもの戦闘服ではなく、白いドレスのような服を身にまとっていた。サイドアップされた長い赤髪と相まってそれは本当にファンタジーの世界のお姫様のような、今まで一緒に行動してきたルビアとはまるっきりイメージが違う、しかし、どこまでも絵になる光景だった。


「……アンバー、この服、すごく動きにくいんですが……」


 しかし、ルビア本人は大層不服らしく、アンバーに向かって文句を言う。


「アンタの本職は殺し屋じゃなくてお姫様なんだよ。城にいる時ぐらいはきちんとお姫様をしなさい、それに今は戦う敵もいないんだから動きにくくたっていいじゃないか」


「はぁ……。エータ。あまり、ジロジロみないでください。不愉快です」


「人を変態みたいに言うなよ!」


 曲がりなりにも自分を殺しかけた奴の晴れ着など見ても興奮しない。断じて、いや、きっと。……ほんとだよ?


「まったくアレクライト様も自らの娘を戦場に送り込むなんて何を考えているのかね」


「まあ、私はその方がいいですが」


「もう、アンタはまたそんなこといって……」



 そんなやり取りを眺めていると突然服の裾が引っ張られる。振り返るとクリスタが俺をよくわからない表情で睨んでいる。



「……な、なんだ?」




「………………エータ様、そんなにルビアが可愛いですか?」




 …………は?



「……ちょっとまて、お前は何かを勘違いしてるぞ」


「でもさっきからずっとルビアばかり見ていますよね。見とれてるじゃないですか」


「あいつは俺を殺しかけたやつだぞ! そんなわけ、ない、だろ……?」


「……その殺しかけたやつと、随分と仲良しですね?」


「いやいや、どうすれば俺とあいつが仲良く見えるんだよ! というかそれはお前も一緒だろう」


「そうですよね……、ルビアの方が若くて可愛いですもんね……」


「クリスタさん……? 聞いてます……?」


「私なんか年増ですもんね……」


「ちょっとまて、年増って、大してルビアと変わらねぇだろ!」


「……いえ、いいんです。私は、エータ様と共にいれれば、それだけで……」


 ヤンデレフラグはやめてぇ!!!


「とにかく! そんなんじゃねえって!!」



「さっきから何をごちゃごちゃ言ってるんですか、明日も朝から街に出ますので今日は早く休んでください。この部屋は好きに使っていいですが、あまり部屋からは出ないようにお願いします。明日朝起きたら廊下に死体が転がっているなんて少し嫌ですからね」


「少しかよ……」


「何かあったら隣の部屋に私とアンバーがいるので呼んでください」


「お前は、自分の部屋に戻らないのか?」


「…………軟禁されていた部屋に戻りたくなどないので、解放されてからは自分の部屋には一度も行っていません」


「そ、そうか……わるい……」


「別に、気にすることは何もありません、では、また明日、食事はアンバーに運ばせます」


 そうして、2人は部屋から出て行く。


 ……あれ? ……もしかして、これからクリスタと2人っきりなの……?



「……エータ様、話の続きを」



「ひぃ……」


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