焼き鳥

 事件現場は木造平屋のアパートであった。

「キモ、情報」

「ガイシャの名前は安藤つくね。二十一才。海光女子大の三年です」

 カワさんに言われ、キモと呼ばれた男が被害者の女性について説明する。

 キモはこの地域の警官で真面目な青年である。刑事のカワさんとは面識があり、名字の木元とその顔も気持ち悪さからキモと呼ばれている。

 カワさんはベテランの刑事である。この道三十年、ノンキャリアからのたたき上げだ。夏でも冬でも黒の革のコートを羽織っており、後輩からもカワさんの通称で通っている。

「昨日バイトから帰るところを近くのコンビニ店員が目撃しています。犯行はその後かと」

 キモの話を聞きながら、カワさんはガイシャの横にしゃがみ込んだ。受け取った手袋をし、首筋に付いた赤黒い縄の後に触れる。

「……絞殺、か」

 カワさんがくわえていた煙草を捨てながら鑑識のナンコツに尋ねる。

「ですねー、こりゃかなりの力で絞めてます」

 ナンコツは部屋の指紋の確認作業を行いながらそれに答える。ナンコツは骨張った体型の気難しい男で、現場の連中からは難骨さん――ナンコツと渾名されているが、面と向かって呼んでいるのはカワさんだけだ。

「手羽先、第一発見者は?」

「俺、出刃崎ですから。デバザキ」

「いいから早く答えろ」

 機捜――機動捜査隊の出刃崎が顔をしかめる。本名は出刃崎のはずなのだが、不本意な手羽先という渾名で呼ばれる事の方が多いのを彼はカワさんのせいだと思っている。

「同じテニスサークルに所属する女性二名です。同級生の伊集院ささみと、ひとつ下の後輩の小早川モモですね。二人ともかなりのショック状態で隣の部屋から動けずにいるようで、今はうちのハツが付き添っています」

 高梨ハツは機捜唯一の女性メンバーだ。無骨な男が横にいるよりは発見者も幾分か安心することだろう。

「そうか……」

 カワさんが現場に鋭い視線で見渡す。

「どうやら他殺の線で間違いないな。ガイシャの交友関係は?」

「かなり遊び歩いていたようで、スマホの情報から複数の男の名前が挙がってはいますが……」

「すいません! おそくなりましたっ!」

 会話を遮るように若い男の声が響いた。

「おい! ボンジリっ! おまえって奴ぁまた遅れやがって」

「さーせんカワさん、何か急に腹が痛くなっちゃって」

 小学生のような言い訳をするこの男は、カワさんとバディを組んでいる新人刑事である。どうして刑事課に採用されたのか分からないほど凡庸で不出来な男で、名字の沢尻をもじってボンジリと呼ばれていた。

 カワさんは深いため息をひとつ吐くと、テバサキに続きを話すよう促した。

「まだ捜査はこれからといったところですが、できるだけ早く動きたいですね。犯人に逃走の時間を与えてしまうので」

「そうだな」

 そのときである。


 ――めらめらめらめらめらめら。


「カワさんっ! 火がっ!」

「え? あ! うわああああっ!」

 はいはいお疲れ様でした。

 物語中盤でカワさんがポイ捨てした煙草が原因で、登場人物全員が香ばしく焼き上がるというオチは、読者諸氏もお察しの通りでして。

 とっぴんぱらりのぷう。


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