戦争

「おつー」

「おつかれー」

「ていうか逆やん!」

「何が?」

「米は右やろ普通」

「これ? いや普通左やろ」

「いやどう考えても右やろ」

「お前、右利き?」

「右利き」

「だったら断然、米は左や」

「なんでやねん」

「ルーすくったら米が土手になるやん」

「いや、そういうことを言うてるんやないて」

「じゃ、どーゆーことを言うてるねん?」

「これはもうインドやねんインド」

「なんやねんそれ」

「インド人は須く皆、手で飯食うわけやん?」

「らしいな。見たことないけど」

「お前が右利きインド人やったらどうする?」

「俺、インド人ちゃうし」

「例えばや例えば」

「例えば過ぎてよう分かんらんわ」

「鈍いやっちゃなー。右手をこう、スプーンみたくして、ルーすくうか?」

「すくうんちゃう?」

「すくわへんよ。ルーの前にまず米すくって、ルーちょん、てして食うやろ?」

「いや、どうやろ?」

「だからちゃんと頭使って考えーな。先にルーいったら手ぇべっちゃーなるやん? そいでべちゃーの手で米いったら米ぴょぴょぴょーっていらんとこにめっさ付くやん?」

「まあそうなるわな」

「ほなもう答え出てるやん。米ひょいルーちょんが正解や」

「……言いたいことあるけど最後まで聞くわ」

「そん時に米左にあったら、右手ですくいにくいやろ? 遠すぎて米ひょいできひんやん」

「でも俺らスプーンやで」

「ちゃうやん。その前にまずインドやねんて」

「でもスプーンで食うこと考えたら米が左のほうが合理的やん」

「合理的とか何やねん!」

「いやだから、こうしてルーの方から米側にスプーンを動かしたら、米が土手になってルーと米を丁度良い量でスプーンに載せられるわけよ。で、ルーが減ってきたら米を少しずつ右へ寄せていくねん。そしたらルーが無くなるころには移動した米がルーをさらえてくれるから器も綺麗なるし一石二鳥でめっちゃ合理的やねんて」

「合理的合理的てお前、ここ数百年で作られたしょーもない概念に縛られやがって。お前なんかもうハンバーガーでも食うとけや!」

「どういうことうやねんな? 合理的の何があかんの?」

「古代アステカの民の戦争、知ってるか?」

「いや知らん」

「あいつらはな、自分が命がけで戦う戦争で、鳥とか豹のかぶりものするんやで」

「かぶりもの?」

「そうや、わざわざ動きにくい衣装に着替えて、踊り踊ってから槍で殺し合うねん」

「めちゃめちゃやな」

「そういう時代がな、この地球上に確かに存在したんや……」

「……それと今の話と、どう関係があるねん」

「だから食べ方は合理的かどうかじゃなく、ハートの問題やねん。発祥の地であるインドに敬意を尽くす米を右にしたスタイルが正しい食べ方やて、俺は言うてんねん」

「……いややっぱり分からんわ」

「もうええわ。説得は諦めた。もうあれで決めよ」

「あれって、ただの学生やん」

「あいつが、米右にするか、米左にするかでもう決めよ」

「そういうことか。俺はええで。米左にするほうが圧倒的に多いから絶対あいつも左やて」

「ほな決まりな。結果に合わせて今日から食い方統一するからな」

「なんでやねん」

「俺が勝ったらお前は今日から米右や」

「ま、まあええけどや」

「なんや、自信ないんか?」

「ほな俺が勝ったらお前今日から米左やで」

「全然えーで。まあまずないけどな」

「お、座ったで」

「静かに見とこ」

「スプーン持ったな」

「……」

「……」

「……あ」

「……まじか」

「……混ぜたな」

「……混ぜよった」

「……しかも福神漬けごといったな」

「……ぐっちゃぐちゃや」

「……引き分けやな」

「……もう、好きに食おうや飯ぐらい」

「……せやな」

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