第31話:世界の命運は揺らぎ、聖戦の幕開けは近づく
雷電が迸り稲妻は鳴動し雷は轟き渡る。
虚果(こか)が舞い波動が
”
まさか……、こんなに早く崩壊者と激突することになるとはな。
「ちっ、いらねぇとこに飛ばしやがって」
「気に入らなかったかい」
見渡す限りの荒野、崩れ果てた家屋、未だにはびこる血と住み着き腐り果てたゾンビたち。
もはや見る影もないレピアに嘆息する間もなく息を吐く。
クソ……。
そしてその重い口を開く。
「よくもまあここまで荒らしてくれたな」
「君はただ、
「だがまさか……、お前があれを手放すとはな」
「無用なものは切り捨てる、必要なもののみ奪いさる。僕たちはそうやって生きてきたはずだよ?」
「だろうな!」
目を見開き封杖メルシナを掲げる。
ここからは意識を数瞬足りとも切らしてはならない。
神の力の負荷は絶大的だ、さらに紋章解放状態もそう長くは続かない。
リミットは……、10分。
こいつを……、ここで殺す。
聖戦を起こさせる訳には行かない!!
「行くぜっ!」
レキーラが身構える。レキーラは全身に異形の植物を纏っている。紋章器に装填した紋章を解放すると全身、更には辺りを霊獣化させると聞いていたが、その迫力がこれほどのものとはな。
「
「
二人は詠唱を捨て唱える。
俺は回転する円形雷鼓から数億ボルトの電圧を放出し、圧縮。
そしてそれを天へと打ち出し……。
……落雷。
レキーラは手で大地を手繰り寄せるかのように動かし土塊を浮遊。
そしてそれを空へと砕き割り……。
……飛来。
稲光は天柱(あまのはしら)のようにうちたち、耳を貫かんほどの爆雷音が轟きわたる。
千個以上にもなる土塊は一斉に俺へと突撃してくる。
「
「特異能”
有位・
そう叫ぶと同時にレキーラの周りで旋回する果実の一つが割れそこに落雷は渦巻きながら吸収され、飛来する土塊は魔法陣を発砲に散らしながら消滅する。
「
「使うの久しぶりすぎて加減できねぇから気ぃ付けなッッ!!
仏魔法の
光速電来。
円形雷鼓が背後で拡散し背後へ伸びる。
それをかいくぐるかのように背後へ飛ぶと同時、通過した円形雷鼓が次々と弾けていく。
そして円形雷鼓の最後の輪へ到達し引き絞られる、それはパチンコの原理で思い切り……、打ち出される。
空を切る音を耳に残しながら封杖メルシナに雷を込める。
槍となったそれを前へと突き出し一閃が光のごとくレキーラへと貫きかかる。
「雷槍グングニルッッ!!!!」
手にした雷槍は展開音とともに雷を憑依。
封杖メルシナは雷槍の
「
そう言うとレキーラの周りにある果実が一斉に点滅しながら膨らむ。
「
”羅漢”の
特異能”
そう唱えると、レキーラの周りに浮遊していた果実が一斉に膨らみ破裂。
種子が弾けとびそこから根が生え急激に成長。
幾千という数の種子が一斉に急成長を遂げ辺りは植物に囲まれる。
レキーラはそれを見、手を一振り。
すると枝根が生成され
その一本一本の枝根には火や水などの源素力が込められ眼科で虹色に輝く。
「くそっ……!」
大気中の
咄嗟に方向を変え、
足を触れた瞬間電撃が全身を包むが今は気にしている余裕はない。
柔らかな感触を足に残し体重を調整しながら空中を縦横無尽に駆け逃れるも枝根の攻撃は不可避。
何本かが体を
くっ……!! このままじゃ串刺しになっちまう。
だが……、こんな程度で手こずってたら、六歌仙の名が泣くっ!!
風をきる音を残響に雷斗雲を急上昇させる。
そしてそのまま雷斗雲から落雷を振り落とし迫りくる枝根を相殺する。
眼下から枝根が伸び足元から落雷が振り落ちる。
その合間を縫うように駆け雷魔法【造】によって擬似化させた雷槍グングニルを手にレキーラへ突進。
レキーラは一閃の閃突を絶妙なタイミングでかわし鎌を振るう。
咄嗟にグングニルで受け止める。
[
……どっちだ? どっちが強い?!
レキーラの真上を位置取ると同時、雷斗雲から飛び降り、自らの重力を変動させグングニルに全体重をかけつつ振り下ろす。
レキーラの鎌と衝突する。
本来なら確実にレキーラが力負けするはずだが何かの紋章を
あの空中浮遊の姿勢でこれを防がれるとは思ってもいなかった。
そして両者は弾かれ合い再び激突。
そのまま数十合打ち合う。
雷撃が迸り衝撃波が大気中の源素力を震わす。
枝根と落雷を避けながら俺とレキーラは衝突と飛行を繰り返す。
他から見たら黄色の閃光と白の閃光が空中を高速で飛び回り目で追うのも必死の状態だろう。
もちろん、レピア崩壊によりこの地には人っ子一人いないが……。
「いつまでもダラダラしていたところで僕を倒すことは出来ないぞ、僧正」
「その呼び方ムカつくんだよ! 四て……」
その名を口にしようとした途端猛烈な殺気が身を包む。
「おっと、君の様な愚者が……その名を口にするな」
レキーラがその場に静止……の瞬間を見計らい一斉に集中落雷。
だが、手の一振りによって落雷は弾かれ霧散する。
「チッ……! 雷神舐めんてんじゃねぇぞ! レキィラァァァ!! 答えろ封杖メルシナっ!」
爆雷が身をつつみ手に俺の体より数百倍ほどの槌が生成される。
重い……、だが今の俺ならっ!!
磁場コントロールによって重力は無効化させ両手で担ぎ上げる。
稲妻が至るところへと迸る。
封杖メルシナをかの雷神様が所持していたミョルニルの輝き、威力全てを似せたこの雷槌が激しく俺に呼応する。
「砕き潰せ……! 雷槌ミョルニルっっ!!!!」
大気がミョルニルの発する膨大な源素力(マレナス)に耐えられず震撼する。
レキーラのは特異能まだ消えていない。
こうなりゃ、こっちも特異能を……!
「
黄泉還る十源神の
”鳴神”の
特異能”
”鳴神”の紋章は暴輪旋転(ぼうりんせんてん)し体に雷が纏わりつき雷神へと姿そのものを変化させていく。
だが……。
ふいに力が抜けた。
背後の円形雷鼓が消失し”鳴神”の紋章が……消える。
雷は収まる。
この感触……
「……まさか、”剥奪”のッッ!?」
するとそこら中で蠢めくそれぞれの枝根の至る所から紋章の光が垣間見える。
「この枝根全てに俺が今まで狩り続けた紋章が宿っている」
「はっ! 紋章……魂を狩るたあ死神の所業じゃねえか。んな奇妙な白い鎌引っさげやがって」
「死神か……確かにそうだな。僕はもう君の思っているような存在ではないよ」
「どういうこった?!」
「さあね、今の僕のするべきことはただ一つ……君をここで葬り去ることだ」
枝根の矛先が全て俺の方へ向く。
「くそ……あれだけ力を奪われながらそんだけやれんのかよ」
「それに比べ君には失望した。六歌仙がこの程度なら残りもぬるい」
「おいおい……、六歌仙はそんなに甘くはねぇぜ?!」
大気中の源素力の体動を変える。
そしてレキーラの周囲にある源素力を一気に俺の方へと引きつける。
それと同時にレキーラの周りにあった枝根たちは消失する。
仙魔法はオラクルやルーン、そこらの紋章の力で源素力を操るのとは訳が違う。
「グ……ぁっ。大気の源素力を操作できるその
「まだ、俺は死ぬわけにはいかねぇからなぁ!」
「フッ……ハハ。滑稽だな、死ぬわけにはいかないだと?」
レキーラの目つきが変わり蔑むようにその瞳は禍々しく俺を凝視する。
「残念だが、あの夜崩壊を止めることが出来なかった時に……。君は、既に死んでいる」
すると、レキーラの手がまるでこの世の物ではないかのように光る。
何だ?! まさか……、魔障の掌。
すでに魔界郷に堕ち……。
すると、視線がレキーラの手の甲の模様に吸い付けられる。
「お前……、その紋章ッッ!?」
「今の君にはもう……、関係ない」
「何故だ?! 何故自我を保っていられる?! そんなもん持って立ち続けるなんざ不可……」
「うるさいぞ、僧正。君たちは自分の使命を忘れてしまったのかい?」
「使命……、はっ。そんな昔のこ……、と」
その瞬間、朧だった疑念の槍が、怯懦の亜槍に変わり俺を突き刺した。
「まさか……、テメェの、目的はーー」
「ご明察。その通りさ、僕は、この手で……」
レキーラは、ゆっくりと広げた掌を握りつぶした。
「3000年前の聖戦を、再び実現する」
「な……っ、ぉ、おま――」
「この世界は、終わるべきなんだよ、僧正。聖戦開戦のため、君たち6人に待つ運命は……。死、のみだ」
「んなこと、人界王が自由にさせると思うか? あの方がその気になりゃお前なんざ……」
「そうだね。だが、レピア崩壊で釣り上げようとしても、姿一つ見せなかった臆病者に僕は負けることなどない。それに……」
余裕の、笑み。
「6大陸に散らばった君たち6人を殺し、祠の封印さえ解いていれば聖戦などいつでも起こせる。その気運は既に僕の側にある。だからこそ僧正。君はレピア崩壊に次ぐ、聖戦へのーー”僕たち”の二歩目となる」
「は……っ、こりゃあどでかいヤマになってやがるなあ。ったく……」
そしてレキーラはゆっくりと、その紋章を発動させていく。
マズイっ。
どうする、再び天化掌を使うか。
いや……、もう一年は使えない。
それなら仙魔法で……。
……だが、精神エネルギーは既になく身体の負荷は度し難いものとなっている。
「やっぱ長年のブランクってのはキッツイな」
「君は……。いや、君たちは息をひそめすぎた。
いつまでも怯え続け、ようやく世界へ出たと思えば剥奪された紋章に気をかけ……、僕のセアに接触をはかるとは」
「はっ?! なにぬかしてんだテメェ。
僕のセアだと?」
「そうさ、君もかなりセアを気にかけているようだが?」
「まさかテメェが目ぇ付けたやつと被るとはな……、だが」
レキーラと睨み合う。
セアは……。
救済する
「「あいつは、この世界を 可能性を
破滅させる
持っている」」
俺とレキーラの意見が……、背反した。
あいつは、世界を背負う器をまだ持っていない……が。
この先の未来でもし……、手にすることになれば。
「君はやはり、何もわかっていない。
終わりだ……、君の全てを頂く。
”……”の紋章っ!!
…………ッッ!!」
――――――――――――ンン
何も聞こえなかった。
こんなに……、こんなに強いのか。
これじゃあ六歌仙最強なんて口が裂けても言えねぇじゃねぇか。
護り続けると誓ったこのメルシナの大地で……、こんなに呆気なく朽ち果てることになるとは……。
折角、俺を見込んで六歌仙へ入れてくれた人界王様へ申し訳がたたねぇ!!
伝えなきゃいけねぇ、残りの五人に!
レキーラの存在はこの世界を終わりへ導く脅威となることを、聖戦の幕開けはもうそう遠くないことを…………!!
意識が持たない。
穿たれた胸から魔界郷独特の源素力が流れ込む。
クソ……、胸糞悪ぃな。
セア……。お前はまだ気づいていねぇ、お前の存在が世界を動かすことを。
その刀がどれほどの力を持ち、どれほど所有者に悪夢と地獄を見せ苛ませてきたか。
神器を甘く見るなよ……、世界を甘く見るなよ!
そして揺らぎつつある世界の命運と聖戦の結末は、セアとレキーラが真の力を携え衝突した時に……、決まる。
神器同士の戦いなど想像を絶するものになる。
セア……、見つけるんだ。
その旅の中でお前が境界を超え迷い果てた時、真の道へ戻してくれる仲間を!
……もう、しまいか。
退屈な人生だったが、世界の最後を見届けられねぇのは気に喰わねえな。
くそ……っ。
セアと語らったあの夜の事が思い出される。随分と前のようだが、たったの一ヶ月と経ってないんだよな。
は……っ。見て、みたかった。
この世界よ猛者どもが派遣を争う最ッ高のバトルロイヤルを、世界を舞台にした
神様はどうやら、俺たちにたった一つ望んだ物も、与えてくれないらしい。
するとふと……、脳裏に一つのビジョンが見えた。
……様はまだ、俺を。
「いいぜ……。やってやるよ!
俺がここで死のうが世界は終わらせねぇ!
始望と終悦の果てにあるものとくと目ん玉に焼き付けてやらぁ!!」
そして俺の体と意識は白き雷となり……、散っていった。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘
噴出音楽と共に、赤い蒸気と共に掌は縮んで行く。
「後……。五人、か」
これで聖戦の幕開けへ、また一つ近づいた。
まさかここまでの役回りが来るとは思はなかった、立っているのもやっとだ。
「ちょっと間……、休(やす)っ……。 ガッ! ぁ……アァァァアッッッはっ、あ、、、!!」
血液が逆流し吐血が止まらず息が詰まる。
体中の毛穴という毛穴から血が噴き出す。
痛覚が限界を超える、生身の体なら……、即死だった。
”不死”の紋章があろうがこれは耐えられない。
力の負荷か……。これは少しの間、僕の体は使い物にならないな。
それから、地に落ちた封杖メルシナを回収しようと手を伸ばす。
プツっ……、と不意に音が耳へ響く。
……またか。
次は何の反動だ?
……。
どこだ? ここは? 光が消える。
何が……、起こった? 辺り一面が暗い。
一体どうなっている? ゆっくりと降下する。
別次元にでも飛ばされたか? トンッ、と足が地に着く。
足に触れている物を拾い上げようとするが拒絶反応を示しどこかへ弾け飛ぶ。
これは……、メルシナの封杖。
なるほど僕はお気に召さないと。
封杖をルーンで包み込みそのまま回収しようと……、す……。
待て……。何故、別次元に封杖がある?!
……っ!?
まさか……。視力が、消えたのか。
使用浮甲紋(しようふこうもん)”再生”を発動させる。
……。
何も、起こらない。
バカな!! あり得ない!!
ただの力の負荷で効かない物など!!
すると脳に浮かんでくるものがあった。
さっき倒したあの男女二人。
確か……、最後に何か。
「ははっ、まさかこんな厄介な置き土産をしていくとはな!! なかなか侮れないじゃないか!!」
”祈願”と”成就”の紋章。
奪い取った今なら分かる。
”祈願”は相手へ自らの祈りを捧げる。
それは現実となり対象者へ働きかける。
彼は祈ったのだ、僕の体が二度と治ることがないようにと、そして”成就”の紋章がそれを確定化させた。
この能力を解除するには二つの紋章を手慣づけ新たな主として認識させなければならない。
そしてそれまで僕の体は治ることはない。
しばらくは僕も世界の表舞台へ立つことがないだろう。
世界の動きは後でゆっくりと見させてもらうことにしよう。
「僕が次に目覚めた時。この世界がどうなっているのか……、楽しみだっ!!」
そのままゆっくりと己の意識を……へと溶け込ませていった。
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