第31話 焼き鳥と念書どっちが優先度高いんだよ

「だから、なんでお前がここに居るのか聞いてんだよ」

「だから迎えに来たって言ってるじゃん」

「どうやって来たんだって話だよ」

「イケメンチート魔道士とか黒猫を肩に乗っけた美少年が『異世界』に『転生』したから、ここが大変な事になっちゃったんでしょ? 真央そう言ったじゃん」

「だから、それとどーゆー関係があるのか聞いてんだっての」

「だから、『あたし』が『異世界』に『転生』すれば真央に会えるって事じゃん」

「だってお前どうやって帰るんだよ?」

「魔女の山の火を噴く火口に飛び込むんでしょ?」

「お前、人間だろーが。そんな事したら死んじまうだろ!」

「あたしは人間界に今もいるんだよ?」

「意味が解らん」

「だって、イケメンチート魔道士だってそもそも実在しないじゃん。誰かが書いたんでしょ? ヘボ同人誌のヘボ作家が。だから同じことしただけじゃん」

「同じ事?」

「あたしが書いたんだよ。『ナオ』が『異世界』に『転生』して、魔王と話をして人間界に連れ戻すって話を。だからあたしは魔女の山に飛び込んだら消滅する。でも本物のあたしはずっと人間界で待ってるんだよ」


 はあああああ? 何ちゅーことを考えるんだコイツは!


「じゃあ、お前は桜島の火口に飛び込んで来たんじゃないのか?」

「アホか、そんな事したら死んでしまおーが。紙と鉛筆だけだよ」

「なんでそんな事したんだよ」

「真央に会いたかったから」

「はあああああ?」

「何その『はあああああ?』って」

「信じらんねー、ムチャクチャすぎる。頭おかしくなったか?」

「言ったじゃん、真央が居なくなったら頭おかしくなるって」

「元々おかしいから大丈夫って言っただろーが……グフッ」


 ナオが俺のみぞおちにグーパンチしてきた。割とクリーンヒット。


「でも好きなんだからしょーがないでしょ! どれだけ会いたかったと思ってんの! 人の気も知らないで、真央のバカ!」

「うるせーな、会いたかったのはお前だけじゃねーんだよ、俺だって毎日お前の事ばっか考えて、なんとかして忘れようとしてたんだ、やっと忘れられるかと思ったのにお前のせいでまた忘れらんなくなったじゃねーか」

「何それ、すっごい迷惑そうじゃん」

「すっげー迷惑だよ、これから俺どうやってここで生きて行けばいいんだよ」

「一緒にあっちに戻ればいいだけの話じゃん」

「おまっ……戻るって……簡単に言うけどな……」


 簡単に言うけどな……。

 俺だってお前と一緒にまた楽しく暮らしたい。

 一緒にホットケーキ焼いて、二人でお喋りして、お前のピアノ聴いて、一緒にコーラ飲みたい。佐藤と大熊と彩音と遊園地行きたい。花津さんたちと一緒に仕事したい。


「できる訳……ねーだろ」


 自分でも嫌になるほど投げやりな言い方。


「なんで勝手に決めつけるの? あたしは決めつけなかった。だからここに来れたんだよ! 魔界に帰った真央に会える訳ないって決めつけてたら、こうやって会いに来る事なんてできないじゃん」

「……」

「真央だって、前輪の落ちた車を引っ張り上げるなんて絶対できっこないって決めつけてたあたしたちの前で、引っ張り上げたじゃん」

「……」

「真央だって、撃たれたら死んじゃうって決めつけてたあたしの前で、銀行強盗の撃った弾、手でキャッチしたじゃん」

「だって……それは、俺が人間じゃないから……」

「真央、魔界で必要とされてないって言ってたじゃん。でもちゃんと仕事してるし、さっきの鳥みたいな蛇みたいな人、友達なんでしょ? 真央が必要とされてないとか友達居ないとか勝手に決めつけてただけじゃん」


「え……そりゃねーよな、俺、友達扱いされてなかったのかよ?」


 なっ……! ケツァルコアトル!


「お前、聞いてたんかー!」

「だってさ、これ人間だろ? なんでお前に人間の知り合いがいるわけよ? いつの間に人間と仲良くなってんの」

「いや……それは」

「真央がここを家出して、あたしのマンションに暫く住んでたの」

「人間のダンジョン?」

「マンション!」

「暫くって、コイツずっとここに居たけど?」


 ケツァルコアトルが入って来てますます混乱しとるし……。


「待て待て待て、違うんだよ、俺が人間界に行ってる間、ここの時間は経過してなかったんだ」

「はぁ?」

「この前……いや、お前にとってはついさっきか、ウロボロスが吟遊詩人退治の依頼をしてきただろ? あの後俺は人間界に偵察に行ってて、サキュバスが吟遊詩人をお持ち帰りするまでの間に戻って来たんだよ」

「は? あの短時間で?」

「だからこっちの時間は経過してねーんだって。ここと人間界の時間の流れが全然違ってて、俺は人間界にそこそこ住んでたんだ。仕事もしたし、その……あの……」

「ふーん、それでこのチビが気に入った訳か」

「チビ言うな、鳥蛇!」

「待て待て待て、こいつケツァルコアトルは鳥蛇だけどプロメテウスレベルだ」

「プロメテウスもオリュンポスもあたしにかんけー無い、そこの鳥蛇、チビ撤回して!」

「あーもう、論点がブレる。とにかく俺は人間界の偵察に行ってコイツナオが気に入ったんだ」

「あんたがあたしを気に入ったかどーかは論点じゃない! あたしが真央を必要としてんの! 魔王なんかいくらでも代わりがいるでしょ、でも真央の代わりは居ないのっ! どこにもっ!」


 ケツァルコアトルの野郎、やれやれって肩を竦めてやがる。お前の肩は一体どこなんだ。


「魔王、お前どーなのよ」

「は? 何が」

「このチビと魔界、天秤にかけてみな」


 ナオと魔界……。


「そりゃ……魔――」

「お前さ。お前何してたら幸せ?」

「は?」


 佐藤と同じ事を聞くか、この鳥蛇は。


「俺は魔界の空をのんびり飛びながら、魔族の生活を見守ってんのが幸せ。だからお前の仕事、かなり好き。すげえ羨ましい。お前はどーよ。希望だけで言ってみな」


 俺は……。


 無意識にナオを見ちゃったよ。

 鎖骨の間に四つ葉のクローバーが揺れてる。

 シャンパン一杯で酔いつぶれたんだよな。

 コーラのペットボトルを花瓶にしたら喜んでさ。

 お化け屋敷で偽物のヴァンパイア相手にマンドラゴラシャウト浴びせて。

 同窓会の日は泣き疲れて眠るまで、ずっと俺の腕の中にいた。

 俺が守ってやるからって約束した。


 そうだ、約束したじゃん、俺。


 ケツァルコアトルに視線を戻すと、あの野郎、気障に笑いやがった。


「じゃ、俺が次期魔王って事で。お前を無期限で人間界の偵察任務に付けてやるから覚悟しな。ちゃんと報告入れろよ」

「てめー、カッコつけてんじゃねーぞこんちくしょー。焼き鳥にしてやる。お前、焼き鳥知らねえだろ」

「馬鹿野郎、人間に『火』を与えたの、誰だと思ってんだ」

「プロメテウスであってケツァルコアトルじゃねえ、お前焼き鳥決定」

「てめっ、魔王代わってやんねーぞ!」

「さっき次期魔王って自分で言ったじゃねーか、念書書け、血判押せ、今すぐ!」

「焼き鳥と念書どっちが優先度高いんだよ」

「念書書いたのを確認してから焼き鳥にしてやる」

「焼き鳥にしたら次期魔王がいねーだろーが」

「じゃあお前焼き鳥、お前の遣いのケツァールが魔王」

「お前のギャグはツッコミどころがわかんねー上に全然面白くねえんだよ」


 親友とはいいものだ。

 コイツにもいつかコーラを飲ませてやりたい。

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