第30話 本日50件目の苦情
あれから俺は毎日、目一杯働いた。バカバカしい仕事ではあるけど、必要とされてるのを実感してる。だから俺は頑張れるし、それなりに楽しい。
俺の夢って何だろうって、あれから考えた。ほんと毎日考えた。何も無かった。
あるとすれば、ナオの笑顔を見る事。でももう、それも叶わない。あの幸せだった日々を時々思い出しながら、これからの事を考えて行こう。
「だから魔王がアホほど居るんだってば。聞いてる?」
「あのね。だから魔王はワタクシなんですけどね」
「だーかーらー、『トラックに轢かれて異世界に転生したら魔王になってた』って言い張ってるんだよ。それも、そんな魔王が250人くらい」
辺境警備課のケルベロスは手元の資料をパラパラめくる。
「えーと報告では、他には魔法使いが781人、剣士が1406人、うち女性は989人もれなく巨乳で露出度90%。それから格闘家が812人、僧侶は124人、この辺の男女比7対3。ハンターが598人で9割が貧乳エルフ1割絶壁ロリ。えーとそれから……」
「ああ、もうわかったから。どうにかすればいいんでしょ?」
「そ。ほっといたら今度は住民課のヒドラから苦情が来るぜ」
ったく……最近の人間は何考えてんだ。自称『魔王』だらけじゃねーか……。
しかも転生してきた『魔王』は総じてパッとしない風貌で、『魔法使い』やら『剣士』やら『吟遊詩人』やらは、やたらめったらイケメンだったり美少女だったりしてその上チートキャラらしい。何か腹立つ。
「わかりました。じゃあ第48・49部隊を出しましょう」
「どーすんの」
「魔女の山の火を噴く火口にぶち込むだけですよ。どーせ人間の妄想で作られたものだ、人間界に転生するわけじゃない、そこで消滅でしょう。48・49部隊でも手に負えなかったら、ワタクシが直接行って仕事して来ますから」
「最初からお前が一人来た方がよっぽど早えーじゃねえか」
「魔王は仕事がいっぱいあって手が回らないんですよ」
「あそ、まあやってくれればなんでもいいや。じゃ後頼んだよ」
「はいはい、お任せください」
俺は疲れ果てたケルベロスの後ろ姿を見送った。
さて、本日50件目か。今度はどんな問題だ?
「はい、次どうぞ。ってなんだガーゴイルかよ」
「なんだとはなんだ。こっちは大迷惑だぜ。コイツがお前に会わせろってずっと喚いてて……」
「どいつよ」
「これ。マンドラゴラよりうるせー」
ガーゴイルは後ろから小さな人間のような生き物を引きずって前に出した。
え……?
ウソ。
「じゃ、後はお前どーにかしろよ。俺帰るし」
ガーゴイルがなんか言ってる。けど、耳に入って来ない。
これは何だ? 幻覚か?
「真央、迎えに来た。ウチに帰ろ」
「てゆーか、お前」
「コーラ、冷やしてきた」
「ナオなのか?」
「松の湯、行こう。一緒に」
「ナ……」
「ホットケーキ食べよ」
「……」
「真央」
「……」
俺が何も言えずにただその顔を穴が開くほど見ていたら、いきなり怒鳴られた。
「あたしの標高に合わせろ、変態!」
もう俺は何が何だか分からなくなってた。
膝立ちになって無我夢中でその小さな生き物を抱きしめた。
「ちっせー……コボルトかノームかゴブリンみたい」
「せめてエルフかフェアリーって言ってよ」
「ヤバいよ、俺、お前の事好き過ぎる」
「うん、それはヤバいよ」
「いやもう、頭イカレるほど好き過ぎる」
「もうイカレてるから心配しなくていいよ」
「なあ、キスしていい?」
「ダメ。今度はあたしがする」
「え?」
まさかの攻撃に俺は成す術もなく受け入れてしまった。
やっべ、脳が溶ける……。
「あのー。お取込み中すいませんけどー」
ケツァルコアトルが割り込んできた。
「後ろ、並んでるから。お前の部屋でごゆっくりどーぞ。後は俺が捌いとくから」
「お前すんげー気が利くな」
「ポスト魔王だからな。早く行け」
俺は心の底から親友に感謝した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます