第29話 魔界のプロメテウスの言は含蓄に溢れている

 俺は置き手紙を読んでいた。

 きったねー字。誰が書いたんだって言いたくなる。


『自分探しの旅に出ます。探さないで下さい。』


 人間界に行く前に俺が書いたヤツだ。

 フツーに厨二病。

 俺的にこれ、既に黒歴史。


 で?

 自分探しの旅に出て、俺は何を見つけたんだ?

 人間の友達。

 人間界の音楽。

 コーラ。


 てかさ。

 てかヲイ! この手紙、誰も見た形跡が無いよーな気がすんだけど?

『探さないでください』とかの前にさ、誰か見ろよ、これをさー!


 と思ってたら、いきなりケツァルコアトルがやって来た。ギリシャ神話で言うところのプロメテウスと同格な野郎だが、見た目は羽の生えた蛇みたいなもんだ。コイツは人間界では鳥類なのか爬虫類なのか……。


「おい、魔王。さっきウロボロスが言ってたナルシスト吟遊詩人だけどさ~」

「ああ、アレね」


 えっ? さっき?


「さっきつーたか?」

「うん、ついさっきのアレだよ。こないだのコカトリスんとこのじゃねーよ、さっきのウロボロスの方」

「チョイ待て。俺、さっきお前に会った?」

「はぁ? お前、人間界のアホどもの作ったキャラを相手にしてたら、人間並みにアホになったか?」

「あ、いや、ただのボケ」

「お前のギャグって突っ込みどころがイマイチわかんねーよ」


 俺が人間界に行ってる間、こっちの時間は経過してない! だからこの置き手紙は誰にも読まれてなかったのか……。


「おい魔王。聞いてんのかよ」

「ああ、ごめん。吟遊詩人がなんだって?」

「だからウロボロスが何とかしてくれって要請出してたけど、撤回するってよ」

「何でよ」

「その吟遊詩人、サキュバスにお持ち帰りされたらしいよ。あの淫乱女め」


 お前が人の事言えるかよ自分の妹に手ぇ出した癖に、この変態近親相姦野郎め。酒は飲んでも飲まれるなってんだ。

 ……とは思っても口に出さない。人間界での修業がこんなところで役立つとはな。


「どーでもいいけど、さっさと仕事に戻れよ。お前んとこの窓口、すんげー列ができてるし。一応『魔王はちょっと闇の炎に抱かれて火傷しちゃって』って誤魔化しといたけど、あんましみんなを待たすなよ」

「ああ、すぐ行く」


 ケツァルコアトルが行ってしまってからも、俺は暫くぼんやりしていた。


 俺、ちゃんと必要とされてるじゃん。

 友達も居るじゃん。

 俺、一体何見てたんだ? 何やってたんだ?

 自分の殻に閉じ籠って、勝手にいじけて、勝手にボッチこいてただけじゃん?

 目を開けろ。前を見ろ。自分のやるべきことをやれ。

 ナオも佐藤も大熊も彩音も、みんな自分のやるべきことをやってた。

 俺だけが甘ったれてたんだ。


『真央くんは夢とか無いの?』


 佐藤が言った言葉。

 今は無い。なんにもない。

 だから何だってんだ?

 何も無いなら、それを見つけるまでやれる事をがむしゃらにやるだけじゃん?

 それを教えてくれたんだ。アホな人間たちが、ヘタレの魔王に。


「よし、仕事だ」


 俺は声に出して言うと、職場に向かった。

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