第16話 フツーじゃねーし、フツーだし

 城に帰ってみたがナオは居なかった。おかしいな、とっくに学校出た筈なのに。 もしかしたらどこかで雨が上がるの待ってんのかなぁ? 駅前のスタバ? マック?

 迎えに行ってやった方がいいかな、でも途中で行き違いになってもなぁ……。


 ……ガチャ。

 ん? ナオ帰ってきた?


「ただいま~」

「おかえり……ってヲイ、お前ずぶ濡れじゃん」

「傘忘れたんだもん」

「あーちょっと待て! その辺歩くな、城に上がるな、城が水浸しになる」

「えー、じゃどーすんの?」

「ちょっと待て、そこから動くな」


 しゃーないから、風呂のドアを開けて床に雑巾スタンバって戻ってくる。


「大人しくしとけよ」

「何すんの?」

「抱っこ」

「えー?」


 ……と言ったはいいけど、お前それエロ過ぎ。濡れたTシャツが張り付いた胸元は、下手にスッポンポンより遙かにエロいぞ。ナオで良かった。絵的にはエロいけど、俺的にお前をエロ対象として見てない。が、大熊なら多分ヤバい。かなりヤバい。


 ひょいとナオを抱き上げて素早く風呂場に移動する。その間わずか三秒、それでもアチコチに水が滴り落ちてる。まったくもー、俺こう見えて結構綺麗好きなんだぞ。


「ここら辺の床、拭いとくからその間出てくんなよ」

「わかったけど、バスタオル取って」

「あーはいはい」


 ドアを十センチだけ開けて、隙間からバスタオルを無理やり突っ込む。


「サンキュ~」


 すりガラスの向こうでナオがベッタリ張り付いたTシャツを脱ぐのに悪戦苦闘してるのがわかる。


「あーもう! くっついて脱げないしっ!」

「手伝おーか?」

「何考えてんのスケベ!」

「お前のハダカなんかこないだ見たじゃん。今更何言ってんだ」

「じゃ、脱がして」


 ……って言うかよそこで。


「はいはい、向こう向いてね。こっち向いたら胸つかむよ」

「向くかアホ!」

「ほらバンザイして。バンザ~イ」

「バンザ~イ」


 あ~あ~あ~、Tシャツ完全に裏返しになっちゃうし……。


「ったく、なんでこんなピッタリしたの着てたんだよ」

「たまたまだよ~」


 あ……これが所謂『乳当て』か。なんでこんなもん付けてんだろうな。向こうの女性型魔族はフツーに乳なんか出してんのに。

 と、ちょっと俺はその背中の『乳当ての紐』を指に引っかけて引っ張ってみた。……ら、乳当てが外れてしまった!


「うわ~! 何すんの~! 変態!」

「あ、ごめん、なんだろうと思って」

「いーからもうあっち行ってよ!」


 バタンとドアを閉められた。なんだろな~人間界の文化はイマイチわからん。

 とりあえず俺は床の水滴を綺麗に拭き取って、コップ二つとコーラを出してナオが出てくるのを待ってみた。何故かって聞かれると困るんだけど、なんかナオとお喋りしたかったから。

 しばらくしてシャワーの音が止んで、ナオが出てきた。身体にはバスタオル一枚だけ巻いて、髪もタオルでまとめてある。


 ……ドキッとするほど色っぽい。


 いやいやいやいや、これはナオだ。マンドラゴラだ。忘れてはいかん。


「コーラ飲む?」

「あ、うん、入れといて。着替えて来るから」


 そう言ってナオは奥の部屋に入っちゃった。あーヤバかった。

 ……ってちょっと待て、何だ、何がヤバいんだ、俺!

 

「な~、打楽器科の大熊って知ってる?」

「あ~、知ってる。関西の人でしょ? チョー有名。すっごいモテるんだよ」


 扉の向こうから返事がある。やっぱモテるのか、オークめ。


「お前のファンだってさ」

「それ、ぜーったい嘘だし」

「本人から聞いたし」

「いつから知り合いになったの~?」

「今日」


 と言ったところでドアが開いた。

 ブカブカのTシャツにショーパン、首からタオル下げて、濡れた髪を拭きながら出てきた。仕草は死ぬほどオッサン臭いけど、見た目は随分……かわええ。


「なんかお前今日、雰囲気違うな」

「へ? そう?」

「なんかスゲー……色っぽい」

「……変な事したら叩き出すからね」

「しねーって」


 叩きだされる前にマンドラゴラシャウトでダンジョン住民に通報されるのが先だ。


「てかお前さ……」

「ん?」

「眼鏡してない方が可愛い」

「そう?」

「髪も下ろしてると可愛い」

「そうかな?」

「てか、お前かなり可愛い」

「え?」

「ヤバいくらい可愛い」

「は?」


 ……って言いながらちょっと照れてるのも可愛い。


「ヤベぇ、ぎゅーしたいくらい可愛い」

「なっ……何言い出すかな」

「いや、可愛く見えたから可愛いって言っただけ。ぎゅーしないから警戒すんな」

「するでしょフツー」

「しねーよフツー」

「真央フツーじゃないし」

「魔界ではフツーだよ」

「人間界では異常だし」

「だって魔王だもん」


 なんなんだこの会話は……。


「ねえ、判ってると思うけど、魔族の力って人間界で使っちゃダメだよ?」

「なんで?」

「真央の嫌いな『チートキャラ』になっちゃうから」

「なんでそーなるの?」

「指先光らせたりする人間なんていないでしょっ」

「でも俺、どれが魔族の力かわかんねーし。人間もフツーに指先光ったりすると思ってたし」

「空飛んだりとかもすんの?」

「ワイバーンじゃねーんだから」

「口から火吐いたりとか」

「ドラゴンじゃねーんだから」

「あたしも分かんないけど、とにかくその辺の人たちと同じような事しかしちゃダメだからね」

「うん、わかってる。その辺の人がするような事ならいいんだろ?」

「そ!」


 と言いながらも、やっぱ俺はどれが魔族の力なのかよくわかってなかった。

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