第6話 魔王、バイトに勤しむ

 なんか停電とやらのおかげで、ナオに本物の魔王だと言う事は理解して貰えたっぽいんだけど、でもイマイチちゃんと信じて貰えて無いような気もしないではないって言うか、些か納得のいかない感情がこう、俺の中にぐるぐると渦巻いているようないないような。どっちなんだ、俺!


 まあ、こうしていつまでもナオの邪魔ばかりもしてらんねーから、仕事をする事にしてみた。つっても、今まで事務っぽい事しかしてねーし、体使った仕事ってしたことねーし、ちょっと体使うのもたまにはいいかな~的に、遊園地の子供向けショーのアルバイトとやらをする事になった。

 ナオに電車の乗り方とかなんかそんなもんを教えて貰って、面接とかゆーのに行って、オーディションてやつを受けたら、一発合格で、「まるで本物の魔王みたいだ」って太鼓判押されて、「いや、魔王ですから」って、お前、頑張って履歴書書いたのに全然見てねーのかよ。


 この履歴書が大変だった。

 名前の欄に「大魔王」って書こうとしたらナオがそれはダメだとか言って、なんかもうちょっとマシな名前を考えろって、それも随分失礼な言い草だと思うんだけど、まあ、そんな事を言っても始まらないんで二人で「あーでもない」「こーでもない」と悩みに悩んで、結局決まったのが「魔王・大」って名前。てか入れ替えただけじゃん。

 んで、更に言えばこの字が良くないらしい。「魔王」ってのがダメだって。俺の名前にケチ付けてんじゃねーよとも思ったが、ここの文化にそぐわないんじゃ仕方ない。結局「真央・大」で決着がついた。今日から俺は真央さんで、名前は大くんだ。

 これがな、俺的には気に入らんと言うか、なんかどっかの大学の名前みたいじゃね? 更に言えば、「真央大」を縦書きにするとわかるんだが、半分に折ると右と左が同じ形なんだな。これを線対称と言うらしいんだが、所謂シンメトリーってやつで、俺はシンメトリーなもんが嫌いなんだよ。まーいいけど。


 んで、早速俺は人間界初の職場ってもんに行ったわけなんだが、そこで台本てやつを渡されて、これを覚えろと……。更に動きまで決められてて、なんだか自由がねえなぁとか思ったんだが、仕事だしそんな事言ってらんねーし、俺的にかなり頑張った訳だ。


「ぐわははははは。貴様らなどこの俺様が指一本でねじ伏せてくれるわ!」

「真央さん、メッチャ上手いっすね。ほんとに初めてっすか?」

「あー、はい。魔王歴はかなり長いんですけど、この仕事は初めてで」

「真央さんマジ面白いっすね~」


 てな感じで、マトモに受け取って貰えねーんだけど、それはそれでまあいい。

 てかさ、本物の魔王が言うんだから間違いないんだけどさ、魔王って普段そういう事言わねーし。

「はい、どうされましたか? え? 肩に黒猫を乗せたチート美少年が裏山で闇魔法と光魔法を無差別にぶっ放してる? またですか。判りました、対人間界妄想人種向け特殊部隊を配備しますから避難しておいてくださいね」……ならわかるよ。いかにも魔王っぽい。てかナチュラリィにいつもの俺。なんで「ぐわははははは」なん?


 でもまあ、期待される魔王像と言うのがあるらしいからソレっぽく振舞ってみたさ。大股で歩いてさ、たまーに目をギロリと光らせてみたりさ。涙ぐましいほど努力家だよな、俺。

 スタッフなんか「真央さん、目ヂカラハンパ無いっすね、マジで光ってるように見えましたもん!」とか言ってさ。あったりめーじゃん、物理的に光らしてんだから。

 まあ、そんなんで、アドリブっぽいのも入れて期待される魔王っての演じてみたら、迫力満点だとか言って、子供は泣きだすし、お父さんたちは大喜びで真似するし、なんかよく判んねーまま初日が大盛況で、それはそれでなんかちょっと気分良くて、いっぱいナオに報告しよーっと! なんてランランしながら帰途につく自分に気づいたりしたんだな。


 てか、俺、ランランしてる。仕事が楽しい。ナオに報告したい。

 嘘だろ……人間みたいじゃん俺。

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