第3話 温泉の湧き出ずる不思議な蛇

「ここ、あたしんち。入って」

「向こうの扉は牢か何か?」

「あれはお隣さん。ちょっと! 靴脱いでよ」

「え? あ? お前の城は靴を脱いで入るのか?」

「魔王さんちは靴脱がないの?」

「脱がんだろフツー」

「脱ぐよフツー」


 どうでもよくなってきた。とりあえずナオの城に入るんだし、ナオの言うとおりにしといた方が丸く収まる気がする。


「そこら辺に座って……って言いたいけど、魔王さん汚いし~。シャワー浴びてよ、そこだから」

「シャワー?」

「そ、着替えどうしよ? 完全手ぶらで家出して来たんでしょ?」

「うん」

「てかコスプレして家出してくるなんてありえないよねー。ま、いいや。じゃあ、すぐそこのユニクロでなんか買って来てあげるから、シャワー浴びといて。出世払いで返してね」

「シュッセバライ? なんだそれ?」

「あーもう、めんどくさい。いいから黙ってシャワー浴びる! シャンプーとか勝手に使っていいから。とにかく綺麗にしといて! 部屋が男臭くなったら敵わんし。あー、脱いだ服はその辺にまとめといてね。それとタオルはこれ使って。勝手にその辺開けないでよ? じゃ、行ってくるね」

「え? あ? ああ、はい」


 行っちゃったよ。


 脱いだ服はその辺にって言ったな。つまり脱げばいいんだな。綺麗にしろって言うのは俺の身体の事だな。てか……どうやって? これタオルって言ったな。これ使うのか?


 てーか、この無駄に狭苦しい部屋はなんだ?

 このヘビみたいなコレ、なんだ? お前ヒドラじゃねーよな? ……違うな。

この丸いのは何だ? こんなところにカーテンがあるし、玉座って訳でも無いし、引っ張っても動かん、押しても動かん、捻っても……


 うあああああ!!! なんだこりゃー!

 何故こんなところから水が出る! しかも何だこれは温泉か!

 そうか、ここに温泉を引いているのか、やるな小娘、なかなかに侮れん。これで体を清めろってんだな?


 こっちの変な形のこれは玉座か? なんで段々になってる? お? 蓋なのか?

おおっ! 玉座の中に水鏡の仕掛けがしてある! すげー、マジすげー!

 ひょっとするとこれは水占の水盤かも知れんな。しかし水盤を玉座の下に作るか? 待て待て待て、俺の常識で考えるな、この城は狭いから玉座の中にコンパクトに収めたに違いない、まさに職人の匠の技だ。

 そう言えばシャンプーとか勝手に使ってって言ってたよな。シャンプーって何だ? その辺の物を勝手に使っていいと言う事か?


 これはなんだ? 鎖の先に黒くて丸い物が付いている。何かの武器みたいだ。でも鎖が短けーーーーー!!!

 こっちはなんだ。同じ物が三つ並んでる。突いてみるか。

 ……うりゃ。……うりゃうりゃ。おりゃー! どりゃー!

 うへ~~~何か出てきた。白いドロッとした液体。この禍々しさはまさにこの魔王たる俺に相応しい趣。


 ……って、ちょっと……ちょっとなんだよこれ、泡立って来たよ! うわ、すげー! 温泉の飛沫を浴びて益々泡立ってるよ! マジやべえって、これ、泡立ちすぎだろ! どーする俺! ここらで魔王の力を見せつけるとこじゃね? てか、人間どもが考えてるほど魔王って凄くねーんだよ、ただの魔界のお客様相談係みたいなもんだし、言ってみりゃ苦情受付窓口みたいなもんで、てかそんな事言ってる場合じゃねーよ、ちょ……これ……うわ……。


「ただいま~、魔王さん上がった?」


 はっ! ナオが戻って来た!


「ナオ! ナオ! 助けてナオ!!!」

「ちょ……何やってんのよ! 動かないでっ!」

「はいっ!」


 ナオは温泉の湧き出ずる不思議なヘビの首を鷲掴みにし、その辺の泡を綺麗に流し、勿論だが俺の身体の泡も洗い流してくれた。なんでか知らんが、向こう向いて! って怒鳴られたけど。タオルで拭いてから来いってゆーから、一応よく拭いてその狭い空間を脱出した。


「ナオ、これでいいか?」

「やっ、ちょっと何考えてんの! 前隠しなさいよ変態!」

「前?」


 俺は慌てて両手で顔を隠した。


「違うっ! そこじゃなくて! あーもういい、これ履いて!」


 結局、ナオに全部着替えさせて貰った。俺、一応魔王なんだけど……。

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