運命ってやつ

四月。いよいよ、新学期がはじまった。一体これで何度目だろう?

 りな、みゆ、しおりん。志信に日下くん。美凪。今度ももちろん、同じクラスだ。頭の中でおさらいする。みゆとしおりんは、一年の半ばから仲が良くなったんだった。そのへんはスキップしちゃったから経緯はよくわからないけど。

 しょっぱなの座席は、偶数列が女子、奇数列が男子で、それぞれ出席番号順に座ることになってた。あたしは「名波」で、あたしのすぐ前の席が「中岡」のりな。

「よろしくね」

 りなは笑った。やっぱり可愛い。

 入学式、身体測定、内科検診。新学期の行事をあわただしくこなす。「名波」と「中岡」は隣同士。すぐに打ち解けて、みゆとしおりんと一緒の、おなじみのグループができた。

 磁石が引き合うように、似たような雰囲気の子たちがくっついてグループをつくる。ちょっとギャル風のグループ、部活が同じ同士のグループ、地味目のグループ。そのどれもからはずれて、美凪は今回もひとりだった。

 いじめられてるってわけじゃない。用事があれば誰でも美凪に話しかける。美凪も答える。だけど、移動教室もひとりだし、休み時間もひとり。ずっと机に向かって漫画を描いてるから、バリア張ってるように見えるんだよね。勉強してるって思ってる人も多そう。

 それとも、菜月みたいな理由で避けてるひとのほうが、多いのかな……?

 罪悪感が胸を突く。ほんとは、美凪のとなりにあたしがいたのに……。

「千紗あっ。日下に聞いたぞー。片瀬くんとつき合ってるんだってー?」

 ぼうっとしてると、みゆが後ろから抱きついてきて、あたしのほっぺをつついた。

「う、うん」

「しかも千紗からだってー? おいおい、笹っちはどうした、笹っちはーっ」

「さ、笹っちは……。ゲイノー人、だしね」

 うんうん、と腕組みしてうなずいてるのはしおりん。

「あたしは前からアヤシイと思ってたけどねー。だって、おさななじみって、鉄板じゃん?」

 すっごく恥ずかしい。恥ずかしいけど、耐えなきゃ。もう、恋バナが苦手だなんて言ってらんない。

「片瀬くんって、あのバスケ部の人? 千紗ちゃんのおさななじみで、今、彼氏なんだ?」

 りなが、ふんわり、おっとりと笑った。

「いいなー。そういう少女マンガみたいなことって、あるんだあー」

 うっとりとした瞳。本心からの言葉みたい。あたしは内心、ほっとした。

「りなは好きだよねー、少女マンガ」

 しおりんにからかわれて、えへへ、と笑うりな。

 ごめんね。本当は……。本当は、りなが、志信の彼女だったのに。


 志信は、教室では、相変わらずあんまり話しかけてこない。あたしとつき合ってることも、日下くん以外のひとには打ち明けてないみたい。もちろん、一緒に登校とか下校とかも、ない。時々、夜、メールするだけ。前とあんまり変わらない。硬派キャラだから? それともやっぱり照れくさいのかな。あたしも、友達とあんまりはしゃいだりしないほうがいいのかも。迷惑がられたら嫌だし。

 だけど、休み時間とか昼休みとか、みんなでおしゃべりしてる時。目が合うんだ。志信が時々、こっちを見てる。そんな時はあたし、やっぱり告ってよかったって幸せにひたるんだ。

 巻き戻して以降は、もう誰にも嫌がらせをされることはなかった。やっぱり、日下くんとあたし、目立ってたから。本当にあれは、だれの仕業だったんだろう。

「あーっ。カレシほしいーっ」

 みゆが悶えている。学校帰り、みんなで「スギタ」っていう駄菓子屋に寄って買い食い。ほかに寄り道するところ、ないんだよね。だから、とりあえず、店先の自販機の前のベンチに腰かけてジュースなんて飲んでる。

「いいなー。しおりんも告られたんでしょ?」

「うん。吹奏楽部のダイスケ先輩。どうしよっかなあ……」

「だって、前からいいなあって言ってたひとじゃん! なんで焦らしてんの!」

 みゆとしおりんのやりとりに、りなが、くすくす笑ってる。

 四月もあっという間に半ばを過ぎた。今は家庭訪問期間中で、短縮授業。給食が終わったら掃除して下校、もちろんすべての部活動も休みだ。志信と一緒に帰れるかもって思ったけど、それはなかった。だからって自分から誘ったりもできないし。つき合ってるはずなのに、なんか、うすーい壁があるんだよね……。

 そのうち、「暇だし行くとこないし、誰かの家に行って遊ぶ?」って話になって、うちは無理、うちは遠い、って四人でああだこうだ言ってたら。

「じゃあ、俺んちはどーお?」

 日下くんが、自販機の脇から、ぬっと現れた。神出鬼没。そのとなりには志信もいる。

「ここから近いでーす。先生が来るのは明後日でーす。両親仕事でいませーん。どう? うってつけっしょ? おまけに、イケメンもついてきまーす」

「って、誰がイケメンじゃ」

 むすっとふくれた志信が、日下くんのひたいをぺちんと叩いた。

「えー。片瀬くんのことじゃないですけどぉ。うちの弟のことですけどぉ」

「なんだとコラ」

 あははっ、ってりなが笑った。

「面白いねっ。日下くんと片瀬くん、漫才コンビみたい」

 思わず、志信の顔をちらっと見てしまう。りなのこと見てる。「気をつけ」の姿勢で、かちっと固まってる。顔も、……なんだか、赤いような。

 考えすぎだよね。うん。いくら前の世界で、志信とりなが両想いだったからって。もっと自信持たなくちゃ。この世界では、志信は、ちゃんとあたしの彼氏なんだから。


 結局それから、スギタでお菓子をたんまり買い込んで、みんなで日下くんちに行くことになった。日下くんちは、新築で木のいいにおいがする、おしゃれな家だった。日下くんはいちおう、あたしのモトカレってわけだけど……。その記憶を持ってるのはあたしだけ。へんな感じ。

 志信は日下くんとばっかりしゃべって、あんまり女子とからまない。日下くんは相変わらず女子にばっかりからもうとする。対照的なふたり。

「つーか千紗ちゃんって、志信のどこに惚れたのー? いつから好きだったのー?」

 日下くんが、みんなにジュースのグラスを配りながら、いきなりそんなことを言いだした。にやにや笑いをうかべて、あたしの顔をちらちら見ている。

「えっと……。どこに、って。そんな……」

「千紗ちゃん顔真っ赤―っ。カーワーイーイー」

 日下くんがあたしを指さしてきゃらきゃら笑う。このひとのこういうノリ、どうにかしてほしい。

「あたしも聞きたーい」「あたしもー」

 みゆとしおりんが身を乗り出した。りなはにこにこ笑ってる。

「やめろよな」

 強い口調でそれを制したのは志信だった。眉間にしわを寄せて、ぶすっとむくれている。

 空気が冷えた。みゆたちの笑顔が引きつっている。

「ごめんごめんー。お前ほんとに、お堅いっつーか、シャイだよなー」

 日下くんが志信の頭を、犬を洗うみたいにぐしゃぐしゃっと撫でた。

「もーいい。俺、帰るわ」

 立ち上がる志信。

「何だよ、ノリ悪いな。ってか、そんな怒ることかあ?」

「怒るに決まってんだろ? 誰にも言わないっつーから教えたのに」

 日下くんを振り切って、自分の荷物を持って、すたすたと志信は玄関に向かった。ドアの閉まる音がしてから、あたしは慌てて立ち上がった。

「ごめんっ。あたしも帰るね。おじゃましましたっ」

 ガレージに止めさせてもらっていた自転車のスタンドをあげる。志信の自転車は、もうない。みんなといるときにからかわれるの、いやなんだ。硬派キャラが崩れるから?

 全速力で自転車をこぐ。学校を通り過ぎ、県道に出たところで志信の後姿を見つけた。

「まってえっ! 志信―っ!」

 あたしの叫びが届いて、志信は自転車をとめた。ゆっくりと振り返る。

 ようやっと追いついて、肩で息をするあたし。

「志信、あたしとつき合ってること、恥ずかしいの……?」

 ん、と志信は小さくうなずく。

「ガッコのやつらが見てる前だと、どう振る舞っていいのか、わかんねーんだ。ごめんな、名波、傷ついたよな……」

「みんながいなくて、ふたりだけだったら、大丈夫なの? この前出かけた時みたいな」

 志信は「うん」と、こんどは大きくうなずいた。本当なんだよね。周りの目が気になるから、それだけなんだよね。りながいたからじゃ、ないんだよね……?

 無言の志信の後ろをついていくようにして、家まで帰った。あたしんちの前で志信は、じゃ、と手を振った。

 家に入ると、玄関のところで、制服姿のお姉ちゃんが仁王立ちで待ち構えていた。

「見たぞー、千紗。お前のカレシは志信だったのか。超ナマイキーっ」

「おねーちゃん」

 涙目のあたしに気づいて、お姉ちゃんは、おや? と首をかたむけた。

 それからあたしはお姉ちゃんの部屋で、むにむにのビーズクッションを抱きしめながら、不満をぶちまけた。

「あー。あるあるー。なつかしー、そういうの。マジ志信ってガキだね。青いわー」

 お姉ちゃんはごろんと寝そべった。

「その様子だと、どうせあんたの方からコクったんでしょ? タイミング誤ったね。志信は今、恋愛より男友達優先なんだわ」

「それならどうして、オッケーしたのかなあ」

「べつに女子に興味ないわけじゃないからさ、断るのは惜しかったんじゃないのー? あたしにも経験あるわー。ま、志信がもちっと成長するまで待つしかないんじゃん?」

 お姉ちゃんはそう言って、スマホをいじり始めた。

 成長するまで待つ、か。タイミングが早すぎたってことだよね。でも、何度もやり直したあたしは知ってる。あたしには、あのタイミングしか、なかった。

 だって。ちょっとだけ「成長した」志信は、りなのこと、好きになるんだよ。

 時間を巻き戻したからって、すべてが思い通りに、うまくいくとは限らない。

 巻き戻したおかげで、あたしは陰キャラ脱出したけど、新しいグループでうまくやっていけなかった。つらい時間をスキップしたけど、また別のつらいことがやって来た。りなと志信、日下くんのこと、それからあの、しつこく続いた嫌がらせ。逃れるようにまた過去に戻った。そして志信に告白して、望みをかなえた。これでやっと、ばら色の毎日が訪れると思っていたのに。


 四月が終わり、五月、体育祭が終わり、六月。志信は部活が忙しくて、あんまり話せない。デートにも行ってない。こわくて誘えない。

 毎日、空はどんよりと曇っている。もうすぐ梅雨入りかな。海沿いのあじさいは、もう咲いてるかなあ。そんなことをぼんやり思う。気圧が低いせいか頭が重くて、その日は早めに寝ようと八時半くらいに布団に入った。

 夢を見た。うす暗い、トンネルのような場所に美凪がいた。声をかけようとしても、どういうわけか声が出なくて、自分ののどに手をあてた。

 そこで目が覚めた。頭がずきずきする。枕元の目覚まし時計を見ると、まだ十時前だ。水でも飲もうと立ち上がったところで、あたしの携帯が鳴った。

 着信。みゆから。

「もしもし千紗……?」

 低い、くぐもった声。いつもの陽気な彼女とは様子がちがう。

「どうしたの? 何かあったの?」

 この時、「何かあった」のはみゆのほうだと思っていた。あたしに相談事かなって。

「うん。言おうかどうか迷ったんだけど……。でも、千紗、知ってたほうがいいと思って。あたしも黙ってられないし。千紗さあ、最近、片瀬くんとうまくいってるの?」

 どうして? と聞き返す。みゆは思い切ったように話しはじめた。

「あたし今日、見ちゃったんだ。夕方ね、スーパーモリグチの近くで。りなと……片瀬くんが、一緒に歩いてるとこ」

「えっ……。偶然ばったり会った、とかじゃないの?」

「ん。それがさ。あたし、こっそり後つけたんだけど。片瀬くん、自転車のかごにりなの荷物乗っけてね、そのまま、りなの家まで送っていったんだよ」

「りなが大変そうだったから、手伝ってあげたんでしょ?」

 りなは毎日のようにスーパーに夕ご飯の材料を買い出しに行く。きっと今日は持ちきれないくらいたくさん買っちゃったんだよ。

「そうかもだけど……。なんか、雰囲気が……。っていうか、りな、泣いてるっぽかった。あ、ううん。遠くから見てたから気のせいかもだけど」

 泣いてたって、どうして、りなが……? 

 あたしはそれから、一睡もできなかった。


 翌日は雨だった。雨の日はバスで登校する。いつもより早めに教室に着いて、窓から、色とりどりの傘が校舎に吸い込まれていくのを見ていた。

 りなと志信のことが頭から離れない。夕方って、志信は部活の帰りだったのかな。

 授業の内容は耳に入らない。休み時間もあたしは、ほおづえをついてぼんやりしていた。窓際の席の志信は、日下くんと何やらふざけ合っている。べつに変わったところなはい。視線を戻そうとして、ふと、美凪の姿が目に入った。相変わらず、一心不乱にノートに向かっている。ゆうべ見た夢。うす暗いトンネルにいた美凪。

「千紗。どしたのボーッとして」

 しおりんに肩を叩かれた。みゆもいる。りなは、自分の席で次の授業の準備をしてる。

「江藤さんがどうかした?」

「……ううん、別に」

「そういや、江藤さんってさー。いっつもひとりで何か書いてるよね」

 と、しおりん。そうそう、とみゆがうなずいた。明るい声だ。あたしの気分を変えようとしてくれているのかもしれない。

「勉強してんのかな。K市の進学校狙ってるとか? もともとK市に住んでたらしいよね」

「えー。それはないんじゃない? いい高校狙ってるとしてもさ、K市は避けるんじゃない? だってさ、江藤さんって……いじめられてたんでしょ?」

 しおりんが声をひそめた。みゆが身をのりだす。嫌な空気。これは、美凪の悪口だよね……? つめたい汗が背すじをつたう。

「あー知ってるー。江藤さんって、ちょっと暗いっていうか、からみづらい感じ? ねえ、千紗?」

「えっ……」

 あたし、ここで、何ていうべき? 美凪のこと、悪くなんて言いたくない。でも、本音を言ったら、また前みたいに、ノリ悪いって言われるかもしれない。でも。

「千紗ちゃん」

 いきなり腕をひかれた。りなだ。

「ごめん。ちょっと千紗ちゃん、借りるね」

 そのままトイレに引っ張っていかれた。手洗い場のところで、りなはあたしの腕から手を離した。

「どうしたの、りな」

「ごめん。さっき、みんなの話、聞いちゃった。千紗ちゃん、困ってたみたいだから」

「りな……」

「余計なお世話だったらごめん。あたし、ああいう会話、苦手で。千紗ちゃんもそうなのかなあって」

「うん。……ありがとう。悪口なんて嫌だって、はっきり言えない自分が情けないよ」

「あたしもだよ。勇気が出ないの。嫌だって言ったら、今度は自分が悪く言われるんじゃないかって思っちゃうの」

 りなは弱弱しく笑った。りなって、ほんとうにいい子なんだ。見た目が可愛いだけじゃなくって、心もきれい。あたしは自分のスカートのすそを、ぎゅっと握りしめた。

「りな。……昨日、志信と一緒に、帰ったの……?」

「えっ」

「見かけた人がいて。いや、別に疑ってるとかそんなんじゃないんだけど」

「……うん。偶然、スーパーで会ったの。でも、それだけだよ」

「あのね、もし……。もし、りなも志信のこと好きとかだったら、遠慮なく言ってね?」

 似たような台詞、前、あたしもりなに言われたことがある。

「大丈夫」

 りなはあたしの両手をとって、しっかりとにぎりしめた。

「片瀬くんは、たしかにカッコいいし、優しいけど。友達の彼氏だもん」

 にこっと笑うりなの、右のほっぺに小さなえくぼができる。

 カッコいいし、優しい、か。そっか。志信、優しいんだ……。


 雨は毎日のように降り続いている。町中がうすい水の膜でおおわれてるみたい。期末テスト一週間前、クラスの雰囲気がぴりぴりしてきた。りなは妙に元気がなかった。みんなと一緒におしゃべりしていてもどこか上の空で、しょっちゅうため息をついてる。

「具合悪いの?」って声をかけると、「ん。テスト勉強のせいで寝不足」と返ってくる。

 うつむいた横顔は、いつもより透明感を増して、青白いほどだ。

 ふと、視線を感じた。……志信だ。志信の視線はあたしを通り越して、まっすぐに、りなのほうへと向けられている。認めたくなくて、目をそらす。胸がひりつくように痛い。

 部活動は今日から休み。放課後あたしは思い切って志信に声をかけた。

「一緒に、帰らない?」

 志信は、一、二度、まわりを見回してから、「わかった」と言った。

 傘をさしてとなりを歩く。あたしのはみずいろの水玉模様。志信のはシンプルな黒。

 ちょうど正門を出ようとしたとき、

「千紗ちゃん、片瀬くん、ばいばいっ!」

 ころころした、明るい声が飛んできた。りなだ。ポップな花柄の傘をさしたりなは、すれ違いざま、極上のスマイルであたしたちに手をふった。そのまま、泥はねも気にせず、ダッシュで去っていく。

 ずきんと胸が痛む。あたしは志信の顔をそっとぬすみ見た。

 志信は見えない糸で縫い付けられたみたいに、りなの後姿をずっと見つめている。

 やっぱり、こうなるんだ。こうなってしまうんだ。

 バスに揺られる。となりに座っている志信の心は、ここではない別のところにある。

「りなって」あたしは口を開いた。

「りなって、可愛いよね」

「……そうかな。別に普通だと思うけど」

 ぶっきらぼうな言い方。

「それに、偉いよね。毎日ごはん作って。あたしだったら無理だなあ。甘ったれだもん」

「どうしたの名波、さっきから」

 志信はいぶかしげに眉を寄せた。

「ま、確かに偉いよな、中岡は。弟の誕生日のごちそうまで作るみたいだし」

「……そうなんだ。知らなかったよ」

 知らなかったよ。志信が、そんなことまで知ってるなんて。

 バスから降りて、あたしたちは無言で家まで歩いた。傘をたたく雨の音が妙に耳につく。

 別れよう。つき合うの、やめよう。何度もそう言おうとしたけど、どうしても言葉にならない。家の前の道路まで来て、じゃあね、と言おうとしたとき、志信は、思い切ったように顔をあげた。

「ごめん名波。俺……、この前、中岡に告った」

 ごめんっ、ともう一度大きな声でさけぶと、頭を下げた。志信の黒い傘が転がった。

「殴ってくれ、千紗」

「ばっかじゃないの。志信、ドラマの見すぎ」

 ああもう。やっと、千紗って呼んでくれたよ。

「あたしに遠慮はいらないから。りなと仲良くね」

 くるりときびすを返す。あたし、また失恋した。これで何度目だろう?

 これが運命ってやつなんだね、きっと。

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