第7話

賢治は体を強張らせた。

誰かが帰ってきたと思ったら

ガタンと音がして小さな悲鳴が聞こえた。

しばらくすると重い足音がゆっくりと

階段を昇ってくるのが分かった。

時折、壁を叩く音とうめき声のようなものも聞こえてきた。


この部屋に入ってこないでくれ。

足音とうめき声がだんだんと近づいてくる。

部屋を見渡すが古い家の造りはクローゼットもなく

昔、賢治の母親が嫁入り道具に持ってきたと話してくれたのと

同じような大きなタンスが二つあるだけだった。


賢治は咄嗟に狭いベッドの下に隠れた。

ガチャ。

と同時に部屋のドアが開いた。

賢治はさっさと帰らなかった事を後悔した。

最近は、おじゃまする事にも慣れてしまい

滞在時間が長くなりがちだった。


マダム風の女性で、いつも銀行勤めの息子の自慢をしていた。

夫に先立たれ、自慢の息子も家をでて

一人で悠々自適な暮らしをしていると聞いていた。

家の前に立った時、マダムの話とは対照的な家がそこにはあった。

グレーがかった家の壁は、所々クラックが入っており

その筋が黒くシミになっていた。

ガラガラと引き戸を開けるとヤニと埃っぽい空気が漂っていた。


廊下や階段には積み上げられた雑誌や新聞

バケツや長靴等が置かれていた。

玄関にも靴が沢山並んでおり

いないはずの男物の靴もおかれていた。

賢治は合鍵をギュッと握りしめた。

入るべきではない、入ってはいけないと

頭の中で警告音が鳴ったが

吸い込まれるように靴も脱がずに入って行った。


ドアが開き足音が部屋の中に入ってきた。

ギッとベッドが大きく軋んだ。

ウーウーとうめき声が聞こえ、ギシギシとベッドが軋む。

ベッドの軋む音が規則正しくなると

やがて、うめき声は聞こえなくなった。

上でよくない事が起こっている事だけは分かった。


とにかく早く終わってくれとそれだけを願った。


静かになると部屋から誰かが出ていった。

しばらくするとシャワーの音が聞こえてきた。

賢治は急いでベットから這い出た。

やっぱり・・ベッドの上で女性がぐったりしていた。

傍にあった服をかけて家を後にした。


賢治は公衆電話にかけこんで110を押した。

「事件ですか?事故ですか?」

受話器の向こうから聞こえる声に賢治は思った。

事件になる前にあの子をたすけられたんじゃないか・・

薄暗くてよく見えなかったが、まだ子供だったじゃないか・・

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