第5話 ようこちゃん

「ただいま・・」

家の中はシンとして空気が冷たかった。

母親がいるんじゃないかと一瞬でも期待した自分にがっかりした。


コンビニで買ってきたケーキを冷蔵庫に入れシャワーを浴びた。

髪を拭きながら携帯電話を取り出した。

片手でメールチェックしながら髪の束を

つまんでは毛先まで滑らせた。

それがいつかしら癖になっていて

よく食事の時は汚らしいのでやめなさいと注意されていた。

何度もスーっと髪の長さを確認するように指を滑らせる。

一度、ショートにして以来、髪は短くしないと決めていた。


小学生の頃、近所のおじさんにいたずらをされた。

母の帰りが遅くコンビニへ向かっただけだった。

外は暗くなり始めていて、寒くて冷たい風が吹いていた。

お腹も空いて少し寂しかった。

普段なら絶対ついていかないのに

なぜだろうついて行ってしまったのだ。

私は翌日助け出された。


父は前にも増して私の事を避けるようになった。

心に傷を負った娘になんとなく同情や遠慮みたいなものを

感じているのかと思っていたが、どうやら嫌悪しているようだった。


つい、なんとなく、寒くて、寂しくて、ひとりぼっち・・・

おじさんの、乾いて白くなった唇

ひきつった笑顔でさえ優しく見えたのだ。

もしかしたら家に帰った時に私がいなくて心配をした

お母さんやお父さんが今までの事を悔い改めて

何か変わるかもしれないそんな期待もしていた。

そう、もうその頃から両親は不在がちになっていたのだった。


でも、おじさんの家についてすぐに後悔した。

翌朝、訪ねてきたおまわりさんに助けて貰った。

すぐに病院に行き、洗浄や検査、なんの薬かわからないけど

言われた通りに飲んで2~3日入院した。


退院した日、母は私をそのまま美容室に連れていった。

鏡越しに短くなっていく自分の髪をみて

最初で最後のショートヘアだと心に決めた。

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