お外とお家

「先輩、行ってらっしゃいです。」

「今日は少し遅くなるから、夕飯頼んでいいかしら?」

「もちろんです。」

こうやってお見送りするのも私だけだと思うと優越感がある。

事件以来、マスコミにつけられるのが怖くて、学校はおろか外にも出ていない。


出発したはずの先輩が戻ってきた。

「ごめんなさい、忘れ物したわ。」

「あ、私とってきま…ぅん。」

「んっ。キスするの忘れてた。行ってくる」


へなへなと座り込む。不意打ちはズルイです。


先輩が帰ってくるまでに掃除と洗濯と、お世話になってるんだからちゃんとしなくちゃ。

腕まくりしたけど、寒いからやめた。


家事を一通り終えたので昨日の続きから本を読む。先輩の部屋の隣には本が沢山ある部屋がある。医学系や心理学系の本が多いけど、勉強になるかなって思って読んでる。

分かんない言葉とかはちゃんとネットで調べてるし!

先輩が私に貸してくれてるパソコンを立ちあげる。検索エンジンを開いて単語を打ち込んでいて気づいた。

(なんでニュースが表示されないんだろう)

ここに来る前に家で使っていたパソコンでは表示されていたニュースがない。

ニュースだけがない。

これまではあまり気にしなかったけど、今考えると不自然だ。それに、先輩の家にはテレビがない。新聞も届かない。

もやもやしてきたので、検索エンジンに「ニュース」と打ち込んでエンターキーを押した。

が、何もヒットしない。

下の方に小さな文字で、「このワードは検索出来ません」と出ている。

(どういうこと?)

これは先輩が設定したのだろうか。

(何のために?)

学年で中の下くらいの脳みそを絞っても何も出ない。

(先輩がやってるってことはきっと私のためなのかな?そうだといいな。)

自然に上がってしまった口角を手で隠しながら、しおりを挟んだところから読み始めた。


ゴーンゴーンゴーン


3時の鐘が鳴った。もうこんな時間か。

ふと目に止まったカレンダーには、明日の所に赤い丸が付いている。

(あ、明日で1年か。)

私が先輩に引き取られて1年になる。

(何かお礼出来ないかな?)

そう言えば先輩、ベレー帽が欲しいって呟いてたような。と考え、ネットショッピングのサイトを見たが、ベレー帽は直で見ないと質感が分からない。という結論に至った。やはり無理か。

(待てよ、頑張って外に買い物行けたら褒めてもらえるかもしれない?)

もう一度時計を見る、まだ3時。先輩が帰ってくるまで3時間以上はある。

(ちょっと頑張る!)


決心して外に出た。


1年ぶりの外は少し寒かった。

(やっぱり怖いな。変装したけど、まだ私のことを追ってる記者がいるかもしれないから早く帰らなきゃ)

駅の近くの雑貨屋で気に入ったものを見つけ、足早に家に戻った。


「白いベレー帽に黒い百合のブローチ。」

まるで先輩の心と名前みたい!

先輩の反応が気になるけど、美味しい夕飯作らなきゃ。


ドアが開く音がした。

「ただいま。」

「先輩、おかえりなさい!」

「あら、すごく楽しそうね。どうしたの?」

イタズラをした子供のように笑って、プレゼントを差し出した。

「先輩、私を引き取ってくれてありがとうございます!」

「わっ!ありがとう。花からのプレゼントなら何でも嬉しいわ。」

「先輩、開けて開けて!」

白く細い指が赤いリボンをほどく。

気に入ってくれるかな?笑ってくれるかな?

「あら、ベレー帽?私が欲しいって言ってたの覚えてくれてたの?」

そう言って綺麗に笑いながら私の頭を撫でた。

「先輩、私、外に買いに行ったんです。怖かったけど、ちゃんと買えました!」

褒めてもらえると思った。

でも、先輩の顔は青くなった。

「外に出たの?!だめよ。まだ、報道陣がいるかもしれないのよ!」

「花に何かあったら私、普通でいられない!」

先輩が動揺してる。いつもクールで余裕がある先輩が。少し可愛いと思ってしまった。

「先輩、大丈夫でしたから。それに、もう出ませんよ。もう、勝手にどこかに行ったりしませんから。」

久しぶりに自分からキスをした。

軽く唇が触れてから離れようとしたけど、先輩に後頭部を抑えられて、深い方をされる。

水音と名残惜しく離れた銀の糸がひどく官能的で、赤い顔と涙目と。

「花、私、もう我慢出来ないっ…」


先輩に連れられてシーツに沈みこんだ。

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