くるりんぱ

 ついつい話し込んでしまった。

 守は二階での一葉との会話を思い出して、反省をする。

 確かに有意義な情報が得られたが、その間に攻め込まれていたら本末転倒だ。

 急いで守は待ち伏せポイントへと移動する。

 場所は、宴会場出入口。渡り廊下から家の中へと入る戸が見える位置。

 宴会場の窓ガラスは事前に木の板で塞いであるので、そこから入ってくることはない、はずだ。一応、警戒はしておくが。

 とりあえずは、渡り廊下の戸を優先的に見張るべきだろう。

 守が渡り廊下と繋がる戸をジッと見ていると

 ――バキコンッ!!

 突如、大きな音をたてて、戸が吹っ飛んだ。

「えっ!?」

 真っ二つに割れた戸が、廊下に落ちる。

 瞬間、仕掛けてあった罠が作動する。

 じゃらららら、大量に降り注ぐ小銭。主に十円玉。

 しかし、戸を蹴り破った人物は渡り廊下側にいるらしく、小銭は当たらない。

 落下した小銭は、無残にも床に散らばり硬貨特有の乾いた音をたてた。

「――ああっ!! お年玉が!!」

 お金を落として、お年玉。なんて、くだらない仕掛けを回避されて、悔しがる守。

 とはいっても、所詮は自動で発動する罠。最初から、そこまで期待してない。

 本命は、手動。守は、手に握った罠を作動させるためのレバーを握りしめて、作動させるタイミングを計る。

 バッ、と戸があったところから飛び出す百足。

 姿勢を低くした状態で、守のいる場所まで猛ダッシュ。

 速い。が、百足の姿が見えた瞬間には、守もすでにレバーを引き終えていた。

「喰らえ、ちょっと早いけど……これがほんとの落とし玉!!」

 ――ガゴンッ

 直径が守の身長よりも大きな大玉が、天井から落下する。

 百足は急ブレーキをかけて、落下した大玉の直撃を免れる。

 が、大玉が落下した位置には、あらかじめ斜めになった台が置かれており、大玉は百足のいる方向へと傾き始める。見た目はゴム製の大玉だったが、中に何かおもりが入っているのか、自重でごろごろと転がる。

 大玉の大きさ的に、横を通り抜けられるスペースはない。

 百足は大玉に轢かれないよう、引き返す。

 ――よし。心の中でほくそ笑む守。

 このまま百足が大玉から逃げて、渡り廊下まで引き返せば、戸があった部分は大玉によって塞がれてしまうだろう。そうなれば、百足は渡り廊下で立ち往生。次の罠を準備する時間が稼げる。

そう思っていた守だったが、何故か百足は渡り廊下へと引き返さなかった。

 戸があった部分、よりもさらに奥。廊下の突き当たりへと駆けた。しかし、そこに分かれ道などは無く、百足は完全に袋小路に入ってしまった。

 このままでは大玉に押しつぶされる――直前、百足は突き当たりの壁に足をかける。

 そして壁を垂直にのぼって

「げっ!?」

 天井付近で一回転。百足は、上を通過して、大玉を回避した。

 着地の際に、ころんと回って衝撃を殺し、そのまま止まることなく流れるような動作で、再度、守に向かって駆け始める。

「やばっ!!」

 慌てて戸を閉めて、宴会場の奥へと走る。

 ――バンッ

 と、あっさり戸は蹴り破られて、百足が宴会場の中へと飛び込んでくる。

 守の姿を確認して、突撃しようとするが、しかし、足元を見て動きを止める。

 部屋一面に置かれた、宴会用の足つきお盆。

 蹴散らして駆けるには、数が多すぎる。百足は、守に駆け寄るのは難しいと判断。その場から攻撃をするために、針のような暗器を取り出す。

 しかし守も、立ち止まった百足の隙を見逃さずに、手に持っていた糸を引っ張り、罠を作動させる。直後、百足の頭上に振るいくつもの陶器の皿。

 落ちた皿は、頭に当たればダメージを与え、当たらずとも床に落ちて割れれば、割れた皿の破片が足止めになる。

 ここまで上からものを落とす罠ばかりだが、やはりこれが一番使いやすく、有効な罠だからだ。人の視界というのは上側への視野が一番狭いため、上からの攻撃というのは、不意打ちにはもってこいなのだ。

 しかし百足は、守が糸を引っ張る動作から、罠の作動を察知して上から降ってくる皿に素早く気が付く。

 取り出した針の暗器を片手に三本ずつ持って、その針の先で落ちてきた皿を受け止めた。

「さ、皿回し!?」

 驚愕する守。

 百足は両手に持った針で、一度に計六枚の皿を回していた。ただ、罠にセットした皿は全部で二十枚。六枚を受け止めたとしても、残りの十四枚は落下してしまうはずだ。

 しかし、皿は一枚たりとも床には落ちなかった。

「うっそぉ……」

 その光景に、もはや守は呆れるしかなかった。

 百足はジャグリングの要領で、二十枚の皿を受け止めて体の前で順に回していた。

 回転した二十枚の皿が、百足の周りを飛び回る、とんでもない光景だった。

 忘年会の席で披露したとしても、称賛よりも先に、沈黙がくるようなレベル。

 思わず見惚れる守。

 そこで、百足は皿を回したままの状態で、その場で一回転。その勢いで、回していた皿を何枚か、守に投げつけた。

「うわっ!」

 我に返った守が、慌てて身をかがめて、その皿を躱す。

 が、百足は更に皿で追撃をする。

 迫る皿。

「必殺・畳替えし!!」

 叫んだ瞬間、畳がひっくり返り、上に乗っていたお盆を吹き飛ばしつつ、守の前で即興の壁が出来上がる。

 ――バリンバリンバリンッ

 投げられた皿が、壁となった畳に当たって砕け散る。

「ふう……」

 とりあえず危機を回避できて、一息つく守。

 畳が壁となっている間は、百足もうかつに手をだせないだろう。

 本来、畳の仕掛けは上に乗った人を吹っ飛ばす罠だったのだが、まあ身を守るために使うのであれば仕方がない。

 守が、畳の脇からそっと顔を出して百足の様子をうかがうと――

「――ひっ!?」

 畳から出した顔を、皿がかすめた。

 ……どうやら、うかつにこの場を動けないようだ。

 とはいっても、動かなければ百足は確実に距離を詰めてくるはずだ。

 だったら、畳が盾になってる範囲で動けばいい。

 そう考えた守は、身をかがめた体勢で後方へ移動する。

 その判断はどうやら正解だったようで、移動した直後に守がいた場所に大量の皿が降り注ぐ。おそらく、皿を山なりに投げて、畳の壁を越えたのだろう。

 ――当たらなくてよかった。

 ほっとする守だったが、しかし、安心している場合でもない。おそらく、今の攻撃で手ごたえを感じなかった百足が、守の移動に気が付いてしまっただろう。

 ――早く、移動しないと。

 這いずってなんとか壁際まで移動したところで

 ――ガッシャン

 お盆を蹴散らしながら、百足が壁となった畳の横から現れる。そのまま守に向かって駆けようとするが、足元のお盆が邪魔なのか速度はそこまで出ない。

 百足はじれったく思ったのか、その場から手に持った針を振りかぶって……投げた。

 狙いは、もちろん守。

 壁際まで追い込まれた守には、身を守るための障害物はない。

 今度こそは当たる。百足がそう思ったとき――

「っ!?」

 ――守の姿が、消えた。

 壁に突き刺さる六本の針。

 先ほどまで居た場所には誰もおらず、守の姿は完全に消えていた。

 いや、正確には消えたわけではない。百足は、しっかりと一部始終をしっかりと見ていた。守は消えたのではなく、ただ一瞬で移動しただけだ。

 では、どうやって一瞬で移動したのか。

「回転扉……」

 百足が、ぽつりと正解を呟く。

 守は本物の忍の前で、忍者よろしく壁に偽装されていた回転扉で姿を消した。

 つまり、守は回転扉を使って、壁の向こう側に移動したということだ。

 百足は落ち着いた様子で、回転扉のある壁に近づく。

 そして、壁の前に立って

 ――ドン

 と、蹴っ飛ばす。が、扉は吹っ飛ぶことなくその場でクルクルと回転。

 その際に、扉の向こう側を覗くが、先にある部屋は暗くてほとんど何も見えない。

 百足は薄白色の棒を取り出し、それをUの字に折り曲げて口にくわえる。すると薄白色だった棒――ケミカルライト、通称サイリウムがオレンジ色に輝きだす。そして、回転していた扉を止めて、再度、慎重に中を覗き込んだ。

 今までのパターンからすると、上から何かが降ってくる可能性が高い。

 上方には十分注意したまま、回転扉を押して、部屋の中へと足を進める。

 ――その瞬間

「ぃ!?」

 百足はバランスを崩して前方へと倒れこんだ。

 原因は、上からではなく背後からの予想外な衝撃。何者かに、お尻のあたりを突き飛ばされたらしい。確かに背後への警戒は甘かった。しかし、部屋へ足を踏み入れる前に、周りに誰もいないことを確認していたはずだ。

 百足が振り返ると、回転扉が閉まっていた。

 回転扉……背後には誰もいない……死角……。

 自分を突き飛ばしたものの正体に、百足は気が付く。

 百足を突き飛ばしたのは、回転扉――正確には回転扉を押した守によって突き飛ばされたのだ。おそらく百足がゆっくりと回転扉を開けた際に、反対側には、守が張り付いていたのだろう。そして百足とすれ違うように宴会場へと戻った後、回転扉を思いっきり押した。その回転扉に突き飛ばされて、百足を前に倒れたというわけだ。単純な答えに、苦々しげにサイリウムを噛みしめる。

 しかし、想定外だったのは事実だ。なんせ、百足は直前に回転扉を思いっきり蹴飛ばしている。もしそのときに扉の裏側に張り付いていたら、守は百足の前に無防備な姿をさらしていたはずだ。蹴飛ばした際に、守の姿は無かった。だからこそ、扉の裏側には誰もいないと百足は決めつけていたのだが――どうやら、百足の一連の行動は守に先読みされてしまっていたらしい。あるいは、賭けに出られたか。

 どちらにせよ、百足は守に負けたということだ。

 おそらく無意味だろうが、百足は回転扉に近づいて押してみる。やはり動かない。蹴りをいれるも、びくともしない。完全に閉じ込められたようだ。

 扉を挟んだ反対側では、百足の推理どおり宴会場へと戻っていた守が、あらかじめ用意してあった木の棒を閂の要領で扉のつっかえ棒にしていた。

「……えーと、百足さんでしたっけ。申し訳ないですが、そこでしばらく大人しくしていてください」

 と、守は冷静な口調で扉越しに言う。

 しかし、そんな口調とは裏腹に、守は内心でまだドキドキしていた。

 百足の行動を読んでいたとはいえ、回転扉の裏側に張り付くのは賭けだったのだ。そもそも、隠し部屋自体が袋小路だ。ここに飛び込んでしまった時点で、ある程度、危険を覚悟しなければ逃げられなかった。

 今回はなんとかなったものの、失敗していたら、為すすべもなく捕まっていただろう。百足のことは散々煽ったので、もしかしたら殺されていたかもしれない。

 まあ、煽り自体、行動を読みやすくするためのものだったのだが。

 罠を使う以上は、この手の心理戦は必要不可欠だと、守の祖母もいやらしい顔をしながらよく言っていた。というか、行動を読まれたうえでよく罠にかけられたりしていた。苦い思い出だが、今、役に立っている以上、祖母に感謝しなければいけない守であった。

「それじゃあ僕は、もう一人の蚰蜒さんって人を捕まえに行くんで」

「………………」

 扉の向こうから反応はない。

「あ、そうだ。待ってる間、一人では寂しいでしょうからお友達を呼んでおきますね」

 と言って、にっこりと微笑む守。

「………………」

 守の言ったことの意味がわからないのか、やはり、扉の向こうから反応はない。

「ああでも、彼らはきっと今おねむでしょうから、あまり起こさないようにしてくださいよ? 毒はないですけど、無理に起こして襲われたら嫌でしょうし」

 と、一方的に告げて、壁際にあったスイッチを押す。

 直後、何かが落ちる音がする。

「口寄せの術、ってね」

「――――――ひっ!?」

 短い悲鳴が扉の向こう側から聞こえる。

「えっと、たしかアオダイショウでしたっけ。一葉君の飼ってる蛇さんたちです。では、仲良くしてやってくださいね」

「っ――――――!!」

 返事は無かったが、声にならない悲鳴だけが守のもとに返ってきたのだった。

 一仕事終えた守は、満面の笑みで額を拭う。

「さてと。後は男の方だけだね――って、ちょっと待った」

 今の状況に違和感を感じる守。

「……どうして、百足さんは一人だけだったんだ?」

 二階へと上がる階段の一方は潰して、こちらにしか残ってない。だったら、二人で来るのが普通なはずだ。現に今だって、二人同時に来られていたら守は対処しきれなかっただろう。それはまあ、助かったのだけど。しかし、何故そうしなかったのか。

 ただの慢心でなければ、向こうには別行動をとるだけの理由があったはずだ。

 それがいったいなんなのか。守が必死に考えていると――

『守宮さん!!』

 ヘッドセットから自身の名を呼ぶ声が聞こえた。

「はい?」

『まずいです、蚰蜒が――ザザッ』

「一葉君!?」

 何かを言いかけたところで、ノイズが入り一葉からの通信は切れてしまう。

 蚰蜒が――。いったい何があったのだろうか。

少なくとも、いい知らせでないことはたしかである。

「とにかく、様子を見に行ってみないと!」

 宴会場を飛び出して、守は二階へと走る。

 罠のある階段を通るのは少し面倒だったが、慣れてしまえばそこまで大変でもない。いつかの智樹のように、飛び出す階段の上に飛び乗る守。びたん、と転びながらも、すぐに立ち上がって、振り子の丸太を回避して踊り場へと移動する。

 踊り場から、二階へ続く階段へ足をかけたそのとき――

「はい、その先は通行禁止っす」

 がしっと、何者かに背後から肩を掴まれる。

「――えっ?」

 守は思わず振り返ろうとするが――視界が反転、体がふわっとする感覚の後、顔が冷たい床に押し付けられていた。

「はい、確保」

 倒れた自分の上から、男の声。この声は……。

「蚰蜒……?」

「おやおや。何で俺の名前を知ってるんすか。ひょっとして、俺って有名人?」

 人を馬鹿にしたような声に軽薄な話し方、蚰蜒という男に間違いない。

 だけど、何故ここに?

 考えられるのは、守が百足と交戦中に、廊下を通ってここまで登ってきた可能性だが……しかし、その場合は二階にいる一葉が罠を使って返り討ちにしているはずだ。

 ――もしかして、一葉君が失敗した?

 いや、それも考えにくい。この階段に仕掛けている罠は、一つも使われた様子はない。失敗はともかく、罠を一つも使わずに突破されるとは思えない。

「ふふん。どうして俺が二階に――って思ってるっすね。せっかくだから、答えてあげるっす。あんたが潰したと思ってるもう一つの階段だけど、あそこから二階へあがったんすよ」

「え……?」

「まあ、階段は普通に使えなかったんすけどね。ほら、あんたがご丁寧に外した天井があったじゃないすか。二階から見ると床になるっすけど……ともかく、俺はあの穴から二階へ上がっただけなんす」

「でも、あの高さじゃ……」

「確かに、壁蹴ってもちょっと届かない高さだったっすけど、でも、床の高さをあげちゃえば簡単に上れるでしょう? 例えば、足場を作るとか」

「あっ……」

 察する守。足場を作って上がるなんて、完全に盲点だった。

 というか、わざわざそんなことをするとは思っていなかった。

「いやあ、わざわざ罠の仕掛けてある客室から机を集めて足場にした甲斐があったっすよ。裏をかくのが忍者の仕事っすからね。おかげで、こうして一人捕まえることができたっす」

「……一人」

 ということは、一葉は上手く逃げたということか。

 不意打ちに気が付いて逃げることができるのは、さすが一葉といったところか。

「――おっと、いけね。口が滑っちゃいました。また姐さんに、口が軽いとドヤされちまうっすねぇ。……っと、ところで姐さんはどこっすか? たしか、あんたを追ってたはずなんすけど」

 失言をした割には気にした様子もなく、蚰蜒は守に問いかける。

「さあ、どうでしょう。今頃、一葉君のお友達と冬眠でもしてるんじゃないですかねぇ」

「ははーん。白を切るつもりっすね。だったらそうっすねぇ、あんまり得意ではないんすけど、拷問とかしないといけないかもしれないっす。正直に話せば、悪いようにはしないつもりだったんすけどねぇ……」

 守を縄で縛りながら、蚰蜒はそう告げる。男が縛られるなんて、誰が得するのかわからない光景だが、当の守はそんなこと考えてる場合ではない。

 ――え、拷問?

 蚰蜒の言葉に、血の気を引かせる守。

 当然ながら守はただの素人である。下手をしたら、腕にしっぺを繰り返された程度で根をあげるくらいに、痛みに対する耐性がない。痛みでなくとも――何だったらくすぐるだけで、笑い死にしそうになるぐらいに弱い。

 だから守は

「すみません許してください! なんでも話しますから!」

 何かをされる前に、あっさりと折れた。

 まあ一回か二回、嘘でもついて時間稼ぎすればいいか、くらいの気持ちだった。

「ん? 今、なんでも話すって言ったすね」

「はい」

「……だったら、俺は姐さんの胸について聞いたみたいっす」

 ゲジ顔――もといゲス顔で、守によくわからない質問をする蚰蜒。

「えっそれは……って、胸? 百足さんの?」

「はい。超、残念っすよねぇ……」

「まあ、確かに。これ以上、成長の可能性がないことを考えると、同情しちゃいますけど……でも、僕は嫌いじゃないですよ?」

「おや、それは奇特な」

「だって、僕は人を胸で判断しませんからね。胸なんて、所詮はその人を構成する一パーツでしかない。だったら、無い部分を愛でるより、あるところを愛でたほうがいいです」

「ほほう。それは例えば?」

「百足さんで言えば、そうですね。例えば、太ももとか、お尻とか。程よい肉付きで凄く素敵だと思います。それに、胸だって小さいけどいい形だと思いますよ」

 ニヤリと笑う守。

 ニヤリと返す蚰蜒。

「なるほどなるほど。あんた、良くわかってるっすね」

「いやいや、それほどでも」

 当人のいないところで好き勝手言い合って分かり合うゲス二人。いやまあ、当人の目の前で好き勝手言っていたら、半殺しでは済まないのだが。

「ところで、その姐さんの体なんすけど……」

 と、控えめに言って、守の耳元に顔を近づける蚰蜒。

「ごにょごにょごにょ……」

 とても公共の場では言えないことを守に吹き込む蚰蜒。

「ええ、本当ですか!? ぜひそれは拝んでおかないと! 早速、今から宴会場にっ――」

「宴会場に?」

「……あっ」

 うっかり、百足の場所を漏らしてしまう守。一回や二回は騙す予定だったのに、とんでもなく早い情報漏えいだ。まったく、とんだ早漏野郎である。

「さてと、じゃあ姐さんの様子を拝みに、宴会場とやらに行ってみますかね。確か、階段下りてすぐのところだったすよね」

「あ、ちょま! 違う、間違えた! 百足さんがいるのは、ここじゃなくてお風呂――」

「はいはい、じゃあ行きますよー」

 縛られた守は、ひょいと蚰蜒に担がれて、階段を降りていく。

「ちょ、ちょっと、どこ触ってんのよ!」

「尻っすね」

 裏声で生娘のように抗議する守の尻を、蚰蜒は小鼓を叩くかのように叩いた。

 男が男の尻を叩く、なんともまあ、むさくるしい光景であった。

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