強盗が家に押し入ってそれを男の子が追い返す映画が好きです
「いてて……」
赤い手形がついた頬をさすりながら、玄関まで戻ってきた守。ショートカットがあったため、帰ってくるのはそれほど大変ではなかった。行きが恐くて帰りはよいよいといったところか。
まあ、行きも帰りも、全て家の中の出来事なのだが。
「――随分とお楽しみだったみたいですね」
「!!」
突然、背後のすぐ近くから話しかけられて、守は慌てて振り返る。
そこにいたのは
「なんだ、一葉くんか……」
いつの間にか自分の背中にぴったりと張り付いていた一葉の姿を確認して、安堵する守。
「僕は『なんだ、まだいるのか……』と思いましたけどね」
「冷たいことを言うね。……でも、一葉君には残念な知らせかもしれないけど、僕はこの家に残ることを決めたよ」
「はあ……。やはりそうでしたか。表花様の言った通りでしたね」
ため息をついて、暗い顔をする一葉。
一方で、きょとんとした顔の守。
「……言った通り?」
「ええ。表花様が『守宮君なら、きっと家に残ってくれるだろう』と、仰っていましたから。……だから、僕がここに戻ってきたのは、あなたのためなんですよ?」
不本意そうだが、渋々といった様子で、守にそう告げる。
ちなみに、男のくせに何故か家本の声真似は完璧だった。
「僕のため?」
「はい。『守宮君の手伝いをしてきて』というのが今の僕に課せられた任務です」
「手伝い、ね……」
そんな任務を一葉にさせているということは、どうやら、家本は随分と先のことについても予測をしているらしい。察しがいいというレベルではない。
「それで、何か僕に手伝わせたいことがあるんでしょう? 別に、あなたを助ける気はないですが、これは任務なので。まことに遺憾ながら、協力してあげますよ」
あくまでも自分の意思ではないことを強調する一葉。
「よ、よろしく……」
……ツンデレかな?
と、守は思ったが、一葉を怒らせてしまうだけなので口には出さない。その代わりに、守は今後の予定を口にした。
「じゃあ、一葉君。僕は、大晦日にやってくるっていう本家の忍者とやらを迎え撃とうと思うんだけど、その準備を手伝ってくれるかな?」
「迎え撃つ?」
怪訝そうな顔をする一葉。
どんな手伝いをさせられるかまでは、家本に説明してもらっていないようだ。
「うん、迎え撃つ。僕は、まだこの家に住んでいたい。だから敵がやってくるというなら、迎え撃って追い返すしかない。なんせ僕は、この家の家主なんだからね」
「……はあ? 迎え撃つって馬鹿ですか、あなたは。相手はプロですよ? 僕と同等か、それ以上の腕の忍が、おそらく何人かでやってくるんですよ? それを、ただの素人であるあなたがどうにかできると思うんですか?」
かなり呆れている一葉。
しかし、それを守は気にした様子もなく質問に答える。
「どうにかできると思ってるよ」
「はぁ?」
「だって、この家にある罠は、元々そういう人たちの足止めのために作られたんでしょ。つまり、忍者も罠にかかるってことだ」
「……あの罠はあくまで足止めです。プロの忍だったら、気を付けてさえいればあれくらいの罠にはかかりません。あくまで、罠に気を取らせて時間を稼ぐのが目的なので、あれで追い返すのは不可能です」
一葉はきっぱりと、可能性を否定する。
しかし守は、ニヤリと笑って
「だったら、罠を強化して数も増やせばいいんだ。そもそも、今ある罠は永続的に仕掛けることを優先しているせいで、一つ一つの罠の性能はあまりいいわけじゃないし」
「そりゃあ、表花様が家を留守にしたときのことを想定して作ってますので。一回で使えなくなってしまう罠だったら、数人で押し寄せられただけで、あるいは連日押し入られるだけで、簡単に無効化されてしまいますし」
「だから今回は、相手がやってくるのが大晦日だと予測ができているんだから、使い捨ての罠をたくさん準備しておけばいいでしょ」
「……なるほど、一理あるかもしれません。しかし、あなたがどれほどの罠を作れるかにもよると思います。プロ相手に生半可な罠は通用しませんよ?」
と、尋ねる一葉にたいして、守は自身満々に返す。
「大丈夫。僕には罠に関するノウハウがある」
「ノウハウ?」
「僕のおばあちゃんは、イタズラが大好きでね。そのおばあちゃんに僕は子どものころから、家に帰る度に様々な罠にはめられた。友達を家によんだときは、友達も一緒にね。それを数十年とされてきた。だから、僕には結構、罠に関する知識があるんだ」
よく、智樹と一緒に宙吊りにされたものだ。
今は亡き祖母との思い出を思い出して、色んな意味で涙する守。
まあ、その経験のおかげで、家の中にあった罠を越えて、座敷牢の中へとたどり着くことができたのだが。……人生、何が役に立つかわからないものだ。
「あとは、強盗が家に押し入ってそれを男の子が追い返す映画が好きです」
「その情報は不安が増すだけなんですが……」
「てわけで、一葉君。罠作り、手伝ってくれるよね?」
「……はあ。わかりました。別に、あなたの腕は信用してませんし、不安もありますが。結局、それが僕の仕事ですからね。手伝います。まあ、どんな稚拙なものが出来上がったとしても、マイナスになることはないでしょうし」
なんて、まったく期待していない一葉。
守は、実際に出来のいい罠を作って、一葉に認めさせてやると、ひそかに心に誓う。
「よし、じゃあ、さっそく明日から罠作りに取り掛かるよ!」
「……まったく。どうして僕が、子どもの冬休みの工作の宿題を手伝う親みたいなことをしなきゃいけないんでしょうね」
無駄に張り切っている守に、一葉は落ち着いて文句を言った。
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