彼女の正体
「……ごめん、一重ちゃん」
「すまない、一重」
つい熱くなってしまった二人が、鉄の檻の前で、正座をして謝っていた。
「………………二人とも気持ち悪かった」
炬燵の中に入った一重が、不機嫌そうに言う。
「はい、反省してます……」
「すまなかった」
「別に、いつものことだから、気にしてないし」
そっぽを向く一重。
「それにしても、まさか家本さんも重度のシスコンだったとは思いませんでしたよ。僕と同じですね!」
「守宮君と一緒にはされたくないんだけど――」
家本が心外そうな顔をすると
――ブーブー
家本のズボンのポケットから、バイブ音。
「――おっと、失礼。電話だ」
立ち上がって、座敷牢の部屋から出ていく。
それを見送った守が「あっ」と言って何かを思い出す。
「そういえば、一重ちゃんに二階の罠について聞こうとしてたんだ」
「そんな話もありましたね」
「よし、じゃあ今から、じっくり聞こうじゃないか」
炬燵を鉄の檻に近づけ電源を入れて、中に足を入れる守。
檻を挟んだ向かいで、同じように炬燵に入っていた一重が「はあ」とため息をつく。
「……別に、じっくりと話すようなことはないんですけどね」
「そうは言っても、あんな仕掛けがあるのには何か理由があるんでしょ?」
「まあ、そうですけど……」
話すとは言ったものの、どこから話そうか迷う一重。
すると――
「その話、私も混ぜてもらおう」
と、電話から戻ってきた家本が、戸を開けて部屋に入ってきた。
「……よっこらしょっと」
そのまま、炬燵まで移動して、守から見て、右側面から足を入れる。
三人の人間が檻を挟んだ二つの炬燵に分かれて入っているという、傍から見ると少しおかしな状態になった。まあ、檻がある時点ですでにおかしいとも言えるが。
「お邪魔します」
「あっ、はい」
「ふぅ……」
腰を下ろして、一息ついた家本は
「どうやら状況が変わったようだ」
と、唐突に告げた。
「……はい? 状況? なんです?」
守が首をかしげながら問う。
「ああ。それが……もしかしたら、守宮君にはこの家を出て行ってもらわなければいけないかもしれない」
「えっ?」
「……どういうことなの、表花?」
黙っていた一重が、口を開く。
家本は、少し言いづらそうにした後、
「……家本の本家の人間に、この家のことがばれたらしい」
と、ゆっくりはっきりと、一重に向けて言った。
それを聞いて一重は、深刻そうな顔をする。
「どう、すればいいの?」
「まだ、どこまでこの家のことが伝わってるかはわからないから、なんとも言えないね」
「……そう」
「ちょ、ちょちょちょっと! 二人とも、何の話をしてるの!?」
怪しげな話をする二人の間に、守が割って入る。
「家本の本家って何!? 僕が出て行かなきゃならないって、どういう意味なんです!?」
家本の本家。超わかりづらい。ついでに家本家本家とか表現すると字面が意味不明。
「まあそう慌てない、守宮君。ちゃんと順を追って話すから。それに、これからどうなるかは、守宮君が自分で決めることだから、心配しなくてもいい」
「……はあ」
家本にたしなめられるが、釈然としない様子の守。
「まずは、そうだね。一重がどうしてこんな檻の中にいるか、説明しないとね。話してもいいかい、一重?」
「別に、いい」
頷く一重。
説明の承諾を得た家本が、話し始めた。
「一重は、簡単に言ってしまえば〝家出少女〟なんだ」
「家出……?」
怪訝そうな顔をする守。
家本の言葉が本当かどうか確認するため、一重の様子をうかがうが――不満そうな顔をしているものの、一重はとくに意義はないようだ。
「そう、家出。一重は、自分の家での扱いに辟易して、飛び出してきたんだ。大体、三年くらい前だったかな。あぁでも、勘違いはしないでほしいが、一重は思春期特有の反抗心で家出をしたわけじゃない。思春期だって言うなら今だってそうだしね」
「……表花」
余計なことを言うなと言わんばかりに、家本を睨む一重。
そんな一重を見て見ぬふりをして、家本は話を続ける。
「なんというか、妥当な家出だったと思うよ? 私が同じ立場だったら、きっと家出していただろうし」
「そんなになんですか。ま、まさか虐待とか……?」
心配そうな顔になって、問う守。
「うーん、どうかな。少なくとも、直接的な虐待は無かったよ。殴ったり蹴ったりはね。むしろ、丁重に扱われていた方なんじゃないかな」
「だったらなんで家出を……」
「――監禁されてたんだよ、一重はね。それも、家族でもない人間に。今のような、自分の意思で檻に入っているのとは違う、完全な監禁だった。自分の意思とは無関係に、檻の中に閉じ込められていたんだ」
「監禁……? なんで、そんなこと……」
古い時代では、精神に異常をきたした者や、出生に問題のある者を座敷牢に監禁することもあったようだが。
「……それを説明するには、一重の正体について言っておかないとね」
「正体?」
まさか、一重が宇宙人だとかUMAだとでも言うつもりなのだろうか、と守は疑る。
……しかし、対する家本の返答は、守の考えに当たらずとも遠からず。
似たり寄ったりの突拍子もないものだった。
「――一重は座敷童なんだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます