お邪魔しました

 そして、二人は食事を終えて。

 しばらく、のんびりと外の景色を眺めていると。

 年越しまでに家でしなければならないことがあるとのことで、河津がそろそろ帰ると告げた。

 もともと着ていた服は焼けて焦げ付いてしまったため、着れそうにもなく、河津は守に借りたスウェットの上にコートを羽織る形で帰ることになる。下着をつけていない河津の胸元には守も興味津々だったが、さすがに上からコートを羽織られると。その興味も薄れる。あぶっちゃけ、スウェットの上にコートという恰好は非常にダサいのだが、しかしスウェットを穿かなければ、下半身を丸出しでコートを着るという痴女チックな恰好になってしまうので、河津にも選択肢はないのだろう。

 そんなわけで、不恰好な服を着た河津は玄関に立つ。

「――それじゃあ、お邪魔しました」

「あ、バス停まで送ります」

「いえいえ。一人で行けますし、まだ明るいので大丈夫ですよ」

 と微笑んで、守の申し出をやんわりと断る河津。

「そう――ですか」

 断られてしまっては、それ以上、強く言えない守。

 河津さんが実は怒っているのでは、という思いもある。

 だから守は、家を出る河津を、玄関で見送るだけにしたのだった。

「それじゃあ、えっと……次に会うのは年明けですかねぇ?」

「ですね」

「では、守宮さん。良いお年を」

「はい。河津さんも、良いお年を」

 玄関先で手を振って、去っていく河津を見送る守。

 河津も、振り返った状態で手をぶんぶんと振りながら歩いている。

「あはは……」

 このまま手を振り続けていたら河津さんも振り返り続けているだろうなあ、と判断した守は、最後に会釈をして家の中に戻る。

「さてと」

 家の中に戻った守は、客室を片づけてから、座敷牢の部屋へと移動した。

「おーい、一重ちゃーん。空いた食器を回収に来たよー」

 と、守が声をかけると、一重が簾をあげて顔を出した。

「お願いします」

 とだけ言って、空になった食器とおぼんを守に渡す。

 渡した後に、空いた手をもじもじとさせて

「あの、お客さんはもう帰りました?」

 と、控えめに聞いた。

「ああ、うん。さっき帰ったよ」

「そうですか……。さきほど悲鳴が聞こえてたので、どうなったのか気になったんですが、無事なら良かったです」

 ほっとしたようにする一重。

 それを聞いた守が苦笑して

「それが無事ってわけでもなくて――」

 河津が二階に迷い込んだこと、そこで罠にかかったこと、そのあと池に落とされたこと、そして最後に、軽い火傷をしてしまったことを説明した。

「やっぱり……そうでしたか」

「……やっぱりってことは、一重ちゃんは、なんで二階にあんな仕掛けがあるかってことを知ってるの?」

「まあ……少しだけなら。話しましょうか?」

「ホントに? じゃあ、頼もうかな。あ、でも――」

「でも?」

「まずは、このお皿を〝さらっと〟片づけないとね! 皿だけに!」

 さらっと、キメ顔で言う守。

「………………」

 ――シャ

 真顔で無言の一重が、無情にも簾を下ろした。

「………………」

 空気を凍らせるつもりなんてさらさら無かった守は気まずくなって

「さ……さらばっ!」

 と、さらに、場を凍らせるようなことを言って座敷牢の部屋から去っていった。

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