Q.なんですかこれ? A.これは座敷牢です
家の内装は、外観に負けず劣らず、趣のあるものだった。
玄関のカギを開けて、守を出迎えたのは、木造家屋特有の木の匂い。どうやら、広い家ながらも整備は行き届いているようで、カビ臭さなどはしない。
守は手探りで電気のスイッチを押すと明かりがつく。オレンジ色の光が、玄関を照らす。どうやら、電気はしっかりと通ってるようだ。
高い天井に、広々とした空間。石畳の玄関は、何十人もの靴が並べられそうなほど広い。もちろん下駄箱もあり、まるで料亭にでも来たような気分になる。
「本当に、良い家だなぁ……」
靴を脱いで、家にあがりながら呟く守。
玄関から先に進むと、長い廊下が、正面、左、右、と三方向にのびていた。
守は、とりあえず電気をつけようとしたが、正面の廊下の先から、明かりが漏れていることに気が付く。
なんだろう、と首をかしげる守。気になった守は、明かりに誘われる虫のように、ふらふらと廊下の先へと進む。家の中にあるとは思えないくらい、長い廊下だった。一分弱、廊下を歩いて、ようやく突き当たりへとたどり着く。
突き当たりには引き戸があり、それが半開きになっているせいで、部屋から明かりが漏れていたようだ。開いた戸からは明かりだけでなく、温かい空気も流れてきている。どうやら、中の部屋は暖房などで暖をとっているようだ。
もしかしたら家本が部屋で暖房を使っていって、消し忘れていったのかもしれない。だとすると、電気代およびガス代が勿体ない。あるいはストーブなどを使っていた場合は火事になる可能性もある。そう考えた守は、暖房を切るために、戸を開けて中へと入る。
「うわあ……」
一面、畳の部屋だった。
畳特有の匂いが、鼻孔をくすぐる。
送った荷物だけが部屋の隅に、ぽつんと置かれている。
その部屋は、とても広かった。目に見える畳だけで十畳ほどはある。
目に見える畳だけ……何故、そんな表現をしたのか。それは、この部屋があるものによって区切られていて、すべての畳を数えることができないからだ。
「なに……これ……」
唖然とする守。
その視線の先には、部屋を区切っているなにか――無骨な〝鉄の檻〟があった。
鉄の檻に近づく守だったが、反対側に簾がかけられていて、檻の中を覗くことはできない。鉄の檻を押したり引っ張ったりしてみるが、びくともしない。
どうしたものかと、守が途方にくれていると
――カチン
突然、電気が消えた。部屋は、真っ暗に――はならなかった。檻の向こう側に天窓でもあるのか、月明かりが差し込む。そこで守は、簾の先に、月明かりで照らされた人の影のようなものがあることに、気が付いた。
「………………?」
「これは〝座敷牢〟です」
「うわぁっ!?」
いきなり話しかけられて、肩を大きく跳ねさせる守。慌てて、周りを確認するが、どうやら声は檻の――座敷牢の中にいる人影から発せられたようだ。
「あなたが、新しい家主様ですか?」
少年のように低い声が問う。とはいっても、口調の雰囲気に少年っぽさはない。
守は、声の主の言っている意味が分からず、聞き返した。
「えっと……どういうこと? というか、君は誰?」
影が揺れる。
「ああ……。表花はまだ話していないのですか」
「あ、もしかして家本さんのお知り合い?」
「そんなところです。にしても、説明するのは面倒ですね……」
はあ、と人影はため息をついてその場に――おそらく、座り込んだ。
すると――
「あっ……」
――ザッという音とともに、座敷牢を覆っていた簾が、上方に消えた。
座敷牢の内装が明らかになる。
守が今いる側と同じくらいの広さ。十畳ほどの畳が敷かれた部屋だった。
部屋には、いくつかの書架とたくさんの本が置かれているだけで、インテリアの類はほとんど無い。奥の方には、布団が敷かれている。部屋を暖めている電気ストーブだけが、部屋の様子からひどく浮いていた。
そして、月明かりが射す部屋の中央。
そこには、脇息――肘掛に肘を置いて座っている人の姿があった。
「申し遅れました。私の名前は一重ひとえ。この座敷牢の住人です」
月明かりに照れされた長い長い黒髪と、豪奢な着物を着た少女が、ニコリともせず無表情で、そう言った。
守は――息を飲み、十代前半にしか見えないその少女にしばし見惚れてしまう。
――これが、座敷牢の少女、一重と、若くして多額のローンを背負った男、守宮守とのファーストコンタクトだった。
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