同僚に尋ねて三分くらい
昼休みが終わり、午後の就業時間が始まる。お昼時が過ぎたためか、市役所の受付にはたくさんの訪問者がいて、なかなかに忙しそうだった。
昼食から帰ってきていた守も、書類を整理するために書庫にやってきていた。
書類の整理とはいっても、手元にある書類を分別して、書庫のファイルにいれるだけの仕事だったので、手元以外は割と暇だった。
そんなこともあり、守は一緒に書類整理をしていた同僚に、昼食時のことを話していた。
「それで、森井さん。行っちゃったんですか?」
守の同僚、同期でもある
口調からのイメージ通り、どこかふわっとした雰囲気がある女性だった。同期なので年齢は守と同じ二十四歳。服装もブラウスに長めのスカート、白にカーディガンを羽織る地味目な恰好だったが、本人の雰囲気によく似合っていた。髪色は明るい茶色、髪型は少し長めのボブ。背は、女性として高くもなく低くもなく、平均ぐらい。
中肉中背の守と並ぶと、ザ・一般人、といった感じがする。
「いやぁ、智樹の最後の言葉は、いったいどういう意味だったんですかね」
守は、書類を整理する手は止めずに、そう聞いた。
同じく、守の隣で書類をファイルに入れながら聞いていた河津が
「……親友が鈍感だと、森井さんも大変ですねぇー」
と、苦笑いをしながら呟いた。
「え? 河津さん。それって、どういう――」
「そういえば、守宮さんと森井さんって幼馴染なんですよね」
守の言葉を遮って、河津が聞く。
「あ、はい。そうなんです。実は、幼稚園のころからの仲で。小中高大と一緒で、まさか、職場まで一緒になるとは思いませんでしたよ」
「仲いいんですねぇー。まあ、守宮さんは正規職員で、森井さんは非正規の臨時職員だっていう違いはありますけど」
天然なのか、自覚があるのか、さらっと毒を吐く河津。
「……えっと、河津さん? そういう話を智樹の前ですると落ち込むから、しないようにお願いします」
「?」
きょとんとして首をかしげた河津は「まあ守宮さんが言うなら」と、一応、了承する。
「……助かります。それで、河津さんはどう思います?」
「どうって――マイホームのことですか?」
「そう、それです。確かに、一軒家で百万円は安すぎると思いますけど、別に大丈夫ですよねっ?」
何の根拠もないくせに、守は自身満々にそう聞く。
「えーっと……。どうでしょう? とりあえず、どんな家か見ないとわからないかと」
困ったような顔で、答える河津。
「そうですよねっ!? やっぱり、実物を見るまで、どんな家かわからないですよねっ!! それなのに智樹は、最初っから住めるわけがないと決めつけて……。もし良い家だったら、智樹のこと招待してパーティーしてやりますよ!」
よくわからない意気込みをする守にたいし、河津は苦笑しつつ
「それじゃあそのときは、私もお邪魔させてくださいね」
と、おそらく社交辞令の言葉を返す。
「ええ、もちろんですとも! そのときを楽しみにしててくださいね」
本当に楽しみにしている守は、何も考えずにそう答えた。
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