Scene47「地に起ちて、世の限りに護れよ―――守護者達《リンケージ》」


 海辺の戦場に次々と揚陸する三叉矛を構えた奈落獣のような怪物達。


 それを蹴散らすのは二隻の戦艦と世界に喧嘩を売ったテロリスト。


 そして、突如として現われたコロニーを守るようにして戦うガーディアン。


 世界の全てが混沌としていく最中。

 深海より近付いてくる巨大奈落反応はアビス・ガーディアン。

 それも未だこの時代には存在しないはずの恐竜型巨大母艦。

 一体、自分達は何を見ているのか。

 疑惑と困惑の渦中で。


 彼らは海面から顔を見せつつある敵艦の大型荷電粒子砲を警戒しながら相当数の敵を殲滅する事に成功していた。


 しかし、無限湧きかと思えるような化け物の残骸の山の先。

 海面に新たな変化が起きる。

 今まで浮上し続けていたはずの母艦の動きが止まった。


 それと同時に急激なアビス反応の高まりに白銀とギャラクシー級のメインブリッジにはアラートが響き渡っていた。


『アビス反応増大!! これはす、凄まじい上昇量です!! コクピットの気密性が下がっている機体はただちに後退して下さい!!』


『敵母艦より奈落反応がい、移動を開始?! こ、これって奈落獣なの?!!』


 ギャラクシー級のオペレーター達が次々に解析されていくデータを味方側の機体に転送していく。


 その合間にも八つの禍々しい赤黒い燐光の軌跡が母艦の上空に打ち上がり。


 一糸乱れぬ統率で直上100m付近で制止した。


『映像解析!! 拡大!! CG補正!! 表示します!!』


 リアルタイムで解析結果が各ガーディアンに送られる。

 それは八機のガーディアン。


 しかし、明らかに瘴気を放つアビス・ガーディアンに他ならなかった。


『データベース照合開始!! え?! 嘘ッ!?』


「報告は正確にしろ!!」


 信一郎の声に慌てたオペレーターがすぐにリンク先のガーディアン達にも同じ結果を告げる。


『機体形状より該当機種一機を推定。こ、これは共和国の62年製オーバーロード級ガーディアン!! ファタールです!!』


「何だと?!!」


 さすがに若き俊才も驚愕を隠し切れなかった。

 それは彼のいた時代の機体に違いなく。

 明確に未来技術の産物だったのだ。


『何だって?! マズイ!!? 全機全周防御!! イグニスの雨が来るぞ!! リーフィス!! 合体しろ!! サイコジャミングされるぞ!!』


 ケントが言った矢先。


 機体と同じアビスエネルギーを纏った大型小型合わせても100を超える無数の軌跡が乱舞した。


 上空からの絶対優位を確保したオールレンジ・イグニスバースト。

 次々に音速を超えた無線誘導兵器。


 イグニスのビーム砲撃が本来以上の出力を持って雨霰と全域に降り注いだ。


『Gマイクロミサイルッ!!』

『AAF全ッッ開ッッッ!!!』


 刹那にガオーカイザーが超高速のプライマルユニゾンを果たし、その勢いのまま両手を上空へと向けて、アンチ・アビス・フィールドを全開にして敵のアビスエネルギーのよる威力増加を中和。


 それに重ねてグラビトロンⅡのGマイクロミサイルによる飽和爆撃が射線を遮り、同時攻撃の手数を半数以下にまで抑える。


『テスタメントッ!!』


 ファリアが叫ぶと同時に跳んだガーディアン。


 二つのビームを遮る翅が上空から落ちてくる禍々しい光を戦艦から逸らし、弾いていく。


 だが、それでも変幻自在の連続攻撃を繰り出すイグニスの群れは二割程を損耗しながらも防御を潜り抜け、戦艦二隻に対空迎撃で破壊されるより先に数発を直撃させる。


 どちらの艦内にも轟音が響いた。


『きゃああぁぁああぁああ!?』


 オペレーター達の悲鳴。


 だが、それ以上に艦内ではすし詰めにされていたコロニーの人々が転倒や壁への激突で負傷していた。


「ぐッ、ダメージは!!」


『りょ、両舷のファランクスがやられました!! 副砲破損!! 艦内で負傷者多数!! 重傷者は報告されていませんが、もう一度喰らったら、一溜まりもありません!!』


 信一郎がメインモニター内で同じ様に被弾した白銀が煙を上げているのを見て、同程度の損害かと即座に判断。


 ただちに迎撃させようとしたが、周囲の護りに参加したガーディアンの大半が防御で手一杯になっていた。


「剛刃桜とザートはどうした!!」

「位置確認!! 敵母艦に到達!! 手を離せない様子です!!」


「くッ、彼らが母艦を落すのが先か。我々が落とされるのが先か。どちらにしろ此処が踏ん張り所か」


『神野艦長さん!!』


「大丈夫……いけるよ!! マナ」


『うん!! メインジェネレーター出力最大!! ステージモジュールセェエエエエエットアァアアップ!!!』


 今まで各坐していた桜色の巨躯が駆動した。


『マナ君!?』


 コロニーを救ったアイドル。

 それが命を落として尚、友と共に新たな軌跡を描き出す。


 km単位の体躯を持つフォートレス級ガーディアンの後背から次々に溢れ出した液体金属のようなALTIMAが瞬時に地面全体へと伝わり、自己組織化しながら戦艦二隻を囲い込む程に巨大な基地の如きメタリックな地面を現出させる。


『あなたのキスをッ、拒む理由は―――』


 突如として流されるアップテンポの曲に乗せて、歌声が響く。

 そして、誰もが呆気に取られた。


 巨大な、あの巨大なフォートレス級がその恐ろしい重量を感じさせる事なく舞っていた。


 まるで女の子のようにクルクルと。


 振り付けも鮮やかに煌くAL粒子の波を下から上に差すステージライトのように浴びながら。


 そうして、今まで絶え間ないビーム砲撃を展開していたイグニスの群れが、ダンスで広げられた腕を避けたかと思った瞬間、それが纏う圧倒的で膨大なAL粒子フィールドに曝されて爆散していく。


『乙女の涙ッ、分かってるんでしょ!!』


『イ、イグニス数13を切りました。今です!!』


 ノリノリで謳う超大型ガーディアンのキュートなダンスを前にして今自分が何をしているのかも忘れそうになっていたガーディアン達が明らかにアビス反応が減退したせいで動きの鈍ったイグニスを一斉射撃で打ち落としていく。


 負傷し、アビスのせいで気の立っていた人々すら、その艦内モニターに映る圧倒的なライブを前にもはや傷も忘れた様子で見入っていた。


「スゴイ!! スゴイよ!! マナ!!」


 フォートレス級の中。


 肉体を失い……それでも未だアイドルを已めない友人にアハトが涙を目の端に溜めて微笑む。


『そんな事ないよ。みんなみんな、此処にいる人達のおかげ。アハトちゃんのおかげなんだよ?』


 クリフ・リッケンバインはその声を聞きながら、艦内で破損箇所の応急修理に加わりながら、拳を握り締めていた。


 あの絶望した時とは違う……今度は全身を喜びに震わせていた。


 自分達はまだやれる。


 そう、艦内には生気が蘇っていく。


 *


「固いな。内部に突入するぞ!!」


 化け物達を薙ぎ払い。


 ようやく水面まで数十mというところで停止した巨艦の防御網を突破した剛刃桜とザートは真正面の恐竜型の顔の下。


 喉元へと大穴を開けて侵入を果たす。


 高速で通路を駆け下りる二つの機影が次々に艦内の防衛兵器を弾丸で刃で抉り、切り刻み、無力化しては隔壁すらもまるで相手にせず突破していく。


 そうして彼らが辿り着いたのは格納庫と思われる腹の中だった。

 通常の兵器類を保管しておく場所、には到底見えない。


 その最たる理由はその空間の中央に天井から床まで伸びる巨大な樹木のような肉の塊故だ。


「アビス反応検知……どうやらコイツが動力炉のようだな。それにしても何だ? このおぞましい肉の塊は……本当にこんなものが……」


 イゾルデが見た事も無いタイプのアビスの形状に眉根を寄せる。


「行くぞ。こいつを破壊して脱出する」

「いや、待て!? 声? 音声を拾った」

「何?」


 イゾルデが肉の樹を更に解析しようとした時。

 カパッとその中心の表皮が開いて何がニュッと浮き出てきた。


「―――ッ?!!」


 イゾルデが思わず息を呑む。


「す……て」

「何?」


 七士が僅かに眉根を寄せる。


「た……す、げ、でぇえええええええええええええええええええええ?!!?!?!!」


 それは人の顔。

 まだ若い女の顔面に違いなかった。


 肉に埋もれた女の瞳は血の涙を零しながら、人間とは思えない嬌声でケタケタと悲鳴を上げる。


「ゲテゲテゲテゲテゲテ!!!」

「下がれ!!」


 肉の樹木がブチブチと床から剥がれ。

 触手を全方位へ無数に槍衾の如く突き出した。

 それを剣でいなした剛刃桜の背後。

 ザートもまた何とか回避し、ナイフで切り払う。


「どうやらアビスの生贄にされた人物のようだな」


『いやいや、そう決め付けないでくれたまえ。彼女は未来からやってきた人類の科学に貢献してくれる心優しい宇宙人なのだ』


「誰だ!?」


 イゾルデが声のした方に機体のメインモニターを向ける。

 すると、肉の樹の横に白衣の老人。

 いや、まだ初老だろうという男が一人。

 虚空だというのに浮いていた。


『ロッテ・F・リグハール。それが彼女の名前だ。正確にはだった、だが』


「……見た事がある。その顔……ラーフ皇帝の片腕だった男。裏切り者として祖国を追われた……名前は……」


『ブラウニー等と呼ばれている。御手伝いの妖精だ。これでも献身的に陛下には仕えていたのだが、色々有って側から離れる事になるらしいな』


 七士が目を細めた。


「未来で宇宙人……そうか。お前が未来からの技術を使ってコレを建造したのか」


『ああ、未来は素晴らしい事になっているようじゃないか。彼女はどうやら地球侵略の尖兵というやつらしいのだが、君達の時空転移に巻き込まれたようだ。捕まえてみれば、彼女の機体は情報部関係だけあって、あらゆる情報の宝庫だったよ。新型のアビス・リアクターをこちらなりに再現してみたが、スゴイものだね。それにあのオーバーロード級も実に素晴らしい。これからは汎用機としてアレが人類の戦争で使われる兵器のスタンダードになるだろう』


「パイロットはどうした?」


『ああ、こっちで生産した強化人間の脳を移植してある。まぁ、クローン脳というやつだよ。これからは人間が戦う必要も無い。制御されたアビスとAI。そして、人の科学技術の精粋が異星人や異次元存在、並行世界、あらゆる領域からの侵略者を退ける盾となり、人類の未来を紡ぐだろう』


「外道め。奈落に溺れたアビテクノロジストに未来を語る資格などあるものか!!」


 さすがに元はノイエ・ヴォルフだったイゾルデが嫌悪に顔を歪めた。


「失敬。だが、未来から来た敗北者よ。君の祖国を救うのは私かもしれないぞ?」


「何だと?!」


「ラーフは大陸に興らない。そして、ヴォルフとの交渉が上手く纏まれば、世界はアビテクとの共存共栄。そして、“人類以外”を使った無限のクリーンエネルギーを手に入れるだろう。なぁに、人倫という奴は情報操作と利益の前には消し飛ぶさ。宇宙人の人格無きクローン脳やクローン体を使ったアビス・リアクターの開発と強化人間化したクローン脳によるオーバーロード級アビス・ガーディアンとそのAI制御による“無人兵器ドローン”戦力化プラン。これらはもう一通りロットを組んである。人類の戦争形態が変わるのだ。経済は無限のエネルギーの前に平伏し!! “人間ではないもの”を使うとなれば、未だ世界各地で困窮する人々もある程度は納得するだろう。君の祖国が失われる事は無いのだよ。君は大学生活を謳歌して、軍に入隊もせず。何処かでOLにでもなって、幸せな新婚生活でも送っているかもしれないぞ? まったく実に平和だ!! 地球に優しい!! 環境に優しい!! 人間にすら優しい世界の到来じゃないか!!」


 男の独り言にしては現実味の有り過ぎる具体案がイゾルデの臓腑に吐き気を催させた。


「ッ、七士!!」

「分かっている」


『戦うかね? 人類の未来の耀きを此処で潰えさせようとはいやはや、これだから兵士は短気でいかん』


 肩を竦めた男が片手で指を弾く。

 すると、肉の樹が天井からボトリと落ちた。


『ああ、分かっていると思うが、時間稼ぎは終わった。君達はコレを倒してもいいし、倒さなくてもいい。だが、一つだけ言う事があるとすれば……君達に時間はあまり残されていないという事か?』


「何?」


 そこでイゾルデと七士。


 いや、その場に存在するタイムトラベラーである多数の人間が身体の異変に気付いた。


 最初は目が霞んでいるようにも思えただろう。

 だが、違う。

 自分達の肉体が二重にブレている。


 そう、それは実態がこの世界において存在を確定出来る状態では無くなってきているという事の証。


 理論は分からずとも、その肉体の実感が誰もにタイムリミットという言葉を思い起こさせた。


『タイムトラベラー達よ。ALとはアビスと対極にある力だが、その根源は同一だ。邪悪だろうと正義だろうと人間は人間なのだ。そして、“人間は”基本的に時間軸を飛び越えられたりはしない。今の段階の科学では。さて、なら君達は何処から来たのだろう?』


 肉の塊の中で何かが形成されていく。


『時間を遡るという原理は恐らく“まだ”この時間軸には存在しない。いや、存在するかもしれないが、それが同一のようでいて、まったく別の並行世界である、という可能性の方が高い。つまり、君達は、だ。恐らく、過去の時間軸に似た並行世界である此処に到来しただけの異邦人という可能性が高い』


「何だと!!?」


『ワームホールの通過や別次元経由の空間ショートカットが可能なご時勢だ。この並行世界説もまた従来のものとは少し異なる。そうだな……従来の並行世界という単語は自分達の世界に似ている分岐した世界のようなものを仮定しているが、恐らく違う。時間跳躍ではなく。もし、それが次元跳躍だとしたら? 別の宇宙に存在する完全に別の星。しかし、殆どの世界の状態が自分達と同じ場所に跳躍しているだけだとしたら? それがもしもALやアビスの祝福。いや、選別結果なのだとすれば……』


「何を言っている!!?」

「呑まれるな!! 来るぞ!!」


 肉の樹の中で蠢く何かが影すら見せずに二機に突撃する。

 その合間にも虚空でブラウニーの独白は続く。


『アビスとは本来的には我々そのものなのではないのかと思うのだよ。何せ殆ど同じ遺伝子や文化、酷似した状況、人物、素粒子の振る舞いすらも同じかもしれない次元の果てに我々が跳躍出来るのだ。ならば、アビスゲートという門を潜る彼らアビスは何故“この世界のアビス”と邂逅出来ない? そう、それはもしかしたら、彼らが我々である可能性。少しズレた未来や過去、人の憎悪や不の感情を支えとする人類こそがアビスであった可能性に……』


「こ、こいつは何だ?!!」


 辛うじて突撃を避けた二機の隙間を縫って壁に高速で激突したソレが振り向く。


「ひ―――」


 イゾルデの口から思わず悲鳴が零れそうになったのは……少なくとも彼女の精神鍛錬が未熟だから、という事では無かった。


 そのアビスリアクターの内部より出てきたソレは無貌の何かだった。


 三面六臂。

 黒いのっぺりとした何も無い虚空を曝して。

 何処かの民族衣装を思わせる鎧と王冠を頂いて。

 蛸のような足を蠢かせ。


 何故か分かる口元の笑みだけが光学的に観測されたわけでもないのに分かる。


 それは嗤っていた。

 深遠を覗く人間を嗤っていた。


 確かに其処へ宿る意思があるとすれば、人類という醜悪で矮小な生物に対する嘲り。


 羽虫を潰すのにどうしようか悩むような嗜虐が見え隠れする嘲笑だった。


「おおおお!! 耀ける多面体よ!! 我々に加護を!! 力を!! 人類に新たなる叡智を!! ああ、ああ!! この方の下位でしかないお前の機体に勝ち目など無い。はははははっはははははははは」


 クシャ。


 そんな音がして、初老の男の姿が拉げたかと思うと。

 血飛沫を上げるでもなく。


 そのアビス・ビーストらしきものの虚空の無貌へと吸い込まれていく。


 最後に老人の言っていた言葉にさすがの七士も顔色を変えざるを得なくなっていた。


(まさか、剛刃桜と同種の―――)


 二機が咄嗟に距離を取って互いに壁際へ寄った刹那。


 三面六臂のソレが三つの面と六つの腕の先に巨大なアビスエネルギーを収束させ始めた。


「マズイ?! 逃げるぞ!!」


 剛刃桜が咄嗟に背後の剣達で隔壁に穴を開けてそのままイゾルデのザートを後にしたまま跳び下がる。


 次の刹那。

 巨大な巨竜型母艦が内部より膨大な耀きを放って爆発した。


『きゃぁあああぁああぁあ!!?』


「マナ?!!」


 その衝撃はステージ上で今も踊り、AL粒子フィールドを張っていたエピオルニスの膨大な質量すらも吹き飛ばす程の衝撃だったが、アハトによる操作で何とか踏み止まり、小型機と二隻の戦艦はその陰で何とか体勢を立て直す。


「ダメージコントロール!! 応急修理急げ!! 何が起こったか報告せよ!!」


 信一郎の声に次々艦の各部位がダメージを受け、即座に補修が開始された旨が告げられ、同時に敵母艦の爆発だとの声があらゆるデータで持って表示される。


「剛刃桜とザートからの連絡は!!」


「こちらギャラクシー!! 応答し―――通信来ました!! 繋げますッ!!」


『こちら、剛刃桜。ギャラクシーと白銀。各パイロットに告げる。これより本機は遅滞戦闘に移行する。敵奈落獣は恐らく単機で我々の現在の戦力を上回る力を発揮する代物だ。ザートは中破。パイロットは無事だが、いつまで持つか分からない。最もAL粒子フィールドの分厚い機体で近付き保護し、ただちに艦と共にこの場を離れたし。また、恐らくタイムトラベラーの内の何割かが、元の時代に戻る予兆が発生しているはずだ。ソレが発生していない者がいれば、この時代に残される可能性が高い。ただちにこの世界のシェルターや軍事施設に預ける必要がある。此処から出来る限り離れたら、近付いてきている部隊の通り道に救難信号付きで降ろす事を提案する。空を飛んでいる最中に我々が消える可能性を考慮しても、速やかに移動を開始されたし』


 突如の事に追いつかないものが多い中。

 それでも信一郎だけは全体を俯瞰して、何とか状況を飲み込んでいた。


「了解した。そちらはどうする?」


『限界まで殿を務めた後、撤退する。それまでは確実に止めてみせよう。合流は考えなくていい。この世界から放逐されれば、恐らく距離は関係無いだろう』


「分かった……各自、撤退開始!! 彼の献身を無駄にするな!! 一人でも多くの人々を守り切るんだ!!」


 その命令が剛刃桜を見捨てるに等しいと理解している現場のリンケージ達の一部に信一郎の秘匿回線が開く。


『悪いが、彼の言う事は恐らく本当だ。爆心地から浮上しつつあるアビス反応は……恐らく我々がどうにか出来る範疇を超えている。艦に多数の民間人を乗せている以上、無茶は出来ない。未だ、ファタールの半数も稼動している。この場で釘付けになるのは危険だ。悪いが此処は何も言わず撤退支援をしてくれ』


 それに唇を噛んだ各機のパイロット達だったが、それでも今は民間人を犠牲に出来ないと次々に戦艦の後退を支援する為に終結し、後方へと退避していく。


 オリハルコンカイザーが海辺に置かれていた四肢の砕けたザートを回収し、ただちにギャラクシーへと向かう。


 最大の壁であるエピオルニスの望遠レンズの先。


 海中から出てきた異様な姿のアビス・ビーストが映し出され、それを見たパイロットやオペレーター達の中にはあまりの悪寒に僅かに硬直する者もあった。


 そんな混沌とした状況の最中。


「アイラさん……」


 ディスプレイを食い入るように見詰めていたアイラの鬼気迫る表情に傍で心配そうにソフィアを声を掛ける。


「七士様……ッ」


 唇を噛んだ横顔。

 それに「ああ」と彼女は思う。


 目の前の人にとって、あの少年は父や母、家族のような存在なのだと。


 もしかしたら、それ以上なのかもしれず。

 しかし、自分には戦う術が無い。

 その歯痒さはソフィアにも理解出来るものだ。

 何とか国の為にと謳い続けてきた彼女だからこそ。


 その自分の無力さを知れば、力を求める気持ちは痛い程に分かったのだ。


 寄り添う少女の手を肩に感じながら。

 戦うべき場所に自分がいない。


 その気持ちに歯噛みしながら、アイラ・ナヴァグラハは主の無事を祈る事しか出来なかった。


 *


 剛刃桜。

 その操縦席の上で。


 名も無き男は目の前のアビス・ビーストから感じられる気配に確かな悪意を感じ取っていた。


 その感触は何処か現在の愛機に似ており。

 しかし、似て非なるモノ。

 加護による一斉起爆。

 アカラナータの超重起動。


 それを前にして機体が塵になっていないのは剛刃桜の絶対的な防御能力。


 緑炎のおかげだ。


 しかし、それにしても盾にした七本の剣には今や罅が入っていた。


 加護は防ぎ切った。

 しかし、それ以外の要素が介在している。

 それは間違いない事だろう。


 本質的にALやアビスとは違う力がその敵からは渦巻いているのが彼にも感じられた。


「神霊結界……揺らいでいるのか。お前に封じ込められたモノが」


 複数の触手が海上で佇む剛刃桜に向けられて無限にも思える長さまで伸び上がったかと思うと一斉に攻撃を開始した。


 剛刃桜の七剣が次々に触手をいなして時に斬り飛ばすが、敵の嗤みは崩れず。


 上がっていく攻撃速度。


 次々に吹き上がる衝撃の際の水柱が沿岸部に巨大な津波となって押し寄せる。


 その打撃に次ぐ打撃。

 連打に次ぐ連打。

 それは明らかに劣勢の剛刃桜を弄ぶ動きだった。


「こちらの侵食に目を瞑れば、まだ対抗出来るが、持つか?」


 独り言。

 だが、それが独り言でない事を彼は知っている。

 今、此処には彼以外のいないというのに。


「まぁ、死ぬよりはマシか」


 緑炎を殆ど使わずに曲芸的な回避軌道で触手を避け続けていた機体に海中から不意の一撃が入る。


 しかし、その本来なら小型機など一撃の下に破壊するだろう触手が炎に彩られて焼き切られる。


 その色彩は緑。


 全身から溢れ出した緑炎を前にようやくアビス・ビーストもまた本気か。


 自らの触手を収めた。


―――ようやくか。


 二つの影が交錯する海上を眼窩に衛星軌道上を浮遊する高高度飛行船が一機。


 悠々と封鎖された周辺空域を泳いでいた。

 その真下に世界を望む展望ブリッジの最中。

 一人、貴族然としたノーブルスタイル。

 青み掛かった紳士服を身に付けた男が静かに呟く。


 少し額が後退した老人は眼鏡に制帽、外套を羽織った奇妙ないでたちの少女を横にカップから紅茶を一口啜る。


「さて、どう見る?」

「あなたが意見を求めるとは珍しい……」


「“山の老人”と呼ばれても、然して未来が見えるわけでもない。予測は可能だがね」


 少女が視線を窓に向ければ、全面がすぐにディスプレイへと変化し、剛刃桜と異質な奈落獣との戦いを写し出す。


「ヴィジター達のおかげでこちらの被害は最小限。更にアレを放逐出来るのなら、この世界の猶予はあちらより幾分あるでしょう」


「……出来なかった場合は?」


「押し付けられなかった時は考えましょう。その時間は残っているはずです。帰還者達が来る前に。あの恐竜達が戻る前に。変わってしまった我々よりも先に、最後の審判を下そうと焦る彼らがやってくるまでの時間を掛けて」


「ふむ……短時間の操作権を解放しよう。助けてあげたまえ。我々にとっても彼は貴重な逸材だ」


「ディアスポラ計画の為に?」


「いいや、それは全てに優先はするが、今回は純然たる善意からだよ」


「善意とは一体何を指す言葉なのか。妖しくなりますね」

「……彼には借りがある」

「借り?」


「ああ、“彼女達”を解放してくれる者がいるとは思ってもいなかった。それくらいはいいだろう。東と西。東西の魔女。ああ、懐かしい。君の前の前任者……いや、君へ至る為の道にいた彼女達。これは感傷というやつだよ。エリス・ハート・アーガス」


 人類初のスターゲイザーにして、もはや存在しないはずの女の名前で呼ばれた彼女が苦笑する。


 全てを分かり合う星を見る者なればこそ、その老人と自分の間にある感傷という言葉のズレを彼女は指摘しなかった。


「いいでしょう……システム・イグニス……スタンバイ・レディ……仮想質量機実体化開始。処理は全て支部のフリズスキャルブで賄います。良いですね?」


「久しぶりに身体を動かすのも良いものだ。そろそろお暇させて貰おう。結果だけ後から報告してくれたまえ」


 老人が展望ブリッジの外へ向かう扉の先へと消えていく。


 そうして、今正に緑炎と雷撃が乱舞する只中へと北極圏と北半球に存在する最も近い現場にテラネシア支部の各地から超高速のレールガン。


 その砲弾を思わせる速度の何かが向かっていく。


「無限の煉獄を行く者……その道行きに僅か支援を……」


 少女は呟き瞳を閉じる。


 彼女の脳裏に展開される13機の映像は海上で嵐となった直径120kmにも及ぶ広範囲の世界を俯瞰的に捉えた。


 超高濃度のアビス反応を発生させる成層圏付近まで続く積乱雲の如き渦。


 その渦中へと彼女の手足たるモノが急速降下していく。

 全ての機体が見たのは地獄。

 そう、六つの手が無尽の光刃を翻し、七つの剣と打ち合い。


 無限の触手が世界を覆い尽すように上下左右前後無く張り巡らされた魔の海域。


 吼え炊ける緑炎が触手を覆い尽くせば、其処は地獄というに差し支えなかった。


―――何だ?


 自らの戦うフィールドを触手で制圧され、それを焼き払いながら、激突していた少年が呟く。


 その合間にも遥か天空から何かが高速で降りてきていた。

 13の反応が彼らから上空4km地点に到達し―――。


『サテライト・システム・スタンバイ。超容量ALコンデンサ動作正常。仮想質量生成。属種ビッグ・キャノン……照射開始』


 世界各地の大企業が有するエネルギー伝送システム。


 太陽光発電衛星より大規模なマイクロウェーブを受信する設備の半数が約6秒間、その機能を途絶した。


 そして、その事実に設備を運営する全ての会社が口を噤み。


 また、地表埋設型の大規模蓄電池のフル稼働により、地球圏のエネルギー事情が僅かな電圧低下というだけで済んだ事で大半の者達は……政府すらもその重大なエネルギー保証上の大問題に気付く者は無く。


 膨大なマイクロウェーブがその巨大な海上の渦の中心へと13機の経由衛星の自壊と共に成功する。


『サテライト・キャノン発射』


 巨大な光芒。


 振り落ちる13本の超々規模ビームが渦を吹き飛ばし、世界に光の柱を出現させる。


 全てのものが煮え立ち。

 蒸発し、焼き焦がされ。


 だが、しかし、それでも、二体はその中で溶かし込まれそうな閃光の中で斬り合っていた。


 展開されていた触手の蔓延る世界は海域毎消失し、気化爆弾を何発一斉に投下したのかと思うような茸雲が上がる。


 それでも戦い易くなった事の方を喜ぶべきか。

 剛刃桜の片刃の大刀が相手の腕を二本斬り落としていた。


 次でトドメまで持っていけるかと翻された刀が逆袈裟に振り上げられようとして、剛刃桜の頭部に光刃が突き刺さる。


「―――ッ」


 途端、機影が燃え上がるようにして緑炎に呑まれた。


「クッ」


 それだけではなく。


 機体内部で自分の身体が三重にまでブレて見え始めた七士がマズイと思った刹那。


 剛刃桜を筆頭に化け物も巨大なフォートレスも二隻の戦艦も周囲のガーディアンも消え失せていく。


 フッと翳っていた世界に光が差した。

 遺されていたのはコロニー住民の大半だけ。


 そして、彼らは何とか巨大な爆発や光の柱の衝撃を緩和してくれた自分達を助けてくれた者達の姿が無い事に気付いて胸に手を当てる。


 それは異質なる存在が消えた世界に残る彼らが確かに守ったものの形に違いなかった。


 *


 異相。


 そうとしか表現出来ない長いトンネルのような空間の中央。


 二隻の戦艦と全てのガーディアン達は―――剛刃桜だったものが無残にも四肢を四本の刃に貫かれ、頭部に刃を受け、コックピットを貫かれている場面を見ていた。


 異様なる奈落獣もまたただでは済んでいない。


 下半身を斬り裂かれ、二本の腕は先端がそのまま刃になっている事からも幾らか斬り落とされたのは確実。


 だが、それでも決着は付いたか。

 即座に動く者が無かったのは僅かな希望。


 化け物が制止している最中であるならば、まだこの謎の紺碧の空間内でパイロットが血の染みになっていないかもしれない、という希望を持っていられたからなのかもしれなかった。


 しかし、その願いも虚しく。


 四肢が斬り落され、緑炎の溢れ出し、まるで自壊するように機影が包み込まれて彼らの方に流されてくる。


 化け物は動かない。

 いや、再生中なのは誰にも分かった。

 緑炎には触れない。

 触れば、どうなるか。


 それはある程度、パイロットから言われていた為、救出活動すらも出来ない。


 だからこそ、残された者達に出来るのは戦う事だけだった。


「よくも七士をッ!! 行くぞッッ!! デス&リバァアアアアアアアアスッッッ!!!」


 オリハルコンカイザー。


 いや、ガオーカイザーの両腕が共に手前で握り締められる。


「行くぞッ!! ブラック・ホールキャノンッッ!!」


 時間跳躍の鍵と言われていたソレの封印を解いたグラビトロンⅡが背後から巨大な砲身を前に翳した。


「艦主砲照準!! 火力を集中させるぞ!!」


 信一郎の指示に自らを呈して彼らを守った剛刃桜に続けとオペレーター達が満身創痍の艦を完璧に制御して一部の隙もなく主砲をプログラムの誤差も手動で補正し照準する。


「彼の戦いを無駄にするわけにはいかないッ!! テスタメント!!」


 その大きな翅を広げて、ビームライフルがファリアの声に従って敵を照準する。


「マナッ!!」


『うんッ!!』


 生き残る為の詩を。

 皆を奮い立たせる為の詩を。


 此処で死なせるわけには行かないとエピオルニスの本来ならビーム砲があったはずの場所から巨大な黒い棒が突き出し、それが手に取られて握られた。


 それは数十m単位のマイクだ。


 口元に寄せられたそれに巨大な顔の奥から噴出したAL粒子に乗る声が出力され。


 全身の本来ミサイルが出ていたはずの装甲の隙間からは無数にスピーカーが迫り出した。


 一斉射。


 ブラックホールキャノンの直撃に続いて、その最中でも形を保つ化け物の肉体のあちこちに艦砲やビーム砲、飽和するミサイルが乱射された。


 その威力の一極集中する場所に後方から加速したガオーカイザーが両腕を突き込む。


「ぬぅうううううううううううううううううううああああああああああああああああああッッッ!!!」


 未だブラックホールキャノンの重力異常が残る場所への直接攻撃は両腕に亀裂を入れさせるが、それも構わずに巨体が敵を突き抜けた。


 上半身の完全なる消滅。

 しかし、それで尚その三面のニヤケ面は歪まない。


「ッ―――」


 すぐに振り返ろうとして、相手の固さと重力異常の影響で損傷した機体が思うように動かず。


 キュゴッとガオーカイザーの右肩を抉った顔だけの化け物が嗤いながら、口から雷撃を吐き出す。


「ぐあぁああああああああぁあああああああああ?!!」


 その威力は剛刃桜と戦っていた時と聊かも変わらず。


 傷だらけのUMマシンがあまりのエネルギーに纏っていた殆どのALフィールドを剥ぎ取られて、吹き飛ばされる。


 戦艦の方へと吹き飛んできた巨体が何とかエピオルニスによって受け止められるが、その合間にも各種のミサイルや実弾の攻撃をものともせず。


 ゆっくりと化け物が首から下を再生させつつあった。

 それもすぐにたった10秒程度で終わってしまう。


 絶望に負けまいと謳い続けても、意思が人の力になろうとも、それは確かに敗北を意識させるに十分な彼らと化け物の力の差だった。


 限界まで粘る事は可能だろう。

 だが、最大攻撃力であるガオーカイザーの損失はもはや明らか。

 残る攻撃はブラックホールキャノンの零距離射撃。


 もしくはグラビトロンⅡの自爆くらいかと内部でケントが覚悟を決める。


 それを待っていたか。

 化け物が再びの三面六臂で顔と掌に巨大な光の球を出現させる。


『アビスエネルギー増大!? あ、あれは加護?! ト、トールと思われます!!』


「トール九発だと?!!」


『神野艦長さん!! エピオルニスちゃんを盾にします!! 皆さんも下がってください!!』


「ダメだ!! マナ君!! それよりもこちらも回復した加護でどうにかする!!」


『いえ……この空間に来てから何度か試したんです……でも、加護は発動しませんでした。恐らく、この空間があの奈落獣に力を与えて、私達から力を奪ってるんだと思います』


「何だって!?」

「これは加護が発動しない?! くッ、リーフィス!! お前の方は!!」

「う……悪い……ジークフリードは無理、そう、だ……」


「マナ?!!」


『ごめんね。また……でも、此処で皆を死なせるわけにはいかないから、だから……』


 彼らの死の覚悟を前にして愉悦するか。

 化け物がその全てのエネルギーの塊を真正面に向けた。

 神様と祈った者はいなかった。

 祈る神を持つ者すらもただ悔しげに相手を睨み付けていた。


 そして、射出された膨大なエネルギー塊の一撃がエピオルニスを抉り抜き、戦艦もガーディアンも諸ともに破壊しようとした刹那。


 緑炎が吹き上がり、その一撃を受け止める。


「七士?!!」


 全損に近い剛刃桜が僅かな推力で前に出た刹那。


 自分を燃やし尽くすように炎を顕現させて、直撃を全て受け切ったのだ。


 しかし、その代償は大きく。


 胸部コックピットが消滅し、頭部のみが炎の消え去った状態でグラビトロンⅡに掴まれる。


 そして、ガーディアンに乗って外部にいた者達は見た。


 襤褸屑のように焼き崩れそうな肉体がゆっくりと彼らの前に漂って―――。


「七士様。今行きます」


 ギャラクシーの外部ハッチが開く。

 パイロットスーツに身を包んだ少女が前方に飛んだ。

 その身体が前から漂ってくる少年を抱き止める。


「せめて、貴方の傍で……」


 もはや勝敗は決したとばかりに六つの腕が雷撃を纏って、彼らに向けられた。


 続く雷撃が人の意識よりも早く、AL粒子フィールドを穿つかと思われた時。


 世界の全てが遅々として停止した。


―――あら? 泣いているの? あなた……。


 不意に顔を上げたアイラが全ての静止した世界の中。


 己の前に柔らかそうな笑みを浮かべてワンピース姿で佇む二十代後半程の女性を目にした。


「……誰?」


 もはや、失われた者は戻らない。

 だから、此処で生きられる芽が無いのなら、せめて傍で。

 そう覚悟して飛び出した彼女に女性はコロコロと微笑む。


―――まぁ、乙女ね……それに素質もあるみたい。


「素質?」


―――そうよ……貴方は作り物じゃなかったんでしょうね。


「私は……作り物です」


―――あはは、そう思ってるだけよ……良かったじゃない……あなたには戦う力がある。


「力、なんて……この人を守れず、私は、私は……ッ」


―――まだ知らないだけ……スターゲイザーもPKも魔法ですらも……それはあなたの手の内よ……私と同じでね。


「あなたは……?」


 ふと、彼女は自分の前に立つ人物の影が自分の影に伸びている事に気付く。


―――昔ね。最後の魔法使いの系譜が一人……重力を制御するガーディアンを作ったの。それは神に至る道……私は才能に溢れていた。けれども、奢っていたのね……全て無くしてしまった。けれど、あなたはまだ間に合うわ。叡智と技術を貸してあげましょう。でも、才能と意思はあなたが払うのよ。全てを取り戻したいと願うのなら……彼女も手伝ってくれるそうだし、ね?


 彼と彼女の前に何が顕れていく。

 それを前にして初めて。

 そう初めて。


 化け物の人の認識にしかない口元が唇の端を吊り上げようとするのを止めた。


 巨大な重力井戸。

 トンネルの内に開いた穴より何かがせり上がってくる。

 全長70mはあるだろうか。


 その重厚な鎧を思わせるディティールはガーディアンという工業力の粋でありながらも、何処かファンタジックにも見えて、メタリックな紫黒色の超重装甲からしても、何処かオカルティックな装いであった。


 最重量級のミスティック。

 そのようにも見えるだろう。


 だが、違うと一目で分かるのは巨大なマシンの各所が何処となくグラビトロンⅡにも似ているからか。


―――グラビトロン……いえ、貴女が望むのはきっと未来……ならば、純白なる未来を目指す者、純粋なる者ライナーと呼ぶべきかしら。


「グラビトロン・ライナー?」


 全ての色が抜け落ちていく。

 あらゆる黒さを捨て去るようにソレは確かに眩く白き影となった。


―――染め上げなさい……自分色の未来をッ!!


 巨大な腕が少年と少女をその手に乗せ持ち上げる。


【破れたとて、戦う術ならまだある……未来を守る為に今一度の力を……神霊結界再構築】


 自分の横に誰か立っている。

 それをアイラが見上げようとして。

 しかし、そっと肩を叩かれ、止められた。


【マガツヒ・システム緊急起動……バックアップ解放。AGシステム修復開始……NALPF生成……CODE/OKITUKAGAMI……さぁ、蘇りなさい。憎悪の源ならあそこにあるでしょう?】


 人々の終焉。

 死という結果。

 全ての途絶を前にして、何者かは……彼女は語る。


【終りもなく戦った日々が報われている……それだけでいい……この機体の全ては奴らを滅ぼし、未来を得る為に……例え、それが我が身と世界を滅ぼすとしても……意思ある限り、貴方に敗北は無い。剛刃桜……いえ、鍛えられし刃持つ皇……】


「―――剛刃皇ごうじんおう


 焼き崩れた肉体の内側から再生した体躯が無傷の肌を曝していく


「七士様?!」

「済まない。迷惑を掛けた」

「いえッ!? いえッ!!!」


 少年は見えざる声の主のいる場所。

 否、最初から存在していた箇所を見る。

 グラビトロン・ライナー。

 その前方に浮かぶ小さな機体の頭部。

 周囲にはただただ黒い霧が凝っていた。

 それが凝集したかと思った刹那。

 膨れ上がり、弾けるようにして外套を形成する。


 解けた衣の中から出でたのはイヅモの伝統的な鎧のようにも見えた。


 小型ながら、全身に漲る力は隠しようもなく。


 霧の一部が少年を包んだかと思えば、パイロットスーツらしきものを形成する。


【奴らが人を無限に憎悪するならば、それを糧として無限に戦い続ける。それこそが答え……覚悟があるのなら、八千矛剣やちほこのつるぎを執れ。神すらくじく者よ】


 霧の中から一太刀。

 抜き身の業物が現われる。

 それは古びれた柄の代物。


 だが、少年に握られた途端、黒霧が吹き出し、少年の全身に黒い幾何学模様の刻印を刻んだ。


 その象形は七本の剣。

 剛刃桜が召喚し、使い果たしたソレそのものの形であった。


「最後の剣はオレか」


【なればこそ、貴方は選ばれた】


「いいや、違うな。間違ってるぞ」


【何?】


「オレが選んだ。だから、此処に在る!! 行くぞ!! アイラ!!」

「はいッ!! 七士様!!」


 二つの影が其々の力に導かれ、その胸に抱かれて沈み込んでいく。


 装甲を無視し、世界の理も知らず、一体となって繋がれ始める。


 導いた者達。

 二人の彼女。

 その人の認識にしか現われぬ姿。


 互いを互いに直視してから、二人がフッと笑んで反対側に歩いて消えていく。


 刹那の邂逅が終わった途端。

 戻る時間の中。


 突如として現われた純白の機体と漆黒の機体を前に何が起こったのかも分からない周囲が驚愕に固まる。


 未だ、雷撃だけが停止していた。

 まだ時間の頚城が解けないかのように


「こちら剛刃皇ごうじんおう。七士だ」


「こちらグラビトロン・ライナー。アイラです」


 両者が互いに通信を入れ。


 誰もが驚きに次ぐ驚きにもう笑うしかなくなっていく。


 何がどうなっているのか。

 それは全て後回し。


 ただ、彼らの前には厳然たる事実として、彼らの仲間が蘇った。


 新たな力を携えて立っている。

 それだけで良かった。


「加護はもう使えるはずだ。行くぞッ!! あいつを消滅させるッ!! 全火力を叩き込めッ!!」


 新たな戦端が切られた。

 雷が停止したまま霧散し。


 その合間にも半壊していたガオーカイザーが加護イドゥンの力によって復元されていく。


 悠々と進む白と黒。

 それが引き連れる戦艦にガーディアン。

 正しくこれが決戦。

 だが、それを前にして無貌の化身は嗤えず。


 絶叫にも近い耳障りなおぞましい血肉を擦り合わせたような怒声を張った。


 それに艦砲が吼え応える。


「砲身が焼き付いても構わん!! 全火力を投射しろッ!!」


 鼓舞する声も勇ましく。

 ギャラクシーと白銀が正しく武装の廃熱も何も考えず。

 出来る限りの砲弾を叩き込む。

 続いたのはイゾルデだった。


 意識が戻ったその足で破壊された仲間達のザートのパッチワークで繋いだ機体を借り、残る部下と共に出撃したのだ。


 その三次元高速機動を前に三面六臂も手を出しあぐね。


『一斉攻撃ッ!! トールッッ!!』


 単なるナイフの一撃が六回。

 しかし、同時に精密に完璧に化け物の全ての手を斬り落とした。


「行くぞ。奥の手だ。持って行け!! グラビトロン・アクセラレイター!!!」


 急激な重力変調の先。


 刹那、空間歪曲による超連続跳躍がグラビトロンⅡを常識を超えた速度で化け物へと接敵させる。


 その手にあるのはブレードだ。

 それも実体剣である。

 こんなものに斬られるものか。


 そう化け物が思ったとしたならば、甘かったと言うべきだろう。


 斬り付けた直後に反撃を見舞おうとした顔が機体を喰らおうと動き。


 が、その次の一瞬後には反対側が斬り付けられている。

 反撃を掛け様としたところで全ての動きが無駄となる。

 空間跳躍による連続斬撃。


 一瞬で消えては現われるグラビトロンⅡの速度はもはや神速。


 慣性集中による威力増加は質量を持った近接武装だからこそ更に威力を増し。


 重力波を打ち込む脆化破砕が如何なる物質もその頑強さを失わせるのだ。


 斬撃が化け物の顔の一つを斬り落とした時。

 加護ミューズの神速行動は終り。

 だが、そこから更に射撃兵器の全てが残弾0まで撃ち尽くされた。


 その勢いで後退する相棒を横に突撃したのはファリアのテスタメントとリーフィスのガオーカイザーだ。


 ガオーカイザーの盾となったテスタメントが球形の小型エネルギー供給随伴機を伴い。


 再び化け物の口から放たれた雷撃をAL粒子フィールドに出力を過剰に供給しながら弾き散らした。


「させないッ!! バルドルッッ!!」


 その背後、突撃中の巨体が前方に手を伸ばす。


「次元干渉場展開!! ディメンジョン・オープン―――勝利の鍵を此処にッ!!」


 その途端、ガオーカイザーの前方空間が歪み。

 黄金色の鍵にも見える剣の如き武装が姿を顕す。


「ハンマァアアアッ、コネクトオオオオオオ!!!」


 まるで斥力でも働いているのかという圧力を発するソレが無理矢理に掴まれた瞬間。


 機体の装甲表面が原子レベルで分解され、剥離し、黄金色の耀きに染まっていく。


 次元の彼方。

 その鍵に導かれ。


 自らの背後へと引き抜いたカイザーの手にした柄の先には実態も朧な光の塊が実体化していた。


「ディバイン・クラッシャーッ!! レディッッ!!!」


 急激な耀きの高まり。

 それに機体の装甲そのものが罅割れていく。


 その隙間から溢れるALそのものが、アンチアビスフィールドが、ただ一点、その巨鎚へと収束する。


「今ですッ!!」


 ファリアが寸前で横に退いた。

 距離1230m。

 だが、その長き道を黄金の巨人は刹那に詰める


「―――未来を閉ざす闇よッッ!! 光となれぇえええええええええええええええええええッッッッ!!!!」


 戦鬼咆哮。

 巨神突撃。


 その避けられぬ雷神の鉄槌が擦れ違い様に胴体へとブチ込まれ。


 抗おうとする敵存在を光へと還しながら加速する。


「ジィイイイイイイクフリィイイイイイイイイイイドッッ!!!!」


 ガオーカイザーの正面。


 何処までも永劫に続くかと思われた世界の中心に巨大な次元の歪み。


 壁が現われる。


 そして、螺旋の軌跡を描いた光鎚の一撃が次元の狭間でインパクトした。


 超々規模収束AL粒子の激発。


 次元と光の狭間で極所的に起こった全てを崩壊させる事象の究極を前にして胴体が欠片も残さず消え失せた。


 それに絶叫の怨嗟を上げながら、それでもしぶとく二つに減った頭部のみが罅割れながらも瞬時の離脱を見せる。


 だが、その場所には更なる死が待ち構えていた。


「今だよ。お家のない人!!」

「ああ!!」


 桜色の巨人エピオルニス。


 加護ヘルモードによって出現したそのkm単位構造物の胸元。


 辛うじて上半身のリペアが終わったMMM-PS4イーグルがギャラクシーに積まれていたオプションであるレールガンを無理矢理に改造した得物で敵を狙い撃つ。


「そこが弱点だッ!! 逃がしはしないッ!!」


 クリフが狙撃部隊張りの射撃を見せた。

 顔と顔の隙間。

 喉に入った亀裂を見逃さず。


 レールガンの一撃が本来ならば、傷すら与えられないだろう敵を貫く。


――――――ッッッ!!!


 声為らぬ声が絶叫を上げる。


『今だけはわたしだって!!』


 巨人の片腕。

 指先にセットするタイプの機構が作動した。


『エンタングルワイヤ-発射ッ!! エレクトリックダウンッ!!』


 マナの射出したカーボンワイヤーによって絡め取る。


 割れた顔面の半分が蠢きながら再生しよう複数に分裂しながら、その口元の牙を自らを絡め取る電撃の投網に突き立てた。


「これならッ!! よくもみんなをッ。冥府の轟雷ッッ!!! ネルガアアアアアアアアルッッ!!」


 今にも網を突き破りそうだった無数の顔が瞬間的に跳ね上がる電磁ワイヤーから送られてくる衝撃の指数関数的な増加に耐え切れず。


 エピオルニスによって強化された加護で焼き滅ぼされていく。


「後一つ!!」


 残る顔面がダメージに顔を歪めながらも憤怒の表情を形作る。


「終わりにしましょう」


 その再生を始めた顔の背後。

 白き巨人がその腕の間に顔面を受け入れ。

 巨大な球状の重力檻に閉じ込める。


「使い方が分かる……これが私の力……時空の凍結……赤方偏移、わたしだけの世界……パラシンクロイザー出力最大……偏差把握感応システム起動。スキャン開始」


 時空の凍結。


 正しく神の如き力を振るうグラビトロン・ライナーから離れていく球状時空結界の最中。


 顔面の中心部にある箱状のものがCGデータとして最優先攻撃目標として捕捉された。


「これが敵の中心部です!! 七士様」

「了解したッ!!」


 肩に乗っていた剛刃皇が前に出る。

 その手には何一つ剣は持たれていない。


「行くぞ。剛刃皇!!」


 無手にして加速。

 それに自己の存在の危うさを感じたか。


 時間を限りなく制止させたはずの顔面に三つの燃える三眼が現われる。


 そして、その瞳は確かにその小さな禍つ魔神を凝視した。

 三眼の直前に黒き雷が収束し、時空の檻を突破して、放たれた。


「やらせない!! WS《ホイーラーステップ》サーキット解放ッ!!」


 その三雷が剛刃皇に直撃する寸前、上空に開いたワームホールに引き寄せられて吸収されていく。


「NALPF収束!!」


 漆黒の外套を形成する黒霧がその両手と背後に無数の剣と化していく。


「これで終わらせる!!」


 時空の檻が消滅した。

 三眼の周囲から伸びた触手が結界を割り砕いたのだ。


 そのまま突撃してくる化け物を前に周囲の剣を引き連れて加速した機影が瞬時に触手の先に形成された無数の黒い球体。


 恐らくは無限のように沸く加護の一撃に振り下ろされる。

 最初の一撃で二つ。

 だが、それでどうにかなるはずもない。

 無数の加護が機影を狙っている。

 なのにどうして二つ消した程度で良い気になるものか。

 再び口元が笑みを形作ろうとして止まる。

 それは触手の一つ。

 加護が20は載ったはずの自身の一部が消失したからだ。

 動転する、という感情があるのかどうか。

 その三つの瞳が細められる。

 途端、見えたのは乱舞する剣撃。


 一太刀に一つの加護が切り裂かれ、雲散霧消するならば、それが100必要だろうと1000必要だろうと遣り遂げる。


 ただ、それだけの動き。

 舞うように美しく。

 高貴ですらあるかもしれない無駄一つ無い殺意の連続。


 無限に湧く黒き剣が見えもしない速度で自身に叩き込まれ続けているのを知覚した刹那。


 初めて、その三つの瞳が人への憎悪以外。

 恐怖に歪む。

 禍つ魔神の背後。


 もう一機の純白の魔神が彼らの“時”を加速させていた。


【――――――ッッッッ】


 触手の増殖。

 加護の量産。

 一撃。

 一撃当たれば、敵は吹き飛ぶ。


 だが、その一撃が、その最後の一擲となるはずの力が生まれた瞬間に塗り潰されていく。


 漆黒に、無に、存在の破却が、消えていく実存が、絶対の邪悪に相手を憎ませる。


―――憎むならば、憎め……それを否定はしない……糧を得て、オレは進むだけだッ!!!


 それが幻聴だったのか。

 化け物には分からない。


 だが、見開かれた広がった三眼がその内部に最後の加護を起動する。


 ルドラ。


 全てを巻き込み消滅する。


 この異相そのものを消し去るはずの一撃はしかし黒き刃がいつの間にか刺さった瞳の奥で消失した。


「お前の油断はあの男に自分をガーディアンとして製造させた事だったな」


【―――?!!!】


 吼えた瞳の両際が乱杭歯となって剣を喰らい折った。

 また、その幾本かが機体を貫く。


「七士様?!!」

「言ったはずだ。オレは進むだけだと!!!」


 裂空乱舞。

 機体が破壊されるのも構わず。

 機影が神速の踏み込みを見せた。

 フツノミタマ。


 己の傷を力に変えての神速の連続斬撃が触手も瞳も何もかもを打ち砕いていく。


 漆黒の霧はもはや液体と化し、血潮の如く溢れながら刃を無限に生成し、敵を零へと近付けていく。


 必死に逃れようとする最後の瞳の一つが無数の刃先で貫かれた時、現れたのは化け物の中心核。


 それは異様な肉の箱にも見えた。


「消えろッッ!! この世界からッッ!!!」


 黒き刃でも傷一つ付かなかったソレを前に外套が、鎧が、剛刃皇の全てが燃え上がる。


 あぎとが開かれ、その奥にある象形文字と円環が浮かび上がった。


 それは獣の如き咆哮。


 荒れ狂う緑炎が黒き憎悪の力と混じり合い、機体を幾何学模様というよりはレムリアの魔法陣のように彩っていく。


「斬―――」


 緑炎の波紋浮かぶ黒き剣が箱を断ち割った。

 しかし、その中身は未だ無傷。

 耀く多面体が薄っすらと転移の予兆を放った刹那。


 機体と同じ刻印を肉体に刻まれた少年が装甲を擦り抜けて跳んだ。


「はぁああああああああああああああああッッッ!!!!」


 虚空で刀を振り抜いた彼の背後。


 一撃で断ち割られたソレが急激な黒の侵食に曝されて罅割れ、消滅した。


 そうして、全ての元凶が断ち割られた中心部で空間が捻れ、引き込まれていく。


 それに誰もが対処するより先に収束した一点へ全ての機体が呑み込まれていった。


 *


―――機構暦???年??月??日。


『先日未明、突如としてイヅモ市郊外に現われた戦艦二隻と巨大フォートレス及びガーディアン群に付いての続報です。イヅモ当局は戦艦が多国籍企業フォーチュン傘下のPMC所属である事を明らかにしました。尚、突如としての転移現象に付いては数ヶ月前にラグランジュ各地で起った重力場異常騒動の際にアビスゲートに酷似した事象に巻き込まれた為とされ、異次元へと消えていた間の記憶が無いと証言する搭乗員達に対して再聴取を行う予定であり、レコーダーの解析作業を並行するとの声明が発表されました。現在戦艦及びガーディアンは軍の管理下から元の所属への帰隊準備が進められており、一週間後を目処に調査は終了する予定との事です。では、次のニュースです』


 小さなディスプレイの電源が落とされた。


 リモコンを持った主はヒタヒタとサンダル履きで階段を下りて、誰もいない貸し倉庫内で何やらペライ一枚の書置きを眺める。


 それには『夏休みの旅行に行ってきます』との文言が書き込まれている。


「あの雇われさんが夏休みの旅行と来たか。ははは、まったくこっちは大変だってのに……剛刃皇……グラビトロン・ライナー……厄介事は全部こっち任せかい」


 その声の主が外に出ようとしたところで不意に扉の前に黒ゴス衣装の金髪美少女がいる事に気付く。


 ワルモンヌ・ワルシュタイン。


 世界的な悪の組織の首領は暑いに違いない衣服の布面積の多さにダラダラ汗を掻きながらも、出てきた女を見て、目をパチクリさせた。


「これはこれは……おチビさんじゃないか」


「うぬ? プロフェッサーか。ネームレス殿はご在宅ではないのか?」


「ああ、雇われさんは高校の仲間達と愉しい一夏のバカンスだよ」


「何じゃと!? ぐぬぬ、無駄骨か!!? く、こうなったら、この腹いせに美術館襲撃じゃ!!」


「何しに来たんだい?」


 思わずイライラを犯罪に転化しようとした少女に女が尋ねる。


「何、そう大した用事でもない。闇ルートで手紙を頼まれただけじゃ」


「手紙?」


「ああ、ラーフからのな。大そうな御仁がルートを使って送ってきたのじゃ。本来は手渡ししたかったのじゃが、しょうがない。そちらに渡して構わぬか?」


「ああ、帰ってきたら渡しておこう。ん?」


 端末に着信。

 中身を覗いた女が苦笑した。


「ちょいといいかい?」

「何じゃ?」


「どうやら、あの子達は海で愉しんでるようだよ。あんたも襲撃なんてしてないで、旅行に行って来たらどうだい?」


 端末を見せられたワルモンヌが覗き込んだ画面に浮かぶ画像に思わずフルフルと震えた。


 其処には表情の何処となく固い七士とその左腕を占有するアイラ。


 その横に半眼となったゲオルグ。


 それを見つめてニヤニヤしているのはクリス、サナエ、タカト。


 また反対側には璃瑠と弓拿とアヤとミナトと宗慈が缶ジュースを片手に浜辺に座っている。


 そして、彼らの背後でアイラと同じ様に大胆な黒のビキニを纏ったイゾルデがグラサンをして、浜辺で寝そべっていた。


「くぅうううううううううう!!!? ワシもバカンスの旅にゆくぞおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 その一夏の思い出が果たしてどうなったものか。


 もしかしたら、ワルモンヌ・ロボが騒動を起こすかもしれないし、そうではないかもしれない。


 ただ、それでも言えるのは……まだ、彼らの夏は始ったばかり。


 世界はまだ滅んでいないという事だけだった。

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